7ー2 とっておきのメソッド
一組の男女が店内に進入してきた。カズオさんとウメコさんで間違いなさそうだ。ランはその二人に向かって、こちらに来るように手招きをして呼びかけた。
「カズオ、ウメコ、こっちこっち」
手招きに応じて二人が私たちのところまでやって来る。ヤツエさんが座っていた席を移動して私との間に二人分の空席を作り、二人はその席に腰を下ろした。
「どうも、カズオです」
カズオさんはぐるっと店内を見回した。
「静かな店ですね」
カズオさんのその発言を、彼の左隣に座ったウメコさんがたしなめた。
「一言余計よ」
カズオさんを小突くと、ウメコさんはすぐに柔和な笑みを浮かべて私たちに挨拶をした。
「ウメコです。よろしくお願いします」
初対面である私とロベールとヤツエさんに丁寧に頭を下げる様子から、彼女の品の良さが感じられた。
「……やっぱり。ウメコさんって、あのアナウンサーのウメコさんですよね。オミオくんの結婚式の司会をされていて、びっくりしたんですけど……」
ウメコさんを前にして心なしかヤツエさんの声が弾んでいる。きれいな人だとは私も思ったが、まさかアナウンサーだったとは。しかし、私は彼女をテレビで見た覚えがない。
「失礼ですが、どこの局のアナウンサーなんですか?」
「A局の、でした。数年前に退社して今はフリーなんです」
「そうでしたか……」
数年前なら、私はまだこの国に来ていない。どうりで知る機会がないわけだ。
それにしても、ローカル局とはいえ同級生からアナウンサーになる子が現れるのって、どういう気持ちになるんだろう。そういう人を育てる土壌というものにも興味が出てくる。
もののついでといってはなんだが、私はカズオさんの職業も明らかにしておきたくなった。
「カズオさんは新聞記者ですか?」
「え?」
「あの、ノリオさんの話で、将来は新聞記者になりたいって……」
「ああ、あいつ、そんなことまで話したんですか。なんだか恥ずかしいですね。実をいうと俺、新聞記者を目指すのはやめたんです。今はいろいろあって、番組制作会社でディレクターをしています」
「ディレクター? どうしてまた?」
これ以上聞き出すべきではないのかもしれないが、気になったので追求してみる。
「そうですね……。ある人のために、番組を作りたくて」
なぜだか私は、カズオさんの侵してはならない領域に踏み込んだ気がして、それ以上聞くのが怖くなった。
そんな私のためなのか、ロベールが自らの予想を先んじて口にした。
「ある人とは、ウメコさんのことかい?」
カズオさんは表情を変えず聞き返した。
「どうしてそう思われます?」
すかさずロベールが私見を述べる。
「ふたりは付き合ってるんじゃないかい?」
ふっ、とカズオさんの表情が緩んだ。
「鋭い。よく分かりましたね」
カズオさんは認めた。私は仲が良いな、くらいにしか思わなかったが、まさか恋人関係だったとは。結婚相談員としてどうなの、私。
ウメコさんのために番組を作りたい。どういうことなのか。カズオさんは語り始めた。
「俺は昔から、いろいろと調べるのが好きなんです。番組を作る過程で発見した知見をウメコと共有したい。可能なら、その番組のナレーションなり司会なりにウメコを起用したい。私情をはさむようですが、俺は仕事に対してそういうモチベーションがあってもいいと思うんです」
「ウメコさん思いなんですね……素敵だと思います」
ヤツエさんが二人を羨望のまなざしで見つめる。私も尊い関係性だなと思った。
「カズオ、あなたたちの話はいいから、そろそろ本題に……」
ランにそう言われて、私ははっとする。そうだ。私たちはオミオくんの話を聴きに来たのだ。
「ああ、オミオか……。ノリオからだいたいのことは聞いて、何を話そうか考えたんですが……。やっぱり俺にはこれしかないなと。長くなりますが聞いてください。これは俺の……いや、俺とウメコの青春の回顧録です」




