第42話 三人パーティ始動
放課後に図書委員の届けを出してから、三人はそのまま探索者協会に来ていた。
「いやー、展開が濃いね」
ほのかが歩きながら笑う。
「昼休みに図書委員になって、放課後に探索者協会。高校生活の密度どうなってんの」
「…たしかに」
しずくも、小さく頷く。
ミコトは少しだけ困ったように笑った。
「普通では、ないですね」
三人で並んでロビーへ入る。
いつもの熱気。
いつものざわめき。
でも今日は、昨日までより少しだけ慣れた感じがした。
受付へ向かうと、いつもの受付のお姉さんがすぐに気づいた。
「あら、今日は三人なのね」
「はい、ミコトをパーティーに加えたいです」
ミコトが、少し背筋を伸ばして頭を下げる。
「白澤ミコトです。お願いします」
受付のお姉さんは、慣れた手つきで端末を開いた。
「じゃあ、三人パーティーの申請ね。探索者カードお願い」
三人がそれぞれカードを出すと、端末が小さく音を鳴らす。
「佐倉しずくさん、神宮ほのかさん、白澤ミコトさん」
確認するように目を走らせてから、受付のお姉さんが言う。
「では、既存二名パーティーに白澤さんを追加。収益分配は均等でいい?」
「均等で!」
「はい、大丈夫です」
しずくも頷く。
それから、お姉さんが少しだけ笑って言った。
「これで正式に三人パーティーね」
ミコトのカードを返しながら、少し柔らかい声になる。
「改めて、ようこそ」
ミコトが、少しだけ目を丸くして、それから小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
昨日は二人、今日は三人。
少しずつ、ちゃんと形になっていく。
その時、受付のお姉さんが「あ、そうだ」と思い出したように言った。
「昨日の件なんだけど」
三人の空気が少しだけ引き締まる。
あの男二人のことだ。
お姉さんは、端末を軽く見ながら続けた。
「あの二人、他にも余罪があったみたいでね」
ほのかの眉がぴくっと動く。
「余罪ですか?」
「初心者を危険地帯に連れ込んで押しつける、報酬の不当な取り分、あと虚偽報告の疑いもいくつか」
ミコトが、ローブの裾をぎゅっと握る。
「結果として、探索者資格の停止処分になったよ」
ロビーのざわめきだけが遠くで鳴っている。
ほのかが、短く息を吐いた。
「そっか」
しずくも、小さく頷いた。
「…うん」
ミコトは、しばらく黙っていた。
それから、小さな声で言う。
「よかった」
そのよかったには、いろんな意味が入っていた気がした。
自分が大げさだったわけじゃなかったこと。
ちゃんと協会が動いてくれたこと。
次の誰かが、同じ目に遭いにくくなったこと。
受付のお姉さんは、ミコトの表情を見て少しだけ優しい顔になる。
「ちゃんと報告してくれて助かったよ」
ミコトは、少しだけ照れたように目を伏せた。
「はい」
ほのかが笑う。
「まあ、自業自得だよね」
その言い方は軽いけれど、そこに甘さはなかった。
しずくも思う。
助けたことと、許すことは別だ。
助けたのは、自分たちがそうしたかったから。
でも、その先で協会が処分するのは当然だ。
受付のお姉さんは、そこで少しだけ話題を切り替えるように笑った。
「で、三人パーティーになったわけだけど」
三人を見る。
「今日も潜る?」
ほのかが、すぐににやっとした。
「そのつもりです」
しずくは、その横で前髪の奥から二人を見た。
図書委員の届けを出して。
そのあと協会で三人パーティーを正式登録して。
そして、これから潜る。
忙しい。
でも、嫌じゃない。
「…いく」
口から自然に言葉が出ていた。
ミコトが、その声に少しだけ笑った。
「わたしも」
受付のお姉さんは、そんな三人を見て少し楽しそうに言った。
「若いわねぇ」
「じゃあ、今日は三人パーティー初日。無理はしないこと」
ほのかが手を上げる。
「はーい」
しずくとミコトも、小さく頷いた。
ロビーのざわめきの中。
三人はカードを受け取って、並んでゲートの方へ向かった。
正式な三人パーティー。
その事実が、しずくにはまだ少し不思議で、でも確かにうれしかった。
ゲートを潜った瞬間、配信コメント欄が一気に流れた。
『あれ?三人いる?』
『新メンバー?』
『昨日の小さい子だ!』
『パーティー増えてる!』
しずくは胸元の端末をちらりと見て、少しだけ目を泳がせた。
配信の向こうにも、もう隠しきれない。
ほのかはそんな空気を気にするでもなく、いつもの明るい声を出した。
「今日は三人パーティーでーす」
ミコトが、隣でちょこんと頭を下げる。
「白澤ミコトです。よろしくお願いします」
コメントがさらに加速する。
『礼儀正しい』
『聖職っぽい』
『回復役きた!?』
『しずくパーティー完成してきたな』
そのタイミングで、しずくの前に半透明のウィンドウが開いた。
【本日の型 マジシャン型】
魔力:大幅に上昇
精神力:大幅に上昇
身体の奥に、ふっと冷たいような熱が入る。
頭の中が澄んで、逆に周囲の音が少し遠くなる。
【マジックアロー】
小さな魔力の矢を放つ。
複数同時生成可能。
【マジックブロウ】
武器または素手に魔力を付与する。
物理+魔力の打撃を与える。
さらに、足元に光が落ちる。
《支給品》
初期装備、初級ポーション ×2
樫の杖と小さな小瓶が現れる。
しずくがそれを拾い上げると、手にしっくりきた。
昨日のロングソードや軽機弩とも違う、魔力を通しやすい感触。
ミコトが、小さく感心した。
「やっぱり、日替わりで変わるんですね」
「…うん」
しずくが頷く。
ほのかが、機弩を肩に担ぎながら笑った。
「今日は魔法寄りか、三人パーティーでしずくがマジシャンなら、だいぶ火力厚い」
しずくは、杖を見たあと自分の装備も確かめる。
銀のバックラー。
銀兎のジャケット。
ロック装備は今日も残っている。
つまり今日は、前衛寄りのしずくではなく、魔法寄りのしずくだ。
ほのかもそれを理解したらしい。
「じゃ、今日は少し形変える?」
ミコトが顔を上げる。
「どうしますか」
ほのかが指を折る。
「基本は、私が前から見て射線管理」
「ミコトは後ろから拘束と回復」
「はい」
「しずくは前衛魔術師いける?」
しずくが少し考えてから頷く。
「できる」
コメント欄が盛り上がる。
『前衛魔術師再び』
『魔法戦士だ』
『前衛魔術師+魔法+ガンナーでバランスいいな』
ミコトが、少しだけ真面目な顔でしずくを見る。
「魔力の流れ、昨日よりだいぶ大きいです」
「わかるの?」
「しずくさんの周り、かなり濃いです」
魔力調律。
やっぱり便利だ、とほのかが笑う。
「じゃ、しずくの火力チェックも兼ねて、今日は二層の手前で肩慣らししよっか」
「三人パーティー初日だから、まずは連携確認」
ミコトも頷いた。
「それがいいと思います」
しずくも、小さく息を吸って頷く。
ほのかの軽機弩。
しずくの樫の杖と銀盾。
ミコトの聖属性魔法。
昨日までとは、また違う形。
しずくは少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
怖さもある。
でも、それ以上に、今日はどんなふうに戦えるのか知りたいと思っている。
ほのかが、にっと笑った。
「三人パーティー、初日開始」
ミコトが静かに杖を構える。
しずくも樫の杖を握り直した。
湿ったダンジョンの空気の中、三人の最初の一歩が重なる。
その奥から、もう何かの気配が近づいてきていた。
続きが気になる方は、ブクマお願いします!
また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!




