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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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66/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 66

「…なんだ?…」


 私は、聞いた…


 葉尊が、とんでもなく、真剣な表情で、私に語りかけてきたからだ…


 葉尊は、私より、6歳年下…


 だから、私から、見れば、少々頼りない…


 それゆえ、なにか、聞かれれば、助けてやらねば、ならんと、思ったのだ…


 「…実は、最近、アラブ世界で、台北筆頭やクールの製品の売り上げが、伸び悩んでいるんです…」


 「…なんだと?…どうしてだ?…」


 「…理由は、わかりません…ただ、伸び悩むというより、はっきり言えば、売り上げが、落ちてきている…」


 「…売り上げが、落ちるだと?…」


 「…お姉さんのおかげで、台湾の台北筆頭と、日本のクールの名前が、アラブ世界で、広まりました…そのおかげで、台北筆頭や、クールの製品が、アラブ世界で、脅威的に、浸透しましたが、それが、一転…」


 「…どうした? …なにか、わけがあるのか?…」


 「…噂は、掴みました…」


 「…噂だと? …どんな噂だ?…」


 「…なにか、サウジアラビアの前国王と、現国王が、揉めているとか?…」


 「…それが、クールや台北筆頭の売り上げと、なんの関係がある…」


 「…一見、なんの関係もないと、思いますが、さにあらず…」


 「…どういうことだ?…」


 「…サウジアラビアの前国王のモハメド・シンプソン氏が、バニラのファンなんです…」


 「…バニラのファンだと? …サウジアラビアの前国王が?…」


 私は、怒鳴った…


 同時に、これは、昨日、葉問が、言ったことと、同じだと、気付いた…


 葉尊と、葉問は、同一人物…


 人格は、違うが、同じカラダを使っている…


 だから、葉尊が、知ったことは、葉問も、また、知ったということだろう…


 それゆえ、葉問は、私にバニラを勧めた…


 私にバニラを護衛に就けることを、勧めた…


 「…だから、それを知っている、サウジアラビアの現国王の側近たちが、率先して、サウジアラビア国内で、台北筆頭や、クールの製品の不買運動を起こしている…そういう噂が、耳に入って…」


 葉尊が、考え込みながら、言う…


 が、


 どこか、歯切れが、悪かったというか…


 どこか、自信なさげだった…


 だから、それを、指摘した…


 「…葉尊…その話をしても、どこか、自信なさげだな…その情報が、信頼できないのか?…」


 と、ずばり、指摘した…


 「…その通りです…お姉さん…」


 葉尊が、吐露する…


 「…その掴んだ噂は、正しいと、思いますが、証拠がありません…」


 「…証拠だと?…」


 「…今の時代…どこの国の人間もまた、SNS等で、情報を拡散します…だから、なかなか、隠し事は、できません…」


 「…」


 「…例えば、誰か、どこそこで、タレントなり、有名人を、よく、見かけるとします…要するに、その店が、その有名人の行きつけの店だとします…それを、誰かに聞きつけた一般人が、誰々さんは、その店の常連だから、ずっと、待っていれば、会えるかも、と、言います…でも、ここだけの話だから、みんなに、言わないで…もし、みんなにバレたら、誰々さんは、もう来なくなっちゃうかもしれないから…と、言います…」


 「…」


 「…でも、それを、聞いた一般人は、それを、誰かに、しゃべりたくて、堪らない…結果、誰かに、ここだけの話だけどと、言って、話す…それが、続いて、結構、知っているひとが、多くなる…それが、ネットが、普及する以前の話です…」


 「…」


 「…でも、今は、違う…情報が、簡単に拡散します…ネットがあるからです…だから、最初の話に戻れば、証拠がない…」


 「…証拠? …どんな証拠だ?…」


 「…現国王の側近が、クールや台北筆頭の製品を買わないように、呼びかけている証拠です…ネットを、見ても、そんな形跡は、ない…だから、あくまで、噂レベルなんです…」


 葉尊が、言った…


 一気に、言った…


 まるで、ダムが、決壊したごとく、一気に言った…


 まるで、ダムの水が、一気に放水したようだった…


 私は、考え込んだ…


 まさに、予想外…


 考えられん事態だったからだ…


 実は、この矢田トモコ…


 アラブの女神と、密かに、言われていた(爆笑)…


 あの小人症のアムンゼンに気に入られたからだ…


 あの小人症のアムンゼンは、アラブの至宝と呼ばれている…


 アラブ世界で、比類のない、優れた頭脳の持ち主だからだ…


 そのアムンゼンに、私が、気に入られたから、


 …アラブの女神…


 と、ひとは、私を呼んだ(爆笑)…


 そして、それは、アムンゼンが、人前に決して、出ないことが、大きい…


 何度も言うように、アムンゼンは、小人症…


 ホントは、30歳だが、外見は、3歳にしか、見えない…


 それゆえ、公で、人前に出ることが、できない…


 それが、かえって、功を奏したというか…


 人前に出ないことで、かえって、存在感が、増した…


 アラブ世界で、


 …アラブの至宝…


 と、呼ばれるほどの実力者になった…


 そのアムンゼンが、この矢田トモコを贔屓(ひいき)にしたとの噂が、アラブ世界で、広まり、その結果、夫の葉尊が、社長を務める、日本の総合電機メーカー、クールと、その親会社である、台湾の台北筆頭の製品の売り上げが、猛烈に伸びたということだ…


 それが、一転して、売り上げが、落ちるとは?


 まさに、緊急事態…


 ありえんことだった…


 葉尊が、悩むのが、わかった…


 いや、


 葉尊だけではない…


 きっと、葉尊の父である、台湾の葉敬もまた、悩んでいるに、違いない…


 台北筆頭は、葉敬が、創業した会社だからだ…


 これは、困った…


 実に、困った…


 せっかく、アラブ世界で、クールや台北筆頭の売り上げが、上がったのに、それが、落ちれば、元の木阿弥というか…


 この矢田トモコの実績が、台無しになると、思った…


 だから、考え込んだ…


 が、


 すぐに、腑に落ちないことが、わかった…


 なぜ、サウジアラビアの前国王が、バニラのファンだとしても、それが、どうして、台北筆頭や、クールの不買運動に繋がるのか?


 それが、わからんかったからだ…


 だから、


 「…葉尊…オマエの話は、わかったさ…」


 と、言った…


 「…でもさ、どうして、サウジアラビアの前国王が、バニラのファンだとしても、それが、クールや台北筆頭の不買運動に繋がるんだ?…」


 「…それは、簡単です…」


 「…簡単だと?…なにが、簡単なんだ?…」


 「…バニラは、クールや台北筆頭のキャンペーン・ガールをしています…だから、サウジの前国王と敵対する現国王の側近が、バニラを貶めるために、クールや台北筆頭の製品の不買運動を勧めたんです…」


 「…どういうことだ??…」


 「…バニラをキャンペーン・ガールに起用したクールや台北筆頭の売り上げが、落ちることは、即、バニラの信用に、直結する…なぜ、サウジ国内で、クールや、台北筆頭の製品の売り上げが、落ちたんだ? と、聞かれれば、実は、サウジの現国王が、バニラを嫌っていて、とか、言う噂を流すでしょう…そうすれば、バニラの評価は、急降下…結果、バニラのファンである、サウジの前国王に、嫌がらせをしたことになる…」


 葉尊が、説明した…


 私は、


 …そんなバカな!…


 と、思った…


 開いた口が、塞がらんかった…


 それでは、まるで、子供のケンカだ…


 大の大人が、やることではない…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 が、


 同時に、そんなことは、ありえない…


 絶対に、ありえないと、断言することは、できんかった…


 それでは、まるで、子供のケンカだが、それが、また、いい…


 と、気付いた…


 なぜなら、血が出ない…


 戦争をするわけでも、なんでもないから、人が殺されるわけでも、なんでもない…


 ハッキリ言えば、嫌がらせ…


 ただの嫌がらせに他ならないからだ…


 もちろん、サウジアラビアで、クールや台北筆頭の製品を売っている業者は、困るに違いない…


 もしかしたら、商売上がったりかも、しれん…


 が、


 命を取られるよりは、マシ…


 殺されるよりは、マシ…


 そういうことだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…要するに、ただの嫌がらせです…」


 と、葉尊が、私が、考えたことを、同じことを言った…


 「…まるで、子供のやることのようですが、それが、精一杯なのかも、しれません…」


 「…精一杯だと? …どういうことだ?…」


 「…いくら、前国王と現国王が、争ったといっても、父子…血の繋がった父子です…もしかしたら、すぐにでも、関係が修復されるかも、しれない…だから、側近たちも、あまりのことは、できない…もし、前国王と現国王の関係が、修復されれば、報復されるかも、しれないからです…」


 「…」


 「…だから、きっと、できることは、制限されている…そんな中で、現国王の側近たちが、思いついたのが、バニラに嫌がらせをすることだったのかも、しれない…サウジ国内で、台北筆頭や、クールの製品の売り上げが、急減して、それが、バニラのせいにされる…その結果、バニラのファンである、前国王が、怒り出す…きっと、そんな筋書きでしょう…」


 「…」


 「…ですが、それでは、我がクールも、台北筆頭も堪ったものではない…もちろん、バニラもです…」


 葉尊が、言った…


 これまで、見たこともないくらい、真剣な表情で、言った…


 私は、それを見て、初めて、葉尊は、経営者だと、思った…


 クールの社長だと、思った…


 葉尊が、クールの社長であることは、知っているが、普段、自宅で、葉尊は経営者の顔を見せることは、なかった…


 が、


 これは、ある意味、当たり前だった…


 どんなお偉いさんも、家庭で、威張っている人間は、あまりいないだろう…


 誰もが、家庭では、ただの父親に過ぎない…


 ただの父親だから、子供に疎まれたり、


 「…クソジジイ…」


 と、呼ばれたりしても、驚かない…


 それは、家族だからだ…


 たとえ、大会社の社長だったりしても、会社での顔を家族に、見せたりしないものだからだ…


 だから、私は、今、初めて、家庭で、葉尊の経営者としての、顔を見た…


 クールの社長としての顔を見た…


 だから、驚いたのだ…


 普段、自宅で、見せたことのない顔を見せたから、驚いたのだ…


 そして、葉尊は、怒り狂った、あるいは、苦悩した表情のまま、


 「…実は、最近、そのサウジアラビアの前国王、モハメド・シンプソン氏が、極秘来日しているという情報を掴みました…」


 と、続けた…


 それから、ニヤッと、笑って、


 「…チャンスです…」


 と、付け加えた…


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