7ー1 とっておきのメソッド
オミオくんはいま、あのコメントが読まれることをどう思うだろうか。自分でも青くさい文章を書いたと後悔したくなるのか、洒落たことを言えて自己陶酔していると思われるのを嫌がるのか。もしそうであれば、私たちがその真意を探ることは、彼にとって迷惑な話ではないのか。
だとしても私は知りたい。私の嗅覚が強く反応しているのだ。きっとそこには、胸に迫るような、真剣な人の思いが隠されているはずだからと。
オミオくんに突きつける証言を集めるため、私たちはコロンボで朝食会のメンバーと会って話を聞くことを続行する。今日話を聞かせてくれるのは、ノリオさんの話にも登場したカズオさんとウメコさんの二人だ。この二人との約束を取りつけたのはランだが、同時に二人も呼ぶことになって私も驚いている。これはオミオくんの真意に、一気に近づくことになりそうだ。
コロンボの入り口から店内に入ると、ヤツエさんがすでにカウンター席に座っているのが見えた。客はヤツエさん一人だけで、カズオさんとウメコさんはまだ来ていないようだ。
「こんにちは、ヤツエさん。早いですね」
「それが、ふたり……いや、ロベールさんも含めて三人か。三人にちょっと聞いてほしいことがあって」
「どうされました?」
「よくよく考えてみると、ノリオさんの話、おかしなところがあると思うんです」
「どんなところが?」
私とランもカウンター席に腰を下ろす。
「オミオくんは『調色』で朝食を『皆んな』と作りたいと言ってるんです。ノリオさんの話でオミオくんはカナヅ高校でしかできないことがあると言っていたけど、『調色』にこのコメントを書いた時点では、仲間と一緒のカノウ高校に行って、そこでやりたいことを叶えるつもりだったってことじゃないですか?」
「言われてみれば、そうかも……」
ノリオさんの話を聞いた直後は何も疑わなかったのに、今になってそんな気がしてきた。オミオくんがカナヅ高校を志望したのは想定外のことだったのか。私は救いを求めるように、ランの方へ顔を向けた。
「『皆んなと作りたい』っていうのは、同じ場所にいなきゃいけないわけでもないでしょ。進学先はバラバラでも、心をひとつにして、それぞれの場所でベストを尽くしましょう、って意味なんじゃない」
「なるほど……」
私は感心した。そういう解釈もできるわけだ。だが、それはカナヅ高校に進学する理由にはならない。オミオくんが進学先をカナヅ高校に決めたのはいったいどういう理由からか。ヤツエさんが不安になるのも無理はない。
「オミオは、本当に自分を必要としてくれるところに行きたかったんじゃないかしら」
「カノウ高校には、ノリオさんたちもいるし、自分の役割はないと思ったのかもしれないね」
とここで、ロベールが咳払いをした。
「案外、ランのためだったりして」
「私の?」
ロベールに言われて、ランは目を丸くする。
「ランがひとりにならないように、気を遣ったとか」
「えー、絶対そんなことないわよ」
ランは否定したが、優しそうなオミオくんならありえない話ではない。私たちは何でも意味深に捉えがちだが、本当はそういうささやかな気遣いが発端なのかもしれない。
「疑問はまだあるんです」
ヤツエさんは続ける。
「ノリオさんは、オミオくんが作りたい朝食とは理想的な人間関係のことだったと言った。そしてそれは高校生活で叶えられたと。でもそれなら、オミオくんが『穀粒』に書いた『朝食は完成してますか?』という文章と食い違っていませんか? 高校卒業の時点で、まだオミオくんはやりたいことを成し遂げられていないことになる」
「つまりヤツエさんは、『穀粒』の朝食が指しているものは別にある、と……」
「そう」
「うーむ……」
私は唸ってしまった。言われてみれば矛盾している。
「ヤツエも細かいわねえ」
ランがそんなセリフを吐く。あきれているようにも、感心しているようにも聞こえた。ヤツエさんがここまで細かいことを気にしてしまうのも、オミオくんを正しく理解したいという気持ちが強いからだろう。
「ロベール、どう思う?」
私は尋ねた。
「現時点では、なんとも。今日会う二人に話を聞いてからじゃないかい」
「それもそうだね……」
やはり、答えを出すのはまだ早い。もう少し判断材料が欲しいところだ。カズオさんとウメコさんの話を聞くことで、私たちの推論はどれだけ完璧に近づけるか。二人の証言に期待が高まる。
「もう一回ノリオさんと話がしたいな……。今の疑問をぶつけてみたい」
「そう? 連絡先教えるわよ」
ランがヤツエさんにそう言ったところで、コロンボの入り口のドアが開いた。




