35歳のシンデレラ 大道芸人編 76
人間は、平等ではない…
つくづく、このアムンゼンを見て、思った…
が、
そのアムンゼンとて、幸せではない…
アラブの至宝と呼ばれる、優れた頭脳を持っているにも、かかわらず、外見は、3歳の幼児にしか、見えない…
小人症だからだ…
だから、サウジアラビアの王族という由緒正しい家に生まれ、金も腐るほど、あるにも、かかわらず、このアムンゼンは、決して、幸せでは、なかっただろう…
だから、それを、思えば、人間は、平等かも、しれんと、思った…
人間は、平等かも、しれんと、考え直した…
なにもかも、恵まれて、育った人間は、皆無だからだ…
アムンゼンのように、金や地位に恵まれて生まれても、外見に恵まれない…
そんなケースは、世の中にいっぱいあるだろう…
美男美女に生まれても、同じ…
美男美女に生まれても、家が、貧乏だったりすることは、多いに違いない…
だから、それを思えば、すべてを持って生まれた人間は、いない…
そういう意味では、人間は、平等…
間違いなく、平等だ…
真逆に、美男美女に生まれて、家が貧乏だったり、頭が悪かったりするのも、また、困りものだ…
なぜなら、美男美女は、目立つからだ…
そして、誰もが、そのルックスに憧れるからだ…
が、
その美男美女が、家が、貧乏だったり、頭が、悪かったり、すれば、笑いものだ…
なまじ、ルックスが、いいから、良くも悪くも、目立つことになる…
だから、そう考えれば、人間は、平等かも、しれんかった…
何度も、言うように、すべてを、持って、生まれた人間は、いない…
ルックスも良く、頭も良く、家も、お金持ち…
そんな人間は、滅多にいない…
また、仮に、そんな恵まれた人間も、今度は、性格が悪かったり、仕事ができなかったり、どこか、欠点があるものだ…
だから、すべてを、持って生まれた人間は、いない…
そういうことだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…さっきから、なんで、ボクを見ているんですか? 矢田さん?…」
と、アムンゼンが、聞いてきた…
当たり前のことだ…
私は、一瞬、悩んだが、ずばり、
「…いえ、殿下も、こんな豪華な家に、お住まいで…」
と、言ってやった…
すると、明らかに、アムンゼンの顔が、曇った…
「…矢田さん…殿下は、やめて、下さい…」
「…どうしてだ?…」
「…矢田さんに、殿下と言われると、バカにされているように、思います…」
「…どうしてだ? 誰もが、アムンゼン、オマエを殿下と呼ぶじゃないか? …どうして、私が、オマエを殿下と、呼んでは、いかんのだ?…」
「…それは、矢田さんだからです…」
「…私だから…」
「…そうです…」
「…どういう意味だ?…」
「…それは…」
なぜか、アムンゼンが、答えに、窮した…
「…それは、矢田ちゃんだからよ…」
いきなり、マリアが、口を挟んだ…
「…なんだと? …私だからだと?…」
「…矢田ちゃんは、いつも、面白いし、いっしょにいて、楽しい…だから…」
マリアが、一気に言った…
が、
次の言葉が、見つからなかった…
3歳のマリアには、うまい言葉が、見つからなかったのかも、しれん…
すると、今度は、母親のバニラが、
「…殿下は、変にお姉さんに気を使ってもらいたくないの…」
と、笑った…
「…なんだと? …どういう意味だ?…」
「…お姉さんは、あったかい…面白い…なにより、楽しい…お姉さんが、変に殿下に気を使うと、お姉さんの、長所が、きれいさっぱり、消えてしまう…」
「…」
私は、どう返答していいか、わからんかった…
そもそも、私の長所と言ったところから、怪しかった…
私に長所は、ない…
これは、断言できる…
ずっと、以前、リンダとの勝負のときに、それは、わかった…
それは、自覚した…
あのとき、リンダは、私となにか、得意なもので、勝負をすると、言った…
それは、例えば、料理でも、剣道でも、ボクシングでも、なんでもいい…
数学でも、漢文でも、いい…
どれか、一つの競技で、勝負をしたい、と、リンダは、言った…
私の得意分野で、勝負すると、断言した…
が、
私に得意分野など、なかった(涙)…
誰と、闘っても、自分が、勝てる自信がある、分野など、なかった…
だから、困った…
困ったのだ…
私は、それを、思い出した…
今、私の長所と言われて、思い出したのだ…
私が、そんなことを、考えているから、つい、
「…私の長所…」
と、呟いた…
つい、口に出てしまった…
すると、間髪入れず、
「…矢田さんの長所は、愛されること…誰からも、好かれることです…」
と、アムンゼンが、言った…
「…矢田さんは、誰からも、好かれます…誰からも、愛されます…そんな人間は、滅多にいません…ボクの知るところ、矢田さんぐらいです…」
「…なんだと?…」
「…父も兄も、きっと、矢田さんと会えば、変わります…」
「…なんだと? …私と会えば、変わるだと? …なにが、変わるんだ?…」
「…意固地な心がなくなります…」
「…意固地な心だと?…」
「…父も兄も、頑固者です…だから、一度、ぶつかると、互いに引かなくなります…」
「…」
「…もっとも、それは、サウジアラビアの王族に生まれ、地位も名誉もある暮らしをしているからでしょう…この日本で、普通にサラリマンでも、していれば、それは、できない…」
「…どうして、できないんだ?…」
「…普通は、どんな人間も、自分が、悪くないと思っても、相手が、自分より、地位が上の人間なら、自分から、謝るしか、ないものです…だから、それを思えば、父も兄も、今、ケンカをしているのは、やはり、父子だからでしょう…父子だから、互いに遠慮する必要が、ない…だから、遠慮なく、ケンカが、できる…」
「…」
「…でも、もし、そこに、矢田さんが、いれば、父も兄も、ケンカをやめるかも、しれません…」
「…どうして、私が、いれば、ケンカをやめるんだ?…」
「…矢田さんは、楽しい…矢田さんは、面白い…矢田さんといると、心が、ホッと、安らぐ…だから、ケンカをしている自分が、バカらしくなる…変に肩肘を張って、いるのが、バカらしくなる…」
アムンゼンが、真顔で、呟いた…
正直に、言って、私を褒めているのか?
はたまた、けなしているのか?
よく、わからん内容だった…
が、
ふと、見ると、近くにいる、バニラも、オアマンもまた、また、笑っていた…
声には、出さんが、明らかに口元が、笑っていた…
私は、頭に来た…
頭に来たのだ…
私は、マリアを、見ようとしたが、止めた…
3歳の幼児の反応など、見ても、仕方がないからだ…
代わりに、太郎を見た…
太郎なら、私の気持ちをわかってくれると、思ったからだ…
が、
なんと、その太郎も、また、笑っていた…
いや、私の気のせいかも、しれんが、ニヤニヤと笑っていた…
少なくても、私には、笑っているように、見えた…
私は、ショックだった…
実に、ショックだった…
私の息子同様の太郎が、私を笑っているとは、思わんかったのだ…
私は、それを、見ると、一気に肩の力が抜けたというか…
体中の力が、抜けた気持ちになった…
それこそ、この場を去って、布団に入って、寝たくなった…
それほどの、ショックだったのだ…
すると、
「…どうしたの? …矢田ちゃん?…」
と、マリアが聞いた…
「…なんでもないさ…」
私は、反射的に、答えた…
「…なんでもないのに、どうして、そんなに落ち込んでいるの? …矢田ちゃん?…」
「…私が、なんでもないと、いったら、なんでもないのさ…」
私は、言った…
が、
その言い方は、少々、きつかったかも、しれんかった…
マリアの顔が、こわばったというか…
当惑するのが、わかった…
すると、それを、見た、アムンゼンが、すぐに、
「…矢田さん…子供相手に、言葉が、きつすぎますよ…」
と、私に不満を漏らした…
「…なんだと?…」
「…マリアは、まだ3歳なんです…35歳の、いい大人の矢田さんが、マリアに不満をぶつけて、どうなると、言うんです…」
「…」
それを、言われると、言葉もなかった…
その通り…
まさに、その通りだったからだ…
だから、言葉もなかった…
「…すまんかったさ…マリア…」
と、私は、マリアに詫びた…
「…すまんかったさ…」
と、重ねて、詫びた…
が、
そのときに、ふと、気づいた…
なにかが、おかしいと、気づいた…
これは、直観…
ハッキリ言って、理由など、ない…
虫の知らせという、やつだ…
なんとなく、おかしい…
ふと、気づいた…
なにが、おかしいのか、自分では、わからん…
ただ、なにかが、おかしいと、気づいた…
それは、もしかしたら、今の太郎の反応かも、しれんかった…
太郎が、私を見て、笑ったのを、見て、気づいたのかも、しれんかった…
これまで、太郎は、そんな真似をしたことは、ない…
だからかも、しれんかった…
そして、そんなことを、ふと、考えて、この面子を見た…
今、ここにいるのは、私、矢田トモコ…
バニラ、
バニラの娘のマリア、
オスマン、
そして、アムンゼンだ…
なにかが、おかしい…
いや、
もしかしたら、これは、当たり前かも、しれんが、なにか、納得できないというか…
とにかく、なんだか、わからんが、おかしかった…
だから、私は、ふと、アムンゼンの顔を見た…
ジッと、アムンゼンの顔を直視した…
いや、
凝視した…
「…な、なんですか? …矢田さん…どうして、ボクをジッと、見つめるんですか?…」
アムンゼンが、言った…
が、
それは、なぜか、私には、焦ったように、思えた…
だから、わざと、
「…アムンゼン…オマエの目的は、なんだ?…」
と、言った…
いや、
聞いてやった…




