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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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71/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 71

が、


 それを救ったのは、母親のバニラだった…


 「…マリア…そんなことを、言っちゃ、ダメ…」


 と、優しく諭した…


 「…このお猿さんは、お姉さんの息子同然なの…」


 「…矢田ちゃんの?…」


 「…そうよ…マリアが、このお猿さんを、嫌いになれば、当然、お姉さんも、マリアと遊んでくれなくなるわ…」


 「…マリアと遊んでくれなくなるの? 矢田ちゃんが?…」


 「…そうよ…」


 「…それは、困る…」


 マリアが、喚いた…


 「…矢田ちゃんと、遊べなくなったら、困る…」


 「…だったら、マリアも、このお猿さんと、仲良くしなきゃ…」


 バニラが、言うと、マリアが、


 「…」


 と、黙った…


 マリアが太郎と仲良くなりたくない、気持ちは、ミエミエだった…


 すると、だ…


 太郎が、いきなり、マリアの前に出て、手を差し出した…


 まるで、握手すると、言わんばかりだった…


 が、


 マリアは、拒んだ…


 当たり前のことだった…


 「…マリア…お猿さんと、握手してあげなさい…」


 バニラが、命じた…


 が、


 マリアは、できんかった…


 だが、私は、それで、いいと思った…


 これまで、嫌っていたものを、突然、好きになれと、言っても、出来るものでは、ないからだ…


 だから、


 「…マリア…ムリをせんでも、いいさ…」


 と、私は、マリアに、言った…


 「…太郎を好きになってくれなくても、いいさ…でも、嫌いにならないで、欲しいのさ…」


 「…矢田ちゃん…」


 「…太郎は、男さ…立派なオスさ…マリアが、今は、太郎を嫌いでも、我慢するさ…きっと、マリアも、いつか、太郎を好きになる日が来るさ…」


 私が言うと、マリアが、


 「…矢田ちゃん、ごめんなさい…」


 と、私に詫びた…


 「…いいさ…でも、詫びるのは、私でなく、太郎さ…マリア…」


 「…太郎?…」


 「…この猿の名前さ…」


 私は、言った…


 「…この猿の名前が、太郎?…」


 「…そうさ…」


 「…どうして、太郎なの?…」


 「…それは…」


 私も返答に詰まった…


 それは、この太郎を連れていた、あのアンナという女が、


 「…太郎…」


 と、この猿の名前を呼んだからだ…


 だから、私も、なんの躊躇もなく、太郎と呼んだ…


 が、


 それを、今、このマリアに説明するのは、面倒臭いというか…


 どう、説明しようか? と、悩んでいると、

オスマンが、


 「…さあ、早く…」


 と、私たちに言った…


 「…いつまでも、ここにいては…」


 オスマンが、急かせた…


 私も、オスマンの言葉で、急いで、周りを見た…


 さっきも、言ったように、すでに、見世物状態だった(爆笑)…


 こんなところで、いつまでも、話していては、堪らん…


 見世物になる…


 あらためて、そう、悟った…


 だから、私も、


 「…さあ、行くゾ…」


 と、声を上げた…


 が、


 すでに、この矢田を取り残して、みんなが、歩き出していた…


 この矢田と太郎を取り残して、歩き出していた…


 太郎が、残っているのは、この矢田が、太郎の首につけたひもを、握っているため…


 だから、動けん!


 だから、太郎は、残った…


 残ったのだ…


 が、


 その太郎もまた、みんなの後を追いたそうだった…


 だから、私は、それを、見て、ショックだった…


 この太郎も、また、ホントなら、この矢田を置いてゆくつもりだったのか?


 と、思ったのだ…


 私は、初めて、この太郎に、疑念を持った…


 持ったのだ…


 すると、バニラが、


 「…お姉さん…なにを、しているの? …グズグズしていると、置いてちゃうわよ…」


 と、取り残された、私と太郎を振り返って言った…


 「…すぐに、行くさ…」


 私は、言った…


 そして、太郎を抱きかかえると、私は、走り出した…


 

 オスマンが、用意したクルマは、意外にも、ロールス・ロイスでは、なかった…


 日本製の大きなクルマだった…


 「…なんだ? …このクルマは?…」


 と、私は、聞いた…


 「…トヨタのアルファードです…」


 オスマンが、答える…


 「…どうして、このクルマなの?…」


 バニラが、聞いた…


 「…大勢の人間が、ひとつクルマに、乗るには、このクルマがいい…」


 オスマンが、答える…


 「…クルマなど、どうでもいい…」


 アムンゼンが、言った…


 「…走れば、いい…」


 アムンゼンが、続ける…


 私は、その言葉で、意外にも、このアムンゼンは、見た目を気にしないのだと、気付いた…


 これは、意外だった…


 お偉いさんは、見た目を気にするものだ(笑)…


 要するに、自分が、偉いと、周囲に、見せびらかすというか…


 自分が、いかに、偉いかと、周囲に、認識させたがる人間が、多い(笑)…


 だから、少しでも、高いクルマに乗ったり、男なら、若くキレイな女を近くに、置きたがる…


 要するに、自分が、いかに、金を持っているか? とか、いかに、若い女にモテるか?

 とかを、周囲にアピールしたいのだ…


 周囲にアピールしたいが、ために、高いクルマに乗り、若くキレイな女を身近に、はべらかす…


 そういうものだ…


 が、


 それが、もしかしたら、このアムンゼンには、ないのかも、しれん…


 それを、思うと、実に、不思議だった…


 不思議だったのだ…


 なにしろ、言っちゃ、悪いが、このアムンゼンは、小人症…


 ホントは、30歳だが、3歳の子供にしか、見えん…


 だから、余計に、自分を大きく見せようとするものだ…


 誰にでも、わかる、豪華なクルマに乗ったり、美人を横にはべらかせて、喜ぶものだ…


 が、


 それが、このアムンゼンには、一切ない…


 すると、これは、やはり血か?


 と、思った…


 血=生まれか?


 と、思ったのだ…


 生まれつき、身分が、高いから、自分を大きく見せる必要が、ないのかも、しれん…


 そう、気付いた…


 なまじ、一般人が、社会で、成功したから、自分は、こんなに偉くなったんだと、周囲に、言いたい…


 だから、それをアピールする手段として、豪華なクルマを購入したり、豪邸を建てたりする…


 が、


 アムンゼンには、その必要がない…


 だからかも、しれん…


 私は、あらためて、このアムンゼンを見て、そう思った…


 生まれつき、高貴な身分に生まれた者との差を痛感した…


 そして、私が、そんな目で、アムンゼンを見ていることに、アムンゼンも、気付いた様子だった…


 「…さっきから、なんで、ボクをジッと見ているんですか? …矢田さん?…」


 と、アムンゼンが、聞いた…


 だから、私は、直球で、


 「…いや、オマエは偉いと思ってな…」


 と、素直に言った…


 「…なんですか、矢田さん、いきなり?…」


 アムンゼンが、当惑する…


 「…ただ、そう思っただけさ…」


 私が、言うと、それ以上は、アムンゼンも、なにも、言わんかった…


 ただ、ジッと、私を見た…


 ジッと、私を、睨んでいた…


 だから、今度は、真逆に、私が、アムンゼンに、


 「…なんだ? …その目は?…」


 と、聞いた…


 すると、


 「…矢田さんは、不思議です…」


 と、答えた…


 「…不思議? …なにが、不思議なんだ?…」


 「…どんな人間にも、気後れしない…」


 「…なんだと?…」


 「…言いたくは、ないですが、ボクもオスマンも、サウジの王族です…そして、バニラさんは、世界的に、有名なモデル…マリアは、その娘です…だから、言うなれば、社会的に地位がある…ですが、矢田さんだけ、一般人です…」


 「…それが、どうした?…」


 「…ですが、矢田さんは、そんな面々の中にも、すんなり、溶け込める…決して、図々しとか、計算高いとか、いうではなく、溶け込める…つくづく、人徳というか…つくづく、不思議なひとです…」


 と、アムンゼンが、言った…


 私は、そういうものかと、思った…


 たしかに、このアムンゼンの言うことは、わかる…


 わかるのだ…


 誰もが、大人になれば、相手がお偉いさんならば、気後れするものだ…


 また、気後れしないのならば、それは、おかしい…


 単に、図々しいとか、相手が、どれほど、偉いのか?


 あるいは、どれほど、自分と違うのか? わからないのでは?


 と、考えてしまう…


 要するに、おバカさんだ(笑)…


 だから、自分も相手も、変わらない…


 対等に、見る…


 対等に、考える…


 だから、気後れしないのだ(笑)…


 真逆に、本当は、この矢田も、実は、内心、ビビっていた…


 いかに、このアムンゼンや、バニラが、凄いか、知っていたからだ…


 だから、このアムンゼンが、言うようでは、決してない…


 が、


 おそらく、アムンゼンの目には、そう見えるのだろう…


 私が、考えていることと、アムンゼンの目に映る私とは、違うということだ…


 私に関して言えば、そんなお偉いさんたちが、なぜか、この矢田を、相手が、好いてくれる…


 それだけだ…


 だから、この矢田も、安心して、古くからの友人のように、接することが、できる…


 それだけだ…


 私が、そう思っていると、


 「…矢田ちゃんは、子供なの…」


 と、マリアが、言った…


 「…なんだと?…」


 「…矢田ちゃんは、お子ちゃま…だから、相手も、お子ちゃまに戻って、矢田ちゃんと、遊ぶの…」


 マリアが、言った…


 すると、その場にいた、この矢田とマリア以外の全員が、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 「…さすが、マリア…うまいことを、言う…」


 アムンゼンが、マリアを褒めた…


 マリアもまた、アムンゼンに褒められて、嬉しそうだった…


 が、


 この矢田は、不満だった…


 実に、不満だった…


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