35歳のシンデレラ 大道芸人編 49
バニラが、この矢田の元に、やって来たのは、まもなくだった…
相変わらず、バカ、デカい…
それが、今日、久々に、バニラを見た、最初の感想だった…
が、
これでいい…
やはり、ボディーガードはデカい方がいい…
デカい方が、頼りがいがある…
ホントは、必ずしも、カラダがデカければ、ケンカに強いわけでも、ないことを、私も、知っているが、やはり、カラダがデカい方が、守られる方としては、安心する…
そういうことだ…
私は、バニラが部屋の中に入って来ると、
「…バニラ…なにか、飲むか?…」
と、声をかけた…
すると、バニラが、
「…エッ? …どういうこと?…」
と、バニラが、驚いた…
「…どうした? …なにを、驚いている?…」
「…だって、お姉さん…今日は、やけに、私に優しいから…」
「…当り前さ…自分を守ってくれる人間に、
邪険には、できんさ…」
私は、答えた…
すると、バニラは、一瞬、驚いた表情を見せたが、
「…フーン…そういうこと…」
と、言って、笑った…
「…お姉さんも、少しばかり、人間味があるのね…」
「…どういう意味だ?…」
「…お姉さんは、誰にも、傍若無人だと、思っていた…」
「…なんだと?…」
「…なにしろ、このバニラ・ルインスキー様に、向かって、生意気な口を利くのは、お姉さんだけ…ホントなら、お姉さんは、ボコボコにされて、東京湾に浮いているわ…」
あっさりと、バニラが、言った…
バカ、バニラが、言った…
そして、私は、それは、正しいと、思った…
その言葉に、ウソは、ないと思った…
このバニラは、ヤンキー上がり…
幼いときから、ケンカに明け暮れていた…
ただ、美人だから、モデルの道が開けた…
そして、なにより、カラダが、大きいのが、幸いした…
モデルは、当たり前だが、カラダが大きくなければ、ならない…
平均よりも、遥かに、高くなければ、ならない…
男なら、190㎝以上…
女なら、最低でも、170㎝は、欲しい…
バニラは、180㎝…
だから、モデルになれた…
このバニラ・ルインスキーは、金髪碧眼の美女…
顔もいい…
それは、この矢田も認める…
が、
性根が、腐っている!…
中身が、腐っている!…
それが、見た目では、わからんだけだ!…
が、
それは、今は、言わんかった…
言えば、ケンカになる…
このバニラは、大嫌いだが、今日は、私を守るために、やって来た…
それが、ケンカをして、このバニラの機嫌を損ねて、帰ることになっては、困る…
もし、このバニラが、帰ってしまえば、この矢田を守る人間が、いなくなる…
それは、困る…
困るのだ…
私が、そんなことを、考えていると、このバニラは、この部屋に入って、安心したのか、黒いサングラスを外した…
このバニラも、また、世界で、それなりに、知られた、トップモデルの一人…
あのハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースに比べれば、だいぶ知名度が劣るが、それでも、バニラを知っている人間も、この日本に、それなりにいるに違いない…
だから、昼間の外出時には、黒いサングラスをかけている…
周囲に顔バレしないためだ…
やはり、どんな人間もだが、プライベートに、騒がれるのは、嫌なものだ…
これは、芸能人だけではない…
普通の会社員も、同じ…
休日に会社に呼び出されて、仕事をするのは、誰もが、嫌だ…
それが、芸能人は、仕事とプライベートの線引きが、難しい…
プライベートで、どこかに、出かけて、顔バレすれば、サインをしたり、写真をいっしょに、撮らざるを得ない…
それが、一般人と芸能人の違いだ…
私は、思った…
思いながら、このバニラを見た…
このバニラも、大変なんだろうと、思って見たのだ…
すると、このバニラも、また、私の視線に気づいたらしい…
「…なに、お姉さん…そんな目で、私を見て?…」
と、聞いた…
「…いや、オマエも、色々大変だなと、思ってな…」
「…なに、なに、どういう意味? …どうして、いきなり、そんな話になったの?…」
「…いや、オマエを見ているとな…」
と、私は、わざと、意味深に言った…
バニラが、どういう反応を示すのか、試したのだ…
すると、案の上、バニラは、誘いに乗った(笑)…
「…やっぱ、気付いた?…」
と、いきなり、告白した…
「…さあな…」
私は、言った…
とぼけたのだ…
「…お姉さん…今日、マリアを連れて来ないことに、気付いたんでしょ?…」
…なんだと?…
…マリアだと?…
そんなことは、考えもせんかった…
が、
私は、そんなことは、おくびにも出さす、
「…どうして、連れて来なかったんだ? …やはり、マリアを連れて来ては、危険だと、思ったのか?…」
と、言った…
「…それもある…」
と、バニラが、意味深に言った…
「…でも、一番の原因は、その猿!…」
「…猿? …太郎のことか?…」
「…そう、その猿! …マリアは、猿が苦手なの…」
バニラが、苦々しく言った…
私は、それを聞いて、以前、このバニラが、言ったことを、思い出した…
マリアは、猿が、苦手…
テレビで、猿が、温泉に入っていることが、話題になるが、アレが、嫌いだと、言った…
どうして、嫌いなのかと、聞くと、猿が、人間みたいで、気持ち悪いと、言った…
私はそれを、聞いて、捉え方は、人それぞれだと、思った…
そう言われれば、納得する…
たしかに、猿なのに、人間みたいで、嫌だと、思っても、おかしくはない…
が、
その一方で、たしか、マリアは、蛇が怖くないと、言った…
これは、この私には、理解できん発言だった…
この矢田は、蛇が、苦手…
大の苦手だった…
蛇を見ると、怖くて、怖くて、たまらんかった…
あのクネクネとしたカラダを見ると、怖くて、たまらんかったのだ…
私が、そんなことを、考えていると、バニラが、
「…フーン…この猿ね…」
と、言った…
私の近くにいる、太郎に興味を示したのだ…
私は、急いで、太郎を見た…
太郎もまた、戸惑った様子だった…
目の前に見たこともない、大柄な女が、突然、現れたから、驚いたのだろう…
私は、黙って、ことのなりゆきを見ていた…
このバニラが、どう太郎に接するのか?
興味があったからだ…
すると、だ…
バニラが、いきなり、人差し指を上に向けて、
「…カモン!…」
と、言った…
よく、人間が、犬に、よくやる手法だ…
「…カモン…お猿さん…」
バニラが、言ったが、太郎は、動かんかった…
太郎もまた、どうして、いいか、わからんかったに違いない…
私は、バニラを見た…
が、
バニラは、太郎の態度に、苛立たん様子だった…
めげることなく、何度も、
「…カモン…」
と、繰り返した…
指を動かしながら、繰り返した…
私は、それを、見て、
「…そんなじゃ、ダメさ…」
と、言った…
「…どうして、ダメなの?…」
「…太郎は犬や猫じゃないのさ…それじゃ、オマエが、太郎になにを、求めているか、わからんさ…」
「…」
「…それに…」
「…それに、なに?…」
「…オマエには、愛情が、足りんのさ…」
「…愛情って?…」
「…犬や猫も、そうだが、動物は、敏感に相手の愛情を感じ取るものさ…オマエのは、形だけさ…そんなんじゃ、太郎の心は、動かんさ…」
私は、言った…
強く言った…
「…太郎、こっちに、来い…」
私が、言うと、太郎が、すぐに、私に抱き着いた…
「…つまり、こういうことさ…」
と、私は、勝ち誇って、バニラに、言った…
「…私は、太郎に、信頼されている…オマエとは、違うのさ…」
私が、勝ち誇って言うと、バニラが、悔し気に、私を見た…
いかにも、悔しそうな表情で、私を見た…
私は、それを、見て、勝ったと、思った!…
この女に勝ったと、確信した!…
だから、
「…コレが、バニラ…オマエと私の差さ…」
と、さらに、言った…
相手の傷口に塩を塗るが如く、言った…
「…なんの差なの?…」
「…ひとに信頼されるか、どうかの差さ…」
「…お姉さん…バカじゃないの?…」
「…なんだと? …どうしてだ?…」
「…だって、お姉さん、この猿と、ずっと、いたでしょ? …だから、今、会ったばかりの私になつくわけ、ないじゃない!…」
「…それは、違うさ…」
「…どう違うの?…」
「…この太郎は、私と初めて会ったときから、私になついたさ…」
「…ウソ?…」
「…ウソじゃないさ…」
私は、言った…
強く言った…
「…オマエは、信じんかも、しれんが、ウソじゃないさ…この太郎は、初めて会ったときから、私に心を開いたさ…この太郎には、ひとを見る目があるのさ…」
私は、勝ち誇った…
勝ち誇って、バニラを見た…
バニラが、悔しそうに、私を見る顔が見たかったからだ…
が、
そうでは、なかった…
違った…
バニラは、なにやら、考え込んでいた…
だから、
「…どうした? …バニラ?…」
と、聞いてやった…
「…なにを、考えてる?…」
「…この猿のことよ…」
「…太郎のことだと?…」
「…私は、猿のことは、わからないけれども、そんなに簡単にひとになつくものかな?…」
「…なんだと?…」
「…犬だって、猫だって、初めて会った人間には、普通は、警戒するものよ…」
「…」
「…それが、お姉さんには、警戒しないなんて…」
「…なんだ? …その奥歯にものが挟まったような言い方は…」
「…もしかしたら?…」
「…もしかしたら、なんだ?…」
「…その猿…訓練されているのかも?…」
「…なんの訓練だ?…」
「…お姉さんになつく訓練…」
バニラが、言った…
たしか、以前、リンダが、言ったことと、同じことを言った…




