表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/100

第95話 礼拝堂に棲むもの

テスト最終日の放課後、しずくたちは図書準備室に集まっていた。


ミコトがティーセットを用意し始めると、図書準備室に茶葉の香りが広がった。

しずくは、その香りを感じながら窓の外を見る。

普通の放課後、それが少しだけ尊いものに思えた。


ほのかの声が、しずくを現実に引き戻した。


「いやー、現実のボスもなんとか倒したね」


「…中間テスト」


「現実の中ボスじゃん」


「期末が本ボスですね」


ミコトが紅茶を注ぎながら言った。


「ミコト、今それ言う?」


「大事なことなので」


ミコトが三人分のカップを置く。


「でも、本当にお疲れさまでした」


その言葉だけは、少し柔らかかった。


ほのかがカップを持ち上げる、二人を見た。


「じゃあ、テスト終了を祝して」


しずくもカップを持つ、ミコトも少しだけ照れながら続けた。


「お疲れさまでした」


紅茶を飲むと、温かさが体に落ちた。

しずくは、ふっと息を吐く。


「…終わった」


「うん、終わったから三層だね」


「その前に、情報整理です」


「分かってるって」


ほのかは端末を取り出しながら笑った。


「礼拝堂に地下墓地。ちゃんと順番に対策しよう」


「…うん」


しずくは、紅茶のカップを両手で包みながら思った。


日常を大事にする。

けれど、前へ進むこともやめない。

その両方を持ったまま、三人は次の階層へ向かうのだ。


ほのかが端末を机の中央に置いた。

画面には、協会データベースから抜き出した三層の概要が表示されている。


三層、礼拝堂。


二層までのような天然洞窟ではなく、明らかな人工物の階層。

そして、そこに巣食う異形の魔物たち。


ミコトが画面を見ながら、要点を読み上げる。


「三層はカエルもどきと呼ばれる異形の魔物が、異形の神を祀る礼拝の場…とあります」


「異形の神」


ほのかが嫌そうな顔をした。


「いきなり宗教色強くない?」


「…礼拝堂だから」


しずくが小さく呟いた。


ほのかは、頷きつつも眉を寄せる。


「二層のゴブリンラボも嫌だったけど、これはこれで嫌な感じあるね」


ミコトは続ける。


「地下には墓地があり、アンデッドの巣窟になっているそうです」

「三層は地上階だけでなく、地下も探索対象になります」


「地下墓地…」


それだけで、二層とはまるで空気が違う。


ほのかが画面をスクロールしながら、画面を指差した。


「で、主な敵がカエルもどき」


画面には、簡易イラストが表示されていた。


カエルの顔。

だが胴体と手足は、どこか人型に近い。

皮膚はぬめっていて、目だけが妙に大きい。


しずくとほのかが、あからさまに顔をしかめる。


「…見た目がだいぶ嫌」


「私も嫌」


ミコトは、表情を変えずに説明を続ける。


「カエルもどきは、ゴブリンよりも知能が高いとあります」

「人語に近い言葉を持っていて、簡単な意思疎通を行う個体も確認されているようです」


「ゴブリンより賢いのかぁ」


ほのかが椅子にもたれるように、力を抜いた。


「二層のゴブリンでもけっこう嫌だったのに」


「…話すのかな」


しずくが呟きに、少しだけ間が空いた。


人語に近い言葉。

ただ鳴くだけのモンスターではない。

こちらに向けて何かを言ってくる可能性がある。


それは、ただ強い敵とは違う嫌さがあった。


ミコトが、画面の別項目を指差す。


「聖属性魔法を使用する個体も確認されています」


「聖属性?」


ほのかが目を丸くした。


「敵なのに?」


「礼拝堂という環境と関係している可能性があるそうです」


ミコトの表情が少し厳しくなる。


「聖属性は、必ずしも人間側だけの属性ではありません」

「浄化、光といった性質を持つ魔法体系なので、使い手の善悪とは別です」


「なるほど」


ほのかが納得したような、していないような顔をする。


「敵がヒールしたり、こっちを光で縛ったりするかもってこと?」


「その可能性はあります」


「うわ、面倒」


「…ミコトと同じ系統?」


「完全に同じとは限りませんが、近いものはあると思います」


ほのかが、さらに画面をスクロールさせる。


「弱点は雷だって」


「雷…」


しずくは少し考える。

今の三人に、雷属性の攻撃手段はほとんどない。


「皮膚は柔らかいため物理攻撃もよく通るとあります。雷がなくても、問題なさそうです」


「そこは救いだね」


しずくは紅茶のカップを両手で包んだまま、画面に映るカエルもどきのイラストを見つめた。


二層のゴブリンは、ずる賢かった。

三層のカエルもどきは、それより知能が高い。


しかも、異形の神を祀っている。


その一点が、しずくの中で妙に引っかかっていた。


「…神って、なんだろ」


ぽつりと漏れた言葉に、ほのかとミコトがしずくを見る。


「少なくとも、現実世界の宗教とは別物でしょうね」

「ダンジョン内の環境やモンスターの信仰体系として設定されているのか、それとも実体のある何かを祀っているのかは、分かりません」


「実体のある何か、やめてほしいなあ」


「…うん」


二層で赤い○に認識された。

ボス部屋で、月もどきに見下ろされた。

だからこそ、異形の神という言葉がただの設定に思えない。


ほのかが、少し明るい声を出した。


「まあ、すぐ突っ込むわけじゃないし」


「…うん」


今はまだ、無茶をする時ではない。

でも、進む準備はできる。


三層礼拝堂。

まだ見ぬ敵と異形の神。


不安はあるけれど、以前よりは一人で怖がっていない。

ほのかが情報を集め、ミコトが整理し自分が前に立つ。

その形が少しずつできている。


ほのかが端末を閉じた。


「よし、三層対策メモ第一弾完成」


「では、次はテスト返却後の復習計画を」


「え、まだ現実の敵残ってるの?」


「返却された答案の見直しまでがテストです」


「名言っぽく言わないで」


しずくは、思わず少し笑った。

三層の礼拝堂より先に、答案返却という現実の追撃が待っているらしい。

続きが気になる方は、ブクマお願いします!

また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ