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憧れの診療所勤務!  作者: 赤坂秀一
第四章 二人の受験
34/55

34 浜田さんに新薬を!

お待たせしました第34話を更新しました!


前回、医療センターまで葉月さんの様子を見に行きましたけど、川村さんの計らいで葉月さんは元気を取り戻したみたいでした。川村さんからは葉月さんの事をお願いされましたけど、本当にうちの診療所に来るのかな……

診療所に一本の電話がありました。

「はい、出羽(いずわ)診療所今村(いまむら)ですけど……」

鳥越(とりごえ)です。今村先生、ご無沙汰しております』

「はい、あの…… どうかされたんですか?」

『いえ、今村先生も清川(きよかわ)村は今年で三年目なので来年にはこっちに戻れるでしょうからその準備の件で……』

 あっ、この展開は鳥越院長、何かご存知のようです。

「あの、その件なんですけど…… 実はDIDとGIDの患者さんがいまして……」

『そうですか…… 噂は本当だったんですね』

「噂、ですか」

『ええ、北総(きたそう)内でも、大学の方でも』

 大学では玲華(れいか)が、北総では慶子(けいこ)先輩が話しちゃったんでしょうね……

「鳥越院長、二人をこのまま残して帰るのは難しいです。それで、あと二年、延長させて頂きたいのですが……」

『はあ、そうですか…… 噂を聞いたときから、そんな胸騒ぎがしていました。しかし今村先生、延長は二年までですよ! あなたは橋本(はしもと)大学と北山総合(きたやまそうごう)病院との間で地域医療枠の契約をしたことで九年間北総で医療をする事になっている訳ですから』

「はい」

『まあ、その後も診療所に残りたい場合は、今村先生と清川村とで契約してもらう事になると思います。そうなった場合でも、一度北総で契約終了の手続きをしてもらわないといけませんけどね』

「はい……」

『うーん、解りました。二年後にまた、お話をしましょう』

 そう言われて電話は終わりました。でも、取り敢えず二年間の延長は許可して頂きましたので、あの二人をある程度までは見届ける事が出来るでしょう。

飛鳥(あすか)先生……」

 (しずく)がいました。今の話を訊いていたかも知れませんね……

「雫、ごめんね! あと二年延長する事にしたから」

「はい」

「もし…… 嫌だったら、雫は先に帰っても良いからね!」

 私がそう言うと……

「飛鳥先生が残るなら私も残りますよ。先生を一人にするような事はしません」

「でも雫、大丈夫?」

「大丈夫ですよ、先生と私は夫婦なんですからね! だから…… いつでも一緒です」

 雫のこの言葉には恥ずかしさもあったけど、とても胸に刺さりました。凄く嬉しかったかな。


 そんな話があって一ヶ月が過ぎた頃のことです。

「飛鳥先生、白河葉月(しらかわはずき)さんです! やっぱり来ましたね」

 うーん、私で良かったのかな……

「白河さんどうぞ!」

 すると以前より元気そうな葉月さんが診察室へ入って来ました。

「先生、よろしくお願いします」

「はい、でも、私で良かったの?」

「はい、先生だったら親身になって頂けると思ったので」

 そう言って一通の封筒を手渡されました。私が中を確認すると、長谷川(はせがわ)先生からの紹介状でした。はあ…… 長谷川先生すみません、本当は先生の所で治療するはずだったのに……

「えっと、それじゃ、体重を測ってください」

 葉月さんは私の指示通り体重計に乗りました。体重は44kg BMIは18.31です。まだ痩せてますね……

「長谷川先生からは何か言われた?」

「はい、少しずつ体重を増やしていきましょうって!」

「うん、そうだね! 取り敢えず体重を50kg、BMIを20.81まで戻したいね」

「はい、頑張ります」

 そう言った葉月さんの笑顔は可愛いです。初めて私に笑顔を見せてくれました。

「先生、どうかしました?」

「ううん、初めて笑顔を見たかなって」

 すると葉月さんも恥ずかしかったのかちょっと頬を赤くしてます。

「先生、変な事言わないで!」

「はい、はい、でもこれは川村(かわむら)さんのお陰だからね! 感謝しなきゃ駄目だよ! 私じゃ何も出来なかったからね」

「はい、私どうかしてました」

 彼女がそう言った時でした。

「先生、英語が解らないんですけど……」

 今日も奏音(かのん)ちゃんが試験勉強のため診療所に来ています。

「あっ、奏音ちゃんちょっと待ってね!」

 私がそう言った時でした。

「ねえ、どこが解らないの?」

 えっと、葉月さん……

 そういう事で葉月さんの治療も終わり、奏音ちゃんと二人奥の部屋で勉強をしています。このまま葉月さんが教えてくれると私としては助かるんですけどね……


 季節は七月、夏真っ只中です。奏音ちゃんも今日から夏休みですけど…… 試験勉強をするために診療所に来ています。

「出来たかな!」

「先生、ちょっと待って、早すぎるよ!」

「何言ってるの、試験時間は一教科五十分なんだからね」

「うーん、時間が足りない……」

 私がそうやって奏音ちゃんの相手をしている時でした。

「飛鳥先生、初診の患者さんですけど……」

 華純さんが首を傾げながら私の元へ来ました。

「どうかしたの?」

「それが、健康保険証を持っていないみたいで……」

「男の人?」

「いえ、女の人です。でも、先生の事は知ってるみたいですよ! 飛鳥先生って言ってましたから」

 えっと、誰だろう……

「それじゃ、私が待合室に呼びに行くから」

「はい、お願いします」

 そう言って、私は恐る恐る待合室の戸に手をかけます。また、精神的な患者さんだと厄介なので……

『ガチャ』

 私は静かに戸を開けて待合室を覗き見ました。

「あっ、飛鳥! 久しぶり」

 えっ! そこには幼馴染の斎藤瑞稀(さいとうみずき)がいました。

「瑞稀! どうしてここに…… どこか具合でも悪いの?」

「飛鳥、なんでそうなるのよ」

「いや、受付の看護師さんが保険証を持っていないみたいって言うから」

「あっ、そういう事か! 確かに…… 飛鳥先生お願いしますって言ったら、何だか看護師さんの様子が可笑しかったもんね、勘違いされてたのか」

 華純さんには瑞稀の事が不審者に見えたのかな……

「でも、本当久しぶりだよね、結婚式の時以来だっけ!」

「そんなところじゃない」

「それで、どうしたの?」

「うん、夏休みを利用して温泉に来たの」

「いつまでいるの?」

「えっと、三泊四日!」

「ふーん、高校の先生って暇なんだね!」

「なんでそうなるのよ!」

 私は瑞稀に怒られてしまいましたけど……

「でも良いな、私は夏休みなんて無いよ!」

「でも、温泉に行こうと思ったらいつでも行けるじゃない」

 うん…… まあ、確かにそうなんだけどね……

「でも、営業時間外だけどね」

「何それ!」

「だって、私は女湯も男湯も無理だから……」

「あっ、そうだったね……」

 その時、奏音ちゃんがノートと参考書を持って私の所へ来ました。

「飛鳥先生、疑問文の作り方を教えてください」

 あっ、そうだ!

「瑞稀、時間ある?」

 瑞稀は苦笑しながら……

「あるけど…… 何?」

 そういう事で、奏音ちゃんの勉強を見てもらう事にしました。

「飛鳥、この借りは大きいからね!」

「はい、はい、どうせする事ないんでしょう」

「まあね!」

 その時、患者さんが来ましたけど二人いるのかな…… ひとりは鳥巣郷(とりすごう)浜田(はまだ)さんのようです。もうひとりの女性は?

「あっ、慶子(けいこ)先生おはようございます!」

 いや、飛鳥先生ですけど……

「先生、おはようございます」

 えっと、ヘルパーさんかな?

「おはようございます。さあ、どうぞ」

 私はすぐに診察室へ案内しました。

「いや、すぐに慶子先生に診てもらえるなんてな!」

 だから、飛鳥先生だってば…… 早速、いつものように華純(かすみ)さんに計算の相手をしてもらいます。

「浜田さん、百引く七は?」

「看護師さん、いつも同じ問題じゃ答えば覚えとって!」

 浜田さんはそう言いますけど……

「答えは何ですか?」

「九十三!」

「では、九十三引く七は?」

「えっと、八十六」

 うん、今日は調子良いですね! やっぱり答えを覚えているのかな……

「それじゃ、八十六引く七は?」

「七十七じゃ!」

 はあ…… やっぱり覚えてはいないようです。もしくは間違って覚えているか……

「違うよ!」

「ありゃ、違ったか……」

「それじゃ七十七引く七は?」

「華純さん、もう良いよ」

 うーん、進行してはいないようです。

「次は、平行に歩いてみましょうか」

 すると、ちょっと怪しいですけど真っ直ぐ歩いています。うん、お薬を出すまでじゃ無いですね!

「先生、父にお薬を出してください」

 えっ、娘さんだったのね!

「えっと、浜田さんの症状はずっと進行していません。ですから今のところお薬の必要はありませんけど」

「でも先生、認知症の新しいお薬が出ましたよね! なんとかネマブって……」

「うーん、認知症の新薬って、ひょっとしてレカネマブの事ですか?」

「はい、それです! そのお薬を処方してもらえませんか?」

 えっと、あれはまだ承認されていないんじゃ……

「あの浜田さん、レカネマブはまだ日本では承認されていませんよ! アメリカでは、FDAが承認したみたいですけど」

「でも、その後承認されたってニュースで言ってましたよね!」

「えっと、それは承認ではなく、国に申請したという事ですね! それでまだ、承認はされていませんので……」

「えっと…… 勘違いですか……?」

 まあ、そうですね……

「でも浜田さん、レカネマブって結構高額ですよ! アメリカでは確か、年間二万六千五百ドル、日本円で三百五十万円くらいになるそうです。それに保険適用になるかどうかも解りません。ちなみに飲薬ではなく点滴静注による投与だったと思います」

「はあ…… では」

「先ほども言いましたけど、浜田さんの病状は進行していません。それに物忘れがちょっとあるくらいなので……」

 まあ、私の名前は未だに覚えてもらってませんけど……

「解りました……」

 そこで診察も終わり浜田さんは帰って行きました。

「先生、レカネマブって認知症を治せるんですか?」

 私の側で聞いていた江下(えした)先生です。

「あれも、症状を遅らせるお薬のひとつです。認知症というかアルツハイマーの原因はアミロイドβというタンパク質が脳内に蓄積される事で発症するの! レカネマブはそのアミロイドβを取り除く事が出来るんだけど…… 蓄積は止められないの」

「ねえ飛鳥、その話若い間は、その、アミロなんとかっていうタンパク質は出ないの?」

 奏音ちゃんの勉強を見ていた瑞稀も気になったのか私に聞いて来ました。

「若い間もアミロイドβの蓄積はあるけど、定期的に分解されて排出されるの! でも年齢を重ねると異常なアミロイドβが蓄積されて認知症を引き起こすんだよ」

「はあ…… そうなんだ! 歳は取りたく無いね……」

 瑞稀はまだ、そんな事を言う歳じゃ無いでしょう……

「瑞稀、私達はまだ若いんだから……」

「まあ、そうだけどね」

 そんな話をしている時でした。

「飛鳥先生、今度の日曜日、また、その…… 付き合ってもらえませんか?」

 華純さんからまたもやお誘いが…… 奥の方では、雫が私の事をジッと見てますけど……

「えっと、また川本市まで行くの?」

 私がそう訊くと……

「いえ、えっと、その…… 上佐野平(かみざのだいら)まで……」

「上佐野平?」

 上佐野平って、前に川本大学山岳部の救助に行った…… あれ、確か華純さんの彼氏さんが亡くなった場所じゃ……

北総の鳥越院長から二年間の延長を許可されました。これであの二人を見届ける事が出来そうです。葉月さんも良い方向に向かってますしね!

しかし、またもや華純さんに誘われました。しかも、今度は上佐野平へ…… 何をするつもりでしょうか?

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