【22】
ギルド“獅子の牙”を出て、まっすぐに【ローザンヌ魔法のお店】へ向かった。
「いらっしゃいませ。おや?ヨウコどうしたの?」
いつも笑顔で訪れる洋子の表情が珍しく曇っていたからだろう。
>>さすがローザさんだ。
『実は…』
洋子はローザさんに全て話した。
「そう。Weatherの魔法をね。ここ数年の春の宴はマンネリ化しているから白羽の矢が立ったのね、きっと。オズ皇子の御婚姻の儀は「恵土の月」だから先だしね」
『変幻で姿を変えたらダメですかね?』
そこへ、店の扉が勢いよく開いた。
「いらっしゃい、カイル」
>>治療院はどうしたのかな?
「ヨーコ、聞いたぞ!春の宴で先頭に選ばれたらしいな?」
思わずローザさんと顔を見合わせた。
『カイルさん、情報早過ぎですよ?』
ローザさんは私達に紅茶を淹れてくれた。
「私は直々に聞いたからさ。噂の黒髪娘が行進となれば皆盛り上がるだろう?」
『この間も言われましたが、その“黒髪娘”って私の事ですよね?』
カイルさんは天井を見上げながら紅茶を美味しそうに飲んでいた。
ローザさんは色っぽくカイルさんを睨んで、
「カイル?貴方が噂を広めたんじゃないでしょうね?」
「いや、私ではない。ヨーコはライト騎士のお気に入りでオズ皇子に認められた冒険者だ。あの花鳥風月の準レギュラーだし私やローザとも懇意にしているから噂や注目は仕方ないじゃないかな?」
ローザは大袈裟にため息をついた。
洋子は自分の容姿が客観的に目立つのだと今頃気付いた。
『やっぱり変幻しよう』
「噂で広まっているから変幻しても無駄さ。黒髪はそのままにしないと野次が飛ぶかもしれん」
カイルさんはからかうように言った。
「考え方の変換ね。普段は髪を隠すべきね」
ローザさんは洋子にウインクした。あまりに艶やかなしぐさでドキドキしてしまう。
『帽子を買いに行こう』
ーーーーー
オズ皇子の遣いが来る前夜。
荷物はボックスにあるし、シヴァが付き添いを務めてくれるというので、黒曜石と金剛石を装飾にした首環を渡していた。
………コンコンコン。
部屋の扉をノックされた。
「ヨーコ、まだ起きてるか?」
トイが扉越しから話しかけた。
扉を開けるとトイは部屋に入り椅子に座ったので洋子はベッドに腰掛けた。シヴァは定番の洋子の左肩ではなく窓枠に止まった。
暫く沈黙が続いた。
「あのさ、明日城へ行く時、俺を連れて行って欲しい」
トイの真剣な眼差しに吸い込まれそうだ。
『トイも一緒に来てくれるなら安心できる。心強いけどいいのかな?』
「心配なんだ。ヨーコが国に関わると抜け出せなくなると嫌だからさ」
トイは洋子の隣に腰掛けた。
「俺はヨーコの傍にいたい」
洋子の頭を優しく撫でる。
『トイ…』
>>私が20才のオンナのコなら絶対勘違いしちゃうよ?
見上げたら金色の瞳がキラキラしてる。
………!!!
トイは洋子の頭を抱えるように自分の胸へと引き寄せた。
「ヨーコ、もっと俺を頼れよ?一人でやろうとするなよな?」
『トイ…ありがとう。明日一緒に来て下さい』
「あぁ。ずっとヨーコの側にいる」
トイの力強い腕や逞しい胸の中は暖かくて居心地よくて安心する。
>>ダメ。トイの優しさに包まれて誤解してしまう。世話好きなリーダーを好きになってはいけない。
でも今夜だけは甘えさせて下さい。今だけでいいから…
「おやすみ、ヨーコ」
トイが挨拶をして洋子の部屋から出て行ったのは真夜中寸前だった。
洋子はトイの言葉が嬉しくてベッドに横たわるとすぐ安心して眠りについた。




