35歳のシンデレラ 大道芸人編 67
「…チャンスだと? …どういう意味だ?…」
私は、聞き返した…
聞き返しながらも、そう言えば、葉問もまた、この葉尊と同じように、言ったことを、思い出した…
サウジアラビアの前国王が、密かに、来日していると、言ったことを、思い出した…
葉尊と葉門は、同一人物…
同じカラダを使った、多重人格同士…
だから、葉尊の知るところは、葉問も、また知るところとなる…
その逆も、しかり…
そういうことだろう…
だから、葉尊もまた、サウジアラビアの前国王の来日を知っている…
そういうことだろう…
私は、思った…
「…なにが、チャンスなんだ? …葉尊?…」
私は、聞いた…
たしかに、サウジの前国王が、来日しているのは、チャンスかも、しれん…
が、
そもそも、サウジの前国王が、極秘に来日しても、会えるのか?
と、いうことがある…
なにしろ、相手は、大物…
一国の国王だった、人物だ…
いかに、葉尊が、日本の総合電機メーカー、クールの社長だとしても、おいそれと、会えるコネを持っているとは、思えん…
そして、それは、葉尊の父親、葉敬も、また同じ…
葉敬が、いかに、台湾を代表する大実業家だとしても、そんなに簡単に、サウジの前国王と会えるコネクションを持っているとは、考えづらい…
それほどの、大物だ…
日本で、言えば、前の天皇陛下である、上皇陛下に匹敵するほどの大物だからだ…
それが、来日したわけだから、チャンスというのは、わかる…
前国王に直接会って、状況を説明すれば、力になってくれるかも、しれん…
なにしろ、前国王は、バニラのファン…
バニラ・ルインスキーのファンだ…
だから、バニラを前国王に、会わせて、バニラの口から、
「…サウジ国内で、台北筆頭やクールの製品の売り上げが、大変なことに、なっています…ぜひ、お力をお貸しください…」
と、でも、言わせれば、いい…
バニラのファンの前国王ならば、きっと、喜んで、バニラのいうことを、聞いてくれるだろう…
が、
それは、あくまで、前国王と、会えた場合…
いかに、来日するとは、いえ、簡単に会える相手ではない…
相手は、サウジアラビアの前国王なのだ…
当たり前のことだ…
だから、私は、葉尊に、
「…葉尊…オマエがチャンスだという気持ちは、わからないわけじゃないさ…バニラを、来日した前国王に会わせて、バニラの口から、力を貸してもらいたいとでも、言わせたいのだろう…」
と、言った…
「…その通りです…お姉さん…」
「…でも、相手は、前国王だゾ…そんなに、簡単に会える相手じゃないさ…きっと、警備は、厳重だゾ…コネでもあって、誰かに、頼めば、会わせてもらえる…そんなコネでも、なければ、会えるわけはないさ…」
「…それは、ボクも、考えました…」
「…だったら、無理だろう…」
「…いえ、無理ではありません…」
「…コネでもあるのか?…」
「…ハイ…あります…」
「…誰に、頼むんだ?…」
「…お姉さんに、頼みます…」
「…私に?…」
「…ハイ…」
「…私にそんなコネなど、あるわけないさ…」
私は、言った…
「…いえ、あります…」
「…ないさ…」
「…いえ、あります…」
「…私に、一体、なにが、あると、言うんだ?…」
「…お姉さんは、アラブの女神じゃないですか?…」
葉尊が、いきなり、言った…
私が、思っても、みんことを、言った…
私は、言葉が、見つからんかった…
反論できなかった…
たしかに、私が、
…アラブの女神…
と、言われているのは、わかる…
あのアムンゼンに、気に入られているからだ…
あの小人症のアムンゼンに、気に入られているからだ…
あのアムンゼンは、アラブの至宝と呼ばれる、アラブ世界の実力者…
誰が、どう見ても、3歳の子供にしか、見えんが、実力者だ(笑)…
ということは、葉尊は、私に、
「…あのアムンゼンを通じて、前国王に会わせてくれ…」
と、頼めと、言うのだろうか?
それは、わかる…
が、
正直、それは、できん…
いかに、この矢田でも、出来ん…
物事には、やっていいことと、悪いことがある…
だから、できん…
できんのだ…
この矢田は、一般人…
だから、できんのだ…
いくらなんでも、そんな頼みは、畏れ多すぎるから、できんのだ…
立場が、違い過ぎるから、できんのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…お姉さんは、ボクが、お姉さんに、アムンゼン殿下を、通じて、前国王陛下に、会わせてくれ、とでも、頼むと思いましたか?…」
と、葉尊が、笑った…
実に、楽しそうに笑った…
だから、私は、
「…その通りさ…」
と、答えた…
「…違うのか?…」
「…違います…」
「…だったら、なんだ?…」
「…前国王陛下の方から、お姉さんや、バニラに会いたいと、思わせれば、いいんです…」
「…なんだと?…」
「…お姉さんが、動くのではなく、前国王陛下に動いてもらう…」
葉尊が、意味深に言った…
「…そんなことが、できるのか?…」
「…できます…」
葉尊が、自信たっぷりに、断言した…
「…どんなふうに、だ?…」
「…それは…」
と、言って、葉尊が笑った…
その日、葉尊が、会社に出社するために、家を出てから、私は、行動を起こした…
と、言っても、たいしたことではない…
私が、太郎を連れて、外を歩いただけだ…
そして、その隣には、バニラがいた…
私を警護するためだ…
バニラは、男装していた…
なにしろ、バニラは、大女…
身長が、180㎝もある…
歳も、まだ21歳と、若い…
本当は、すでに3歳の娘の母親なんだが、とても、そうは、見えない…
なにしろ、現役のモデルだ…
世界に知られた、現役のモデルだ…
バニラ・ルインスキーだ…
その美貌は、この矢田トモコですら、惚れ惚れする…
実に、魅力的…
野性的で、荒々しい面が、あるが、それもまた、魅力的だ…
あのリンダ…
リンダ・ヘイワースの、おとなしいイメージと対照的…
このバニラは、野性的…
だから、台北筆頭や、クールは、彼女たち二人を、キャンペーン・ガールに起用したのだ…
対照的な魅力を持つ、二人を、並ばせることで、互いの魅力が引き立つからだ…
これは、当たり前…
当たり前だ…
同じタイプの女、二人を並べても、引き立たない…
が、
まったく違うタイプの美人を二人並べれば、互いに、引き立つ…
互いの魅力が、際立つからだ…
それが、葉敬の狙いでも、あるのだろう…
だから、二人を起用した…
葉敬が、女好きか、どうかは、わからんが、女のことを、よくわかっていると、思う…
やはり、優れた経営者だと、思う…
どういう女をキャンペーン・ガールに起用すれば、目立つか?
あるいは、話題になるか?
考えて、起用する…
そして、その結果、クールや台北筆頭の製品が、話題になり、売り上げを伸ばす…
そういうことだろう…
そして、このバニラは、葉敬のそんな優れた経営者の顔を見て、好きになった…
その結果、二人の間には、マリアが生まれた…
私は、そんなことを、考えた…
私は、太郎とバニラを連れて歩きながら、そんなことを、考えた…
が、
私が、そんなことを、考えていると、バニラも、私の視線に気付いたようだ…
「…なに? …お姉さん…どうして、さっきから、ずっと、私を見ているの?…」
と、聞いて来た…
当たり前のことだ…
私は、すぐに、
「…いや、オマエは、つくづく、美人だと思ってな…」
と、私は、言った…
ホントのことだった…
今は、男装しているが、その美貌は、隠せん
…
横顔一つ、見ても、完璧…
完璧だ…
金髪碧眼の美女…
この矢田トモコとは、雲泥の差だ…
この矢田トモコは、身長159㎝…
日本人の女としては、平均的だが、このバニラと並ぶと、その差が際立つというか…
ハッキリ言えば、同じ、人類とは、思えん(涙)…
それほどの差がある…
この矢田トモコも、日本人としては、平凡…
それに対して、このバニラは、欧米人としても、トップクラスの美貌と、スタイルを、持っている…
つくづく、羨ましいと、思う…
口さえ、開かなければ、この矢田トモコとて、憧れる…
が、
口を開けば、常に、この矢田に歯向かう…
この矢田に立ち向かう…
だから、許せん!
許せんのだ!
が、
今は、そのバニラが、私の護衛に、徹した…
だから、私もまた、このバニラの悪口を言うことは、できんかった…
そして、今、なぜ、この矢田が、太郎とバニラを連れて、外を歩いているか?
それは、葉尊の提案だった…
葉尊が、
「…お姉さん…その猿を連れて、バニラを、護衛にして、外を歩いて下さい…」
と、提案したのだ…
「…なんだと? …どうしてだ?…」
「…そこで、出来れば、バニラの正体を明かして、もらいたんです…」
「…なんだと? …なぜだ?…」
「…お姉さんが、その猿を連れて、外に出歩けば、話題になります…出会った人間の中には、スマホで撮影する者も出て来るでしょう…おまけに、バニラです…」
「…バニラが、どうした?…」
「…バニラ・ルインスキーが、その猿と、お姉さんといっしょに、いると、わかれば、話題になるでしょう…それを、撮影して、ネットに上げる者も、大勢出るでしょう…そして、それを、バニラのファンである、サウジアラビアの前国王が、見れば…」
と、葉尊が、説明した…
「…後は、言わずとも、わかるでしょう…お姉さん…」
葉尊が、ニヤリとした…
要するに、この矢田が、猿の太郎と、バニラを連れて歩けば、話題になる…
そういうことだろう…
なにしろ、普通に考えて、猿を連れて、散歩する人間など、いないからだ…
それだけで、話題になる…
さらに、バニラだ…
世界中に知られたスーパーモデルのバニラ・ルインスキーが、隣にいる…
これで、話題にならないわけはない…
それが、葉尊の狙いだった…
私は、今、バニラの質問を受けながら、そんなことを、考えた…
考えたのだ…
「…やだ…お姉さんたら…」
バニラが、照れた…
バニラは、美人だが、元ヤン…
元ヤン=ヤンキー上がりだ…
だから、あまり、男に免疫がないというか…
普通の男に、褒められたことがない…
もちろん、女にも、だ…
バニラを、褒めるのは、基本的にヤンキーの男…
だから、仲間内の男に、褒められることはあるが、私のような、ごく平凡な一般人に、
「…美しい…」
と、褒められたことが、あまりない…
だから、対応に困るのだ…
まあ、所詮は、ヤンキー上がり…
頭も悪いから、かもしれん…
が、
それが、この矢田や、葉尊には、好都合…
都合が、良かった…
なぜなら、この矢田や葉尊の目論見がわからんからだ…
この矢田や葉尊の真の目的がわからんからだ…
バカは、使える…
こちらの意図がわからんから、使える…
そう、思った…
思ったのだ…
私が、そう、思っていると、早速、私や太郎、そして、バニラをスマホで撮影する連中が、現れた…
葉尊の目論見通りになった(笑)…




