35歳のシンデレラ 大道芸人編 12
コンビニを出た私とアムンゼンと、猿の太郎の一行は、今夜、泊まる場所を探した…
これは、最初、私と猿の太郎が、二人だけのときは、ネットカフェを探して、泊まった…
ホテルは、高い…
私と太郎の稼ぎでは、泊まることが、できんかった…
だから、ネットカフェに目をつけた…
私と太郎を見た、ネットカフェの店員は、最初、
「…お客様…ペットは、うちでは、禁止で…」
と、私に告げた…
私は、
「…なに? …ペットだと?…」
と、応じた…
「…どこに、ペットがいる?…」
「…ですが、お客様、その猿は?…」
「…この猿は、ペットじゃないさ…相棒さ…」
「…相棒?…」
「…いや、師匠といってもいい存在さ…なにしろ、私は、ここ数日、この太郎のおかげで、生きてゆけてるのさ…」
私が、言うと、隣に、いた、若い女性が、
「…あっ? …太郎ちゃん?…」
と、私と、いっしょにいた、猿の太郎を見て、言った…
それから、私を、見て、
「…今日、昼間、お姉さんと、太郎さんの大道芸を見ました…」
と、続けた…
私は、
「…ありがとうございます…」
と、礼を言った…
すると、その若い女の店員が、
「…店長…このお姉さんと、この猿の太郎ちゃんは、昼間、大道芸を見せて、くれているの…この太郎ちゃんは、すごい、お利口よ…」
と、店長に、告げた…
店長は、
「…しかし、猿は…」
と、躊躇った…
当然だ…
「…店長…店長が、そう言うのは、わかりますが、最近は、ネットカフェの売り上げも、落ちてるし…」
女性店員が、言うと、その言葉が、決定打になった…
「…わかった…見なかったことにしよう…」
店長が、告げた…
私と、太郎は、店長に、ペコリと、頭を下げた…
「…すまんかったさ…礼を言うさ…」
私は、告げて、ネットカフェに、泊まった…
それが、最初の数日だった…
が、
その状況が、激変するかと、思われたのが、アムンゼンの登場だった…
私と、太郎が、大道芸を見せようとする、直前に、アムンゼンが、あの金色のロールスロイスで、現れたのだ…
アムンゼンは、子供のくせに、葉巻を咥えて、私と、太郎の前に現れた…
「…探しましたよ…矢田さん…」
と、葉巻を口に咥えながら、偉そうな態度で、私の前にやって来た…
おまけに、3歳児のくせに、黒いサングラスまで、していた…
私は、それが、許せんかった…
いかにも、偉そうなアムンゼンの態度が、許せんかったのだ…
が、
私以上に、アムンゼンを許せんものが、近くにいた…
猿の太郎だった…
太郎は、タバコが、嫌いだったのだ…
アムンゼンの咥えた葉巻をすぐに、取り上げた…
アムンゼンが、焦って、
「…コラッ!…」
と、怒鳴った…
その途端、アムンゼンの背後から、ロールスロイスに乗っていた、アムンゼンの護衛が、数人出てきた…
いかにも、ボディーガードと思える屈強なカラダを持つ、大柄な男たちだった…
その男たちが、猿の太郎を捕まえようとした…
が、
すぐに、アムンゼンが、
「…手を出しては、ダメだ…」
と、怒鳴った…
「…この猿は、矢田さんの相棒だ…手出し無用だ…」
と、ボディーガードたちに、命令した…
だから、ボディーガードたちは、太郎に手を出さんかった…
私は、
「…すまんかったさ…」
と、ボディーガードたちに、詫びた…
「…太郎のしたことを、許してやってくれ…」
と、ボディーガードたちに、頭を下げた…
すると、今度は、太郎は、アムンゼンのサングラスを狙った…
アムンゼンのかけたサングラスを、奪った…
これには、アムンゼンも、激怒した…
「…こら、返せ!…」
と、怒鳴って、太郎を追いかけた…
当たり前のことだ…
が、
それが、周囲の者には、滑稽に見えたらしい…
すでに、観客が集まり出していた…
その観客の前で、3歳の幼児が、猿と、ケンカを始めたのだ…
まるで、コメディーのように、見えたのだろう…
「…坊や、頑張って!…」
と、いう声援が、若い女のコの間から、上がった…
「…坊や?…」
その声に、アムンゼンが、足を止めた…
私は、アムンゼンが、怒ったのか? と、思った…
私のカラダの中で、緊張が走った…
…これは、マズい!…
アムンゼンを怒らせては、マズい!
サウジから、この日本に、石油が入って来なくなるかも、しれんゾ…
私は、思った…
思ったのだ…
が、
アムンゼンの反応は、予想外だった…
若い女の声に、顔を赤らめ、
「…ボク、頑張ります!…」
と、彼女たちに、向かって、宣言した…
宣言したのだ…
私は、驚いた…
仰天した…
これでは、ただの女好き…
ただの女好きに過ぎない…
アラブの至宝と呼ばれた男の正体は、ただの女好きなのか?
と、思った…
思ったのだ…
が、
やはりと、いうか、ただの女好きではなかった…
彼女たちの声に、反応したのか、猿の太郎が、アムンゼンの元に、戻ってきて、サングラスをアムンゼンに返した…
が、
アムンゼンは、それを、受け取らんかった…
「…太郎さん…アナタに、そのサングラスを上げましょう…」
と、アムンゼンが、太郎に、言った…
すると、アムンゼンの言葉が、わかったように、太郎は、ペコリと、アムンゼンに頭を下げて、自分が、サングラスをかけた…
それを、見た観客が、パチパチと、手を叩いて、喜んだ…
「…すごい、良く出来ている…このお芝居…」
と、口々に、言った…
「…一体、誰が、シナリオを書いたんだろうね…」
そんな声が、聞こえてきた…
「…この猿の太郎と、この坊やのやりとりが、秀逸…そのうち、テレビに出るかも…」
そんなやり取りが、聞こえてきた…
私にとっては、驚き…
驚き以外の何物でもなかった…
ただ、この猿の太郎と、アムンゼンがした、行為を、周囲の人間が、これほど、面白がってくれるとは、思わんかったからだ…
そして、ふと、私の頭に中に、ある考えが、閃いた…
…このアムンゼンは、使えるゾ!…
そんな悪魔の囁きが、この矢田の頭の中に、聞こえてきた…
…このアムンゼンを使えば、きっと、今より、面白い芸が、できるゾ…
そう、気付いた…
ここ数日は、この猿の太郎が、ひとりで、芸をしていた…
それは、それで、面白かった…
が、
すぐに、限界が、来るだろう…
どんなことも、最初は、すごいとか、面白いとか、感動するものだが、何度も、同じ芸を見せれば、飽きる…
だから、少しばかり、バリエーションを増やさなければ、ならん…
いつまでも、同じ芸を見せていては、飽きられるからだ…
そのことに、気付いた、優秀な頭脳の持ち主である、この矢田は、
「…アムンゼン…」
と、アムンゼンの名前を呼び、その小柄なカラダを抱き締めた…
「…オマエ…この私に力を貸せ…」
と、アムンゼンの小柄なカラダを抱き締めながら、半ば、脅した…
「…力?…」
「…そうさ…」
「…一体、ボクのどんな力ですか?…」
「…この猿の太郎といっしょに、芸を見せるのさ…」
「…太郎さんと?…」
「…そうさ…」
「…でも、ボクもサウジの王族としての立場が?…」
「…立場だと?…」
「…ハイ…」
「…オマエ…今、なにをしている?…」
「…なにをしているといっても…」
「…働いているか?…」
「…いえ、ボクは、このカラダですから、午前中は、矢田さんも、知っているように、保育園に通ってます…」
「…そんなことは、わかっているさ…でも、それじゃ、ダメさ…」
「…ダメ? …どうして、ダメなんですか?…」
「…オマエ、30歳の大人が、3歳の子供のフリをして、保育園に通っていることが、すでにダメさ…ひとの道に外れているさ…」
「…そんな…」
「…今すぐ、心を入れ替えて、働け…この猿の太郎の相棒となり、二人で、芸を見せろ!…」
「…矢田さん、そんな無茶な…」
「…無茶でも、なんでも、構わないさ…為せば成る、成さねばならんさ、何事も…成さぬは、人の成さぬなりさ…」
私は、言った…
すると、アムンゼンが、
「…上杉鷹山ですね…」
と、反応した…
「…そうさ…それに、アムンゼン…私に力を貸せば、オマエとマリアの間を取り持って、やってやっても、いいさ…」
私は、アムンゼンに、悪魔の取引を持ちかけた…
「…マリアとの?…」
途端に、呆気なく、アムンゼンが、反応した…
アラブの至宝だ、なんだと、世間で呼ばれていても、ただの男…
好きな女の名前を聞いただけで、顔色が変わった…
実に単純な男だった…
「…なんなら、マリアの母親のバニラと、私が、直接、話をつけてやっても、いいさ…」
「…バニラさんと?…」
「…そうさ…私とバニラは、昵懇の仲さ…あの女は、私の頼みは、断らないさ…」
私は、自信たっぷりに、言った…
が、
それは、ウソ…
ウソもウソ…
真っ赤なウソだった(爆笑)…
ホントは、あのバカ、バニラと、派手なケンカをして、それが、原因で、私は、家にいられなくなり、家出をした…
すべては、あのバカ…
バカ、バニラが、原因だった…




