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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ 大道芸人編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ 大道芸人編 17

と、そのときだった…


 バスが、いきなり、急停車した…


 バスが、ギーと、音を立てて、急停車した…


 この矢田を含め、バスに乗った乗客全員が、席に、座ったまま、大きく、動いた…


 あまりにも、突然に、バスが、急停車するものだから、席から、投げ出されることは、なくても、態勢が、大きく崩れた…


 この矢田のように、大人でも、大きく態勢が、崩れるのだから、子供は、もっと、大変だった…


 バスの席から、投げ出されるものが、続出した…


 それは、マリアも、アムンゼンも、例外ではなかった…


 実に、あっけなく、席から、投げ出された…


 私は、大人だから、なんとか、手で、前の座席を持って、しのいだが、子供のマリアや、ホントは、大人だが、子供のカラダを持つ、アムンゼンでは、ダメだった…


 まるで、ピンポン玉のように、弾け飛んだ…


 そして、それは、他の子供も同様だった…


 園児の母親たちは、この矢田同様、なんとか、しのいだが、子供たちは、無理だった…


 例外なく、席から、放り出された…


 だから、一瞬にして、車内が、パニック状態になった…


 席から、投げ出された園児たちが、一斉に声を上げて、泣き出したからだ…


 みんなが、


 「…ギャー」


 「…ギャー」


 泣き出すから、一気に、パニックになった…


 大人である、この矢田でも、大変だったのだから、子供は、もっと大変だった…


 だから、泣き出すのは、わかった…


 が、


 それでも、一斉に鳴き出されたのでは、たまったものではない…


 それぞれの園児たちに、付き添ってきた母親たちが、必死になって、自分の子供たちをなだめた…


 「…ほら、もう大丈夫だから…」


 とか、


 「…大丈夫、痛くなかった?…」


 とか、言う声が、あちこちから、聞こえてきた…


 この矢田も、同じだった…


 「…アムンゼン…マリア…大丈夫か?…」


 と、自分が、態勢を立て直してから、真っ先に、二人に、声をかけた…


 「…だ、大丈夫…」


 と、マリアが、真っ先に、言った…


 「…アムンゼン…オマエは、大丈夫か?…」


 私が、言うと、車内に投げ出された、アムンゼンが、


 「…だ、大丈夫です…」


 と、言いながら、なんとか、立ち上がろうとした…


 すると、そのアムンゼンを、近くの女性が、


 「…坊や…大丈夫?…」


 と、言いながら、アムンゼンに近寄った…


 アムンゼンは、とっさに、カラダをひねって、その女性から、逃げた…


 あまりにも、素早く、動くものだから、見ている、この矢田も、呆気に取られた…


 その動きは、小さいながらも、まるで、格闘家か、なにかのようだった…


 私は、それを、見て、今さらながら、このアムンゼンは、大人…


 本当は、大人であることを、思い知らされた…


 小人症ゆえに、3歳の子供に見えるが、中身は、30歳の大人であることを、思い知らされた…


 そして、おそらく、そのことに、気付いたのは、この矢田だけでは、なかったはずだ…


 なぜなら、アムンゼンは、立ち上がりながら、一瞬だが、周囲を鋭い視線で、見回したからだ…


 おそらく、自分の行動を、周囲の人間が、どう見たか、知りたかったのだろう…


 周囲の人間が、どう観察したか、知りたかったのだろう…


 私は、そう、見た…


 そして、アムンゼンの視線は、ある場所で、固定した…


 一瞬だが、固定した…


 それは、アムンゼンをよく観察していなければ、わからない動きだった…


 この矢田だから、わかった…


 別段、この矢田が、優れているわけでも、なんでもないが、アムンゼンを、凝視しているから、わかったのだ…


 私は、急いで、その女性を見た…


 メガネをかけた金髪碧眼の女性だった…


 歳は、30歳ぐらい…


 カラダは、おそらく、身長170㎝超…


 170㎝よりも、少し上…


 2㎝ぐらい上かもしれない…


 取り立てて、騒ぐほどの、美貌では、なかった…


 が、


 この日本では、目立つかも、しれない…


 以前、同じような、ブロンドの美人を、ユーチューブで、見たが、その美人は、自分を評して、


 「…私は、母国では、平凡だけれども、この日本では、特別だから…」


 と、言って、笑った…


 実に、言い得て妙…


 実に、自分が、よくわかっていると、感心したものだ…


 ブロンドで、若い女だから、目立つ…


 しかし、母国に帰れば、似たようなルックスの女は、ごまんといる…


 ありふれている…


 そういうことだ…


 日本にいるから、特別=スペシャルなのだ…


 実に、自分がよくわかっていると、思った…


 それと、同じだった…


 そして、私は、とっさに、その女と、アムンゼンの関係を思った…


 敵か、味方か?


 思ったのだ…


 なにもなければ、一瞬とはいえ、アムンゼンが、その女に、視線を止めるはずが、なかったからだ…


 私が、ジッと、その女性を見ていると、


 「…矢田ちゃん、なにを見ているの?…」


 と、マリアが聞いて来た…


 だから、私は、


 「…あの女は、誰だ?…」


 と、マリアに小声で、聞いた…


 「…あの女って?…」


 「…あの黒いふちのメガネをかけたブロンドの女さ…」


 「…アンナさん?…」


 「…マリア、知っているのか?…」


 「…最近、娘が、この保育園に入ってきたの…」


 「…そうか…」


 私は、頷いた…


 やはり、そうか?…


 「…だから、すぐに、わかった…」


 マリアが、私の想像を、裏付けるようなことを、言った…


 「…アンナさんは、美人よ…」


 「…美人だと?…」


 「…そうよ…美人…」


 「…でも、私の目には、そうは、見えんゾ…」


 「…それは、今、アンナさんが、メガネをかけているから…メガネを外せば、かなりの美人よ…もちろん、ママやリンダさんには、敵わないけれども…」


 「…なんだと?…」


 私は、驚いた…


 と、いうことは、どうだ?


 まさか?


 まさか、このアムンゼン…


 まさか、3歳のガキンチョのカラダしか、持たんにも、かかわらず、園児の母親を狙っているということか?


 そんなバカな?


 いや、


 バカなことではない…


 なにしろ、このアムンゼンは、ホントは、30歳…


 立派な大人だ…


 立派な成人男子だ…


 だから、園児の母親狙いでも、おかしくはない…


 年齢は、合う…


 しかし、


 しかし、だ…


 私は、腕を組んで、悩んでいると、アムンゼンが、


 「…矢田さん…どうかしたんですか?…」


 と、聞いて来た…


 だから、私は、単刀直入に言った…


 「…アムンゼン…オマエ、不倫は、いかんゾ…」


 「…不倫? …なんですか? …いきなり…」


 「…ひとの物は、盗っちゃ、ダメってことさ…」


 「…ひとの物? …どういうことですか?

 ボクは、生まれてこのかた、お金に不自由したことは、ありません…ですから、ひとの物など、盗ることなど…」


 「…物は、例えさ…」


 「…例え?…」


 「…夫が、いる女に手を出したら、いかんゾ…それは、男として、最低の行為…しては、いかんことさ…」


 「…矢田さん…どうして、いきなり、そんな話になるんですか? …説明してください…」


 「…説明だと?…」


 「…ハイ…説明です…きちんと、ボクに説明して下さい…」


 「…それは、するまでもないさ…」


 「…どうして、ですか?…」


 「…オマエは、それが、わかっているはずさ…子供じゃないんだ…」


 私は、力強く言った…


 すると、あろうことか、アムンゼンが、反撃した…


 「…ボクは、子供です…子供のボクに、わかるように、説明してください…」


 アムンゼンが、訴える…


 私は、なんだか、面倒臭くなった…


 だから、


 「…子供だろうが、なんだろうが、関係ないさ…ひとの物を盗っちゃダメさ…」


 私は、大声で、怒鳴った…


 そして、それ以上、なにも、言わなかった…


 すると、当然、アムンゼンが、なにか、言ってくると、思っていたが、なにも、言わんかった…


 私は、なぜ、アムンゼンが、なにも、言って来んのか、不思議だった…


 すると、私の隣にいる、マリアが、私の腕を引っ張った…


 「…矢田ちゃん…矢田ちゃんと、アムンゼンの会話…みんな耳を澄ませて、聞いてるよ…」


 「…なんだと?…」


 私は、慌てて、周囲を見渡した…


 たしかに、このマリアの言う通りだった…


 このバスの中にいる全員が、耳を澄ませて、私とアムンゼンの会話を、聞いていた…


 私は、驚いた…


 まさか、私とアムンゼンの会話を、バスの中の乗客全員が、耳を傾けて、聞いているとは、思わんかったからだ…


 私は、どうして、いいか、わからんかった…


 わからんかったのだ…


 「…矢田ちゃん…ただでさえ、目立つんだから、行動に気を付けなきゃ、ダメ…」


 と、マリアが、私の母親のように、言った…


 私は、ぐうの音も、出んかった…


 言われてみれば、その通り…


 その通りだからだ…


 私が落ち込んでいると、


 「…矢田さん…いつものことです…気にしないで下さい…」


 と、アムンゼンに慰められた…


 「…いつものことだと?…」


 「…矢田さんは太陽…誰の心も照らします…誰の心にも、安らぎを与えます…」


 「…」


 「…だからこそ、矢田さんは、好かれるんです…だからこそ、注目されるんです…」


 アムンゼンが、断言した…


 私は、そんなものかと、思った…


 そんなものかと、納得した…


 が、


 よく見ると、アムンゼンが、必死に笑いをかみ殺しているのが、わかった…


 途端に、私の怒りが、爆発した…


 …コイツ、もしかして、今、私をからかった?…


 その事実が、わかったのだ…


 …コイツ、許さん!…


 私は、思った…


 と、同時に、行動しようとした…


 具体的には、アムンゼンを引っぱたこうと、したのだ…


 私は、大きく、振りかぶって、アムンゼンをひっぱたこうとした…


 が、


 引っぱたけんかった…


 誰かが、私の腕を持ったのだ…


 私は、私の腕を掴んだ相手を見た…


 それは、さっき、アムンゼンが、見ていた女…


 アンナという名前の金髪碧眼の女だった…


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