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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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49/87

35歳のシンデレラ 大道芸人編 49

バニラが、この矢田の元に、やって来たのは、まもなくだった…


 相変わらず、バカ、デカい…


 それが、今日、久々に、バニラを見た、最初の感想だった…


 が、


 これでいい…


 やはり、ボディーガードはデカい方がいい…


 デカい方が、頼りがいがある…


 ホントは、必ずしも、カラダがデカければ、ケンカに強いわけでも、ないことを、私も、知っているが、やはり、カラダがデカい方が、守られる方としては、安心する…


 そういうことだ…


 私は、バニラが部屋の中に入って来ると、


 「…バニラ…なにか、飲むか?…」


 と、声をかけた…


 すると、バニラが、


 「…エッ? …どういうこと?…」


 と、バニラが、驚いた…


 「…どうした? …なにを、驚いている?…」


 「…だって、お姉さん…今日は、やけに、私に優しいから…」


 「…当り前さ…自分を守ってくれる人間に、

邪険には、できんさ…」


 私は、答えた…


 すると、バニラは、一瞬、驚いた表情を見せたが、


 「…フーン…そういうこと…」


 と、言って、笑った…


 「…お姉さんも、少しばかり、人間味があるのね…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…お姉さんは、誰にも、傍若無人だと、思っていた…」


 「…なんだと?…」


 「…なにしろ、このバニラ・ルインスキー様に、向かって、生意気な口を利くのは、お姉さんだけ…ホントなら、お姉さんは、ボコボコにされて、東京湾に浮いているわ…」


 あっさりと、バニラが、言った…


 バカ、バニラが、言った…


 そして、私は、それは、正しいと、思った…


 その言葉に、ウソは、ないと思った…


 このバニラは、ヤンキー上がり…


 幼いときから、ケンカに明け暮れていた…


 ただ、美人だから、モデルの道が開けた…


 そして、なにより、カラダが、大きいのが、幸いした…


 モデルは、当たり前だが、カラダが大きくなければ、ならない…


 平均よりも、遥かに、高くなければ、ならない…


 男なら、190㎝以上…


 女なら、最低でも、170㎝は、欲しい…


 バニラは、180㎝…


 だから、モデルになれた…


 このバニラ・ルインスキーは、金髪碧眼の美女…


 顔もいい…


 それは、この矢田も認める…


 が、


 性根が、腐っている!…


 中身が、腐っている!…


 それが、見た目では、わからんだけだ!…


 が、


 それは、今は、言わんかった…


 言えば、ケンカになる…


 このバニラは、大嫌いだが、今日は、私を守るために、やって来た…


 それが、ケンカをして、このバニラの機嫌を損ねて、帰ることになっては、困る…


 もし、このバニラが、帰ってしまえば、この矢田を守る人間が、いなくなる…


 それは、困る…


 困るのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、このバニラは、この部屋に入って、安心したのか、黒いサングラスを外した…


 このバニラも、また、世界で、それなりに、知られた、トップモデルの一人…


 あのハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースに比べれば、だいぶ知名度が劣るが、それでも、バニラを知っている人間も、この日本に、それなりにいるに違いない…


 だから、昼間の外出時には、黒いサングラスをかけている…


 周囲に顔バレしないためだ…


 やはり、どんな人間もだが、プライベートに、騒がれるのは、嫌なものだ…


 これは、芸能人だけではない…


 普通の会社員も、同じ…


 休日に会社に呼び出されて、仕事をするのは、誰もが、嫌だ…


 それが、芸能人は、仕事とプライベートの線引きが、難しい…


 プライベートで、どこかに、出かけて、顔バレすれば、サインをしたり、写真をいっしょに、撮らざるを得ない…


 それが、一般人と芸能人の違いだ…


 私は、思った…


 思いながら、このバニラを見た…


 このバニラも、大変なんだろうと、思って見たのだ…


 すると、このバニラも、また、私の視線に気づいたらしい…


 「…なに、お姉さん…そんな目で、私を見て?…」


 と、聞いた…


 「…いや、オマエも、色々大変だなと、思ってな…」


 「…なに、なに、どういう意味? …どうして、いきなり、そんな話になったの?…」


 「…いや、オマエを見ているとな…」


 と、私は、わざと、意味深に言った…


 バニラが、どういう反応を示すのか、試したのだ…


 すると、案の上、バニラは、誘いに乗った(笑)…


 「…やっぱ、気付いた?…」


 と、いきなり、告白した…


 「…さあな…」


 私は、言った…


 とぼけたのだ…


 「…お姉さん…今日、マリアを連れて来ないことに、気付いたんでしょ?…」


 …なんだと?…


 …マリアだと?…


 そんなことは、考えもせんかった…


 が、


 私は、そんなことは、おくびにも出さす、


 「…どうして、連れて来なかったんだ? …やはり、マリアを連れて来ては、危険だと、思ったのか?…」


 と、言った…


 「…それもある…」


 と、バニラが、意味深に言った…


 「…でも、一番の原因は、その猿!…」


 「…猿? …太郎のことか?…」


 「…そう、その猿! …マリアは、猿が苦手なの…」


 バニラが、苦々しく言った…


 私は、それを聞いて、以前、このバニラが、言ったことを、思い出した…


 マリアは、猿が、苦手…


 テレビで、猿が、温泉に入っていることが、話題になるが、アレが、嫌いだと、言った…


 どうして、嫌いなのかと、聞くと、猿が、人間みたいで、気持ち悪いと、言った…


 私はそれを、聞いて、捉え方は、人それぞれだと、思った…


 そう言われれば、納得する…


 たしかに、猿なのに、人間みたいで、嫌だと、思っても、おかしくはない…


 が、


 その一方で、たしか、マリアは、蛇が怖くないと、言った…


 これは、この私には、理解できん発言だった…


 この矢田は、蛇が、苦手…


 大の苦手だった…


 蛇を見ると、怖くて、怖くて、たまらんかった…


 あのクネクネとしたカラダを見ると、怖くて、たまらんかったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、バニラが、


 「…フーン…この猿ね…」


 と、言った…


 私の近くにいる、太郎に興味を示したのだ…


 私は、急いで、太郎を見た…


 太郎もまた、戸惑った様子だった…


 目の前に見たこともない、大柄な女が、突然、現れたから、驚いたのだろう…


 私は、黙って、ことのなりゆきを見ていた…


 このバニラが、どう太郎に接するのか?


 興味があったからだ…


 すると、だ…


 バニラが、いきなり、人差し指を上に向けて、


 「…カモン!…」


 と、言った…


 よく、人間が、犬に、よくやる手法だ…


 「…カモン…お猿さん…」


 バニラが、言ったが、太郎は、動かんかった…


 太郎もまた、どうして、いいか、わからんかったに違いない…


 私は、バニラを見た…


 が、


 バニラは、太郎の態度に、苛立たん様子だった…


 めげることなく、何度も、


 「…カモン…」


 と、繰り返した…


 指を動かしながら、繰り返した…


 私は、それを、見て、


 「…そんなじゃ、ダメさ…」


 と、言った…


 「…どうして、ダメなの?…」


 「…太郎は犬や猫じゃないのさ…それじゃ、オマエが、太郎になにを、求めているか、わからんさ…」


 「…」


 「…それに…」


 「…それに、なに?…」


 「…オマエには、愛情が、足りんのさ…」


 「…愛情って?…」


 「…犬や猫も、そうだが、動物は、敏感に相手の愛情を感じ取るものさ…オマエのは、形だけさ…そんなんじゃ、太郎の心は、動かんさ…」


 私は、言った…


 強く言った…


 「…太郎、こっちに、来い…」


 私が、言うと、太郎が、すぐに、私に抱き着いた…


 「…つまり、こういうことさ…」


 と、私は、勝ち誇って、バニラに、言った…


 「…私は、太郎に、信頼されている…オマエとは、違うのさ…」


 私が、勝ち誇って言うと、バニラが、悔し気に、私を見た…


 いかにも、悔しそうな表情で、私を見た…


 私は、それを、見て、勝ったと、思った!…


 この女に勝ったと、確信した!…


 だから、


 「…コレが、バニラ…オマエと私の差さ…」


 と、さらに、言った…


 相手の傷口に塩を塗るが如く、言った…


 「…なんの差なの?…」


 「…ひとに信頼されるか、どうかの差さ…」


 「…お姉さん…バカじゃないの?…」


 「…なんだと? …どうしてだ?…」


 「…だって、お姉さん、この猿と、ずっと、いたでしょ? …だから、今、会ったばかりの私になつくわけ、ないじゃない!…」


 「…それは、違うさ…」


 「…どう違うの?…」


 「…この太郎は、私と初めて会ったときから、私になついたさ…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソじゃないさ…」


 私は、言った…


 強く言った…


 「…オマエは、信じんかも、しれんが、ウソじゃないさ…この太郎は、初めて会ったときから、私に心を開いたさ…この太郎には、ひとを見る目があるのさ…」


 私は、勝ち誇った…


 勝ち誇って、バニラを見た…


 バニラが、悔しそうに、私を見る顔が見たかったからだ…


 が、


 そうでは、なかった…


 違った…


 バニラは、なにやら、考え込んでいた…


 だから、


 「…どうした? …バニラ?…」


 と、聞いてやった…


 「…なにを、考えてる?…」


 「…この猿のことよ…」


 「…太郎のことだと?…」


 「…私は、猿のことは、わからないけれども、そんなに簡単にひとになつくものかな?…」


 「…なんだと?…」


 「…犬だって、猫だって、初めて会った人間には、普通は、警戒するものよ…」


 「…」


 「…それが、お姉さんには、警戒しないなんて…」


 「…なんだ? …その奥歯にものが挟まったような言い方は…」


 「…もしかしたら?…」


 「…もしかしたら、なんだ?…」


 「…その猿…訓練されているのかも?…」


 「…なんの訓練だ?…」


 「…お姉さんになつく訓練…」


 バニラが、言った…


 たしか、以前、リンダが、言ったことと、同じことを言った…


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