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精霊の朽ちる果て  作者: きりま


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新しき国に差した影・後編

 怪奇騒動を解決したノンビエゼ王は、玉座の上からツギハギだらけの座布団を取り上げてから座り直す。膝に乗せた座布団を、おもむろに抱え込んだ。

 王が故郷の雪深い山脈を出る際に、唯一の家族であった祖母が、夜なべして縫ったものを持たせてくれたのだ。

 幾度となく、折れそうになったり折れたりした心を癒してくれた存在だ。


 すでにズタボロの座布団を修繕してくれるのは、今や妻のトネィーリである。

 国を興してから祖母を呼び寄せて暮らしたが、数年前に他界した。大往生だ。

 祖母の最後の作品は、今腰かけている玉座に張った柔らかな座面だ。

 柔らかな感触でありながら、尻が沈み込み過ぎない硬さもあり大変座り心地がよい。

 職人としても、その喪失は大きなものだった。


 わずかばかり感傷に浸りながら、王は座布団に顔をうずめて唸り声を上げた。

 人に憚られる性癖があるのではない。

 手に入れた絵が引き起こした怪現象を鎮め、高らかに笑い声をあげて颯爽と引き上げたものの、座布団を抱えて背を丸めているからには憂いがあるのだ。


「勇者さーん仕事はまだあるんすよ。唸ってないで理由を聞かせるっす。鬱陶しいから」


 わざとらしさ満点の王に、側近のフォディッチが呼びかけた。

 自称勇者と名乗っていた王だ。出会ってから勇者と呼ばせられており、公の場でない限りずっとその呼び方のままだ。


「勇者たるもの、一度約束したことを違えたくないなぁなんて。人目に触れる場所に置くからと無料で手に入れたというのに」


 王が気にしていたのは、件の絵を譲ってくれたコロタマとの約束についてだ。


「そこは王様だからって言うところっす」


「なんたる言いぐさよ! 俺様が今ここにこうしていられるのも勇者としての矜持を持ち続けていたからこそだというのにもうこのフォディッチ風情が!」


「はいはい分かってるっす。それで、どうするつもりなんすか。どうせ決まってるんすよね」


「ぐぬぅ、おだてて俺様を懐柔しようなどと小賢しいわ。ふふん、まあその通りなのだよ」


 ちょろいっすと内心思いつつ、フォディッチは王からの指示をさっさと引き出すべく言葉を続ける。


「悪い噂が広がったら、城の者だけでなく、この国の悪評として広がるっすからね。早い内に手は打つっす」


 それからフォディッチは、言葉に窮した後に、率直な懸念を添えた。


「それに、こっちの足を引っ張りたい国がすぐそこにあるんで。ちょっとしたおかしなことだと思わず対処するのがいいっす」


 それには底抜けに能天気な王も、真顔にならざるを得ない。

 こちらが隙を見せればちょっかいかけてきそうな国とは、王を含めた移民らの祖国であった。

 干潮時に現れる海の道をつないだ、目と鼻の先にある大陸を統べる国だ。


「ますます物言いが小賢しくなったな」


「こんな環境に居たら嫌でも鍛えられるっす」


「はっはっは、やはりそうか。俺様の素晴らしい数々の閃きを間近に見ていれば、誰だって優秀になるだろうとも」


 フォディッチが今にもキレそうな気配を放つのを察した王は、軽口を閉じた。

 怒らせたら事務仕事が王にのしかかる。

 王は口を尖らせて渋りながらも、考えを簡単に伝えた。


「うぅむ、仕方あるまい。ごほん。そうだな、次なる手はだね。ええ、対策手段の自動化を試みてみようかとだね」


「読めたっす。なるべく自由時間でやってください」


 王が簡単に伝えたのは、フォディッチが呪いなどといった現実に在り得ないことが、完全に生理的に受け付けないからである。

 王が呪いの力を使用する際に、うなじにある魔術式が光るたびに卒倒寸前の恐慌状態に陥るのだ。

 何年経っても慣れないでいた。




「まずは、関係ないことから済ませよう。あの旅芸人を探してきてくれるかね」


「了解っす」


 それ以上居座って余計な話を聞かせられる前にと、フォディッチは謁見の間を走り出た。

 そして王の指示を、城内に控えていた近衛隊長に伝えた。


「はっ、直ちに」


 トルコロル共王国が誇る『勇なる騎士団』に属する者の筆頭だ。名称からして勇者好きな王の完全なる趣味である。


 どうでもいいことだが、トルコロルは王の平和主義を象徴するように、国は専守防衛に徹している。

 たんに平和主義というよりも、王の呪いの力が防御一辺倒だから、そちらの方が都合が良いこともあった。


 そこで戦闘に特化した戦力を確保すべく、全兵士の精鋭中の精鋭から勇なる騎士団に属することにしたのだ。

 まだまだ人口は多くはない国だ。兵士たちの昇進に対する意欲を煽り、個々の戦力を高める作戦でもあった。

 したがって、近衛隊長は騎士団長でもあるという面倒なことになっている。


 ともかく、そんな地位の者をわざわざ一市民を探すために寄越したのは、フォディッチが早く事を運びたかったからだ。

 おかげでコロタマは、近隣住人から悪事でも働いたのではないかと妙な注目をされてしまい、居心地の悪い思いをした。


 やはり粗相をしてしまったのかと怯えつつも半ば諦め、再び謁見の間へと訪れたコロタマ。

 彼は別の意味で怯えることとなった。

 王が玉座を立ち、平伏すコロタマの前で腰をかがめて手もみしだしたからだ。


「えー、というわけでだね。わざわざご足労いただき、まことに恐縮なのでございますがぁ」


「腰低っ! なっなぜに王様が、ちんけな元旅芸人の民に遠慮なんかするんですかい?! それに顔も近いですぜ」


「勇者さーん、立場思い出すっす。あ、客が居たんだ……いや、陛下陛下」


 いつまでも村人時代の自称勇者気分が抜けない王は、すぐに地が出るし、それにつられて普段はそこそこ優秀なフォディッチも素が出てしまう。


「ええい、面倒な!」


 王は取り繕うのをやめて、真っ正直に事件の真相を話して聞かせた。


「かくかくしかじかと、こういうわけなのだ!」



「な、なんてぇこったい……そりゃあ申し訳ねぇことです。まさかそんな難儀なことになっていようとは。ラクガキさんは執念の塊みてぇな奴だったからなぁ」


 しんみりと語り、苦悩を見せるコロタマの様子に、何かを仕掛けたような悪意は感じられない。

 それに安心した王は、とある提案をすることに決めた。


「タマコロリ君だったかね」


「こ、コロタマです。君もいりやしません」


「失敬。コロタマはラクガキ画伯と仲良しだったから、絵にも耐性があったのだろう。だから気が付けなかったのだ。謝る必要はない。俺様のほうこそ、飾ると約束しておいてなんだが、取り下げることを許せよ」


「とんでもねぇ、当然です! きっと処分されたとしても、ラクガキさんも許してくれるでやしょう……客を喜ばせるのが好きな人だったんだ」


「ハハハ、早合点するな。人目につかない部屋になるが飾らせてもらうぞ」


 コロタマは絵が処分されないだけでも喜んだが、王の提案には続きがあった。


「そこでだ、誰にでも見せるわけにはいかないが、見たくなったら来るといい。コロタマには勇者王特別区への通行証を発行しちゃおう」


「ただの地下道っすー。しかもノロマさんから取り上げた危ない呪われた品の捨

て場っすー」


「ええいフォディッチいちいち余計なことを言うな。コロタマよ、この国に移住を決めてくれたのだったな。ならば俺様の民。遠慮はいらんぞ」


 王は、その辺に余っていた軍の徽章に、こっそり呪いを込めてコロタマへ与えた。本人証明のための鍵だ。

 これを持ち帰ったお陰で、コロタマはご近所への不信は拭えた。しかも、この時の噂がもとで、その後の国への貢献者に徽章が送られる習慣となった。


「ひぇ! そ、そこまでお考えいただけるとは……くぅ、ありがてぇ。あんたぁ良い王様だぁぐすん」


「ほれ、俺様に感激してるらしいぞ? ん?」


 王のやに下がった面を殴りてぇと思ったフォディッチだったが、客の手前、必死にこらえるのだった。




 コロタマを帰すと、王はフォディッチ含めて人払いし、玉座に腰かけて一人考え込む。

 脇に小さな車輪のついた台があり、上には急須と湯呑が置いてある。王は、お茶を注ぐと、湯呑を手にとる。

 お茶をすすると、気分をすっきりさせてくれる爽やかな風味が、憂いを和らげた。

 このお茶は国の主力特産品で、薬湯の出がらしを混ぜ込んでいるものだ。薬効も微かに残っており健康にもよいと王もお気に入りのお茶なのだ。


 気持ちを落ち着けると、呪いとの対話を始める。


「恐らく、これで終わりではあるまい……お城ちゃん、なにか不穏なものを感じるのだよ」


 ――是。ですが、我が防御陣は全ての災いに対処可能です。それは未知の危機からの防御をも含みます。


 珍しく、呪いは口数が多かった。

 そのことが、より危機感を募らせる。


「そのようなことを聞いていたな。安心した。いやそうだと思っていたさ信じていたとも」


 お城ちゃんの言葉に間違いはない。間違いがあったなら、それは選択を間違えた俺様の咎だ。人災が何よりも恐ろしいのだと、そう王は考えていた。

 不思議な呪いの力を宿してから、なお一層だ。


 あっという間に移民を取りまとめた王といえど、建国時には母国である隣のアィビッド連合国とちょっとしたいざこざも経験した。

 フォディッチが心配したように、連合国は商人が連合した国とは思えないほど、きな臭い。

 移民の建国に目をつぶったのは、この場所が連合国にとってはうま味のない遠方だったからだと、当時は考えていた。


 そうではないと、今では思う。

 あの後、連合国と隣り合った砂漠の国々との間で、大きな戦があったのだ。

 そのための準備をしていたから、運よく免れたとしか思えなかった。


 あれから互いに疲弊したのか、静かな日が続いている。

 だが、決して懲りたのではないと思えた。



 そういった国々の姿を見たせいだろう。

 王は欲をかくことなく、現在手にしたものを大切に守り育てていこうと決めたし、民にもその意志は示している。


 人々が手と手を取り合って助け合う世界は素敵だろう。

 だが、手を取り合いたい理由に違いがあれば、それは殴り合う手に変わる。

 時には互いを隔てることも大切なのだ。


「特に多くの民を守る責を持つ俺様は、思い切り時も間違えない……ふふ、実に勇者っぽい」


 子供の頃に物語の勇者に憧れて拗らせた精神性は、矯正されることなく王の胸に息づいている。


「おっと、昔話に身を委ねている場合ではないな」


 いい歳して、妄想癖も健在だった。

 しかし、この王の場合はその妄想癖が身を助けてきた。

 現在も躊躇いなく妄想を炸裂させる。


 王は果てしない危機を思い描き、いかに華麗に対処するかと案をこねる。


「なんだかものすごい危険なことがあるかもしれんから、今後のためにも、常に目を光らせるような仕掛けを残しておこうではないか。対策手段の自動化などとうそぶいてみたが、ようは呪いの有効活用。うぅむ、呪いの仕掛けだけでは生ぬるいかな。子孫宛てに呪いのお手紙もお付けしようか。ぬ、ついでに災害地図も作っちゃえばどうかね? な、なんということだ……これは開拓以来の甘美なる気持ち。燃えるぞっふおおおっ!」


 常に持参している、やること帳を懐から取り出すと、王はものすごい勢いで思いつくままに対策案を書き連ねていった。

 未知なる不穏に対処する術など、果たして人が準備できるのであろうか。

 ときに呪いと相談しつつ、案をまとめ終えると、空にはうっすらと日が差し始めていた。


「ふぅ、完徹能力を解放したのは何十年ぶりだろうな。お城ちゃんの加護があれども、さすがに体にこたえる」


 目の下に隈を作ったが、対策の方向性が定まった。

 やること張を眺めた王は、その出来栄えに微笑んだ。



 ◆



 未だ案のみで、これから防御の呪いに仕掛けを施さねばならない。

 その仕組みを作るのに、うってつけの人物がいる。

 王を呪った張本人。建国以前からの仲間であり、現在は副王に据えてある呪術師ノロマイス・ルウリーヴである。


 くどい話を聞かされるのはうんざりだったが、これも国のため。王は嫌々ながら相談することに決めた。


「な、な、なんとぉ。ソレス殿が俺のまじない道に弟子入りしたいとは天変地異の前触れなので?!」


「ノロマ、調子に乗るなよ?」


 あやうく拳を脳天に食らうかと、呪術師ノロマは両手で頭をかばった。

 おまじないの話を真面目に聞くことなどない王に驚いたため、昔からの愛称が口を突く。王の名であるソレホスィを縮めてソレスと呼んでいたのだ。


「俺様が知りたいのは、お城ちゃんを顕現させた呪いについてのみ」


「呪いなどではなく、このノロマイス製めちゃすご強化した絶対防御のおまじいですからして」


「失敗しておいて威張るな。成功させたのは俺様のとんちのお陰ではないか」


 王はノロマと話すと横道に逸れて長くなるのが頭痛の種だったが、それは王自身がやり返さないと気が済まないせいでもある。

 はやく案を実行すべく、王は要件を切り出す。

 はたからは思い付きを楽しんでいるようにしか見えないため、通常の執務が滞るとフォディッチがうるさいのだ。


「はっほぉん、この魔術式型のおまじないを利用するので? それはそれは腕がなりますなー!」


「遊びやお試しではなく本気だからな」


 ぎとぎとした笑みを浮かべて喜びもあらわなノロマを、王は牽制する。


「本気ですと? そうでなくては!」


 が、ノロマの厭らしい笑みは深まった。

 こうしてすったもんだの話し合いや取っ組み合いの末、なぜか王は魔術式の基礎を学ばされていた。

 ノロマと話すくらいならお城ちゃんに尋ねたいと思った王だったが、残念ながら専門職についての意見を仰ぐなら、その道の職人に尋ねた方が理解は早い。

 相手はこちらが何も知らないことを考慮して話してくれるお陰である。

 物知りな呪いは、人格のないただの装置に過ぎないのだ。




「なるほど。古語の詩を、面妖な模様に見せかけていたのか」


「ただの模様などではありませんからして」


 ノロマが講釈を垂れ始めたため、王は意識を断絶し、自動で頷く能力を発揮する。

 そして、過去に初めてお城ちゃんの存在を知った日のことを思い返していた。


 あの時、お城ちゃんから語りかけられた言葉。

 いわば産声は、古語だった。

 正確には、光によって空中に文字が書かれたのだから声ではない。

 それはともかく、魔術式型呪いの起源は古語を使っていた時代であり、ノロマのように胡散臭い当時の誰かが作り上げたものなのだろう。


 多くの魔術式の基本となるものを、ノロマは見定めていた。

 ノロマの長年の研究によれば、ほとんどの魔術式が一つの式から派生したものなのだという。

 その根源となる基礎の式を書いた紙を手に、王はその図案を目で追う。


 簡単な丸い模様にしか見えない基礎の式もまた、三つの記号を組み合わせたものだ。

 一見では丸い円の中に、適当な線がいくつかあるだけだ。

 それらは、角とカエルの子と扇に見える三種の記号を、円になるように重ね合わせたものだった。


 当時の者が、その一つ一つでは曖昧だった呪いの効果を、この組み合わせにより安定させられると発見したのだろうというのがノロマの見解だ。

 三つの模様それぞれを成している詩を、王は胸の内で読み上げる。



 ――光の御手は高らかなる調べを伝えせしむる――。


 ――永遠の誓い歌い繋げど訪れるは沈黙の日、差すのみ――。


 ――降り注ぎ照らしただそこに在り――。



 さっぱり意味は分からない。

 意味ありげに見せているが、実際は中身などない詩なのだろうと王は考えた。

 誰しも若い頃は恥ずかしい手紙を書いたりするものなのだ。俺様だけではないはずだと思いたかったからだ。

 とりあえず、お日様って素敵よねと言いたいらしいと王には伝わった。

 当時の偉大な発見者は、草葉の陰で泣いていることだろう。




「すなわち、光が基本であると」


「な、な、なんですとおおぉ! またしてもソレス殿が、正しく俺の話を理解するなんてんぶほっ!」


 意識的な耳栓をしていてすら、いい加減うんざりしていたのだろう。王は無意識に鉄拳を振り下ろしていた。

 床に張り付くノロマに目もくれず、光の基礎式と名付けた魔術式と、他の属性を付加した派生型の式を見比べた。


「これらを数種類に絞って、意味づけすれば誰でも使えそうではないかね」


 その通り、実際に使うために作られた技である。

 正しく学べば、誰にでも利用できるだろう。

 ただし、王はこの時はまだ、それらが発動する原理を理解してはいなかった。

 呪いをかける際に、ノロマが妙な鉱石やら植物をすり潰したものを利用する理由についてだ。

 この時代には、それらを発動するのに必要なものが、勘頼りの曖昧なものだったからだ。


 ノロマも、呪いと相性の良い成分が含まれているのだろうと考えていた。

 物知りなお城ちゃんでも、王が知らず尋ねることがなければ答えられない。

 だから王の質問は、気まぐれだった。気まぐればかりだが、この時ばかりは快挙であった。


「妙な儀式を簡易化できれば、使い勝手も良くなり便利そうではないか。簡易化はできるかね、お城ちゃん」


 ――是であり否。


 答えが複数ある質問をした場合、このような答えが返ってくる。

 王はまた細かく質問を重ねた。


「なんと、あのもったいぶった儀式は不必要だったというのかね。必要だったのは材料のみか……なるほど、長年の疑問が腑に落ちるようだ」


 王は、ノロマが目を血走らせて呪いの儀式を行う姿を見るのに辟易していた。

 呪いのもとは、医術師の前身である村の薬師の祈祷からと言われている。

 材料の知識と扱いに長けたものが、優れた呪術師となった。


 しかし、現実はなんてことはない。

 材料が揃っていれば良かっただけだ。

 しかも材料というのが、そのもの自体ではなく、この世の万物に宿る根源的な命の力を指すのだという。


 それは精霊と呼ばれる、おとぎ話の中にだけ存在する曖昧な概念だ。


「おお……ふおお! 俺様が重ねていた妄想が、真実をついていたとは!」


 王は、妄想の精霊王を相手に戦争ごっこをするのが大好きだった。


「なれば、それを精霊力と名付けようではないか。いやそう呼ばれるべきだ!」


 こうして、その後のこの国だけならぬ全世界に渡り影響を与える『精霊力』という存在が概念化された。




「ようし、下準備にえらくかかったが、これで体系化できよう。お城ちゃん、頼むぞ!」


 発見したばかりの概念や、覚えたての魔術式を扱うことも障害にはならない。

 王には呪いの加護がある。

 喜々として、呪いの罠づくり作業にいそしんだ。




 ◇




「後はこう決めてっと……これは、できたな? 終わったかねお城ちゃん?」


 ――再検証します。四十二億九千四百九十六万七千二百九十六通りの検証結果は正しく導き出されました。


「う、うむ。完璧だろうたぶん……」


 お城ちゃんが何を言っているのか王に理解は及ばないが、ともかく意図したとおりに効果が発現してくれれば良い。

 来る時、有事の際の王が、迷いなくこの魔術式を発動してくれさえすれば。


 最後に、全ての仕掛けに関する合言葉を決めた。



 ――永久にトルコロルの名と共に繁栄を約束する印。



「とわにトルコロルに……くくく、それっぽい」


 一見では国の未来を祈念したポエムだが、これは特殊な魔術式を連結起動し自動運転させるための鍵とした。

 どのみち国を守れるだけの力を秘めた呪いは、王のみに起動できるものだが。


「む、無駄ではなかったとも……かなり有意義な時間だったさ」


 呪い自体は、王がうなじの魔術式に念じれば済むものだ。

 だが、王が仕掛けたのは、王の意識外にあっても作動する半自立式の呪いだ。

 そこに、元々の呪いの手法の一つである魔術式を利用することを思いついたのだった。


 数種類の魔術式に分けて利用することにより、命令なく限定的な処理をこなすように設定した。

 王が呪いを使うときのように、毎度莫大な力を使う必要もなくなる。


「力も動作に必要な分だけ、皆からちょこっとずつ貰えばよいのだ。俺様は天才か!」


 負荷を分散できるものなら誰だってやるし考えつくだろう。

 これまで誰も研究したことのなかった分野だから、実用化に向けて初めて試みたのが王だっただけだ。

 ちなみにこれまで呪いを研究していたノロマのような者は、儀式などの作法も含めて保存しようとしすぎたのだ。

 何がどう結果に干渉するのか、判断がつかなかったのだから、検証するのに膨大な時間を要したためである。


「自分ばっかり、お得なおまじないに頼ったりしてズルイですからして!」


 後にノロマは、ローブの裾を噛みながら悔しがったという。





◇◇◇





 こうして、後世の生活の在り方を変える、新たな魔術式が生まれた。

 これにより世界は工業化を停滞させ、別の道へと切り替えさせることとなる。

 魔術式を利用した道具を発展させる道だ。

 この時、王も周囲の者もまだ、それほどの発見だとは考えようもなかった。


 特別な呪いなどなくとも、人々がいつでも便利に使える力だ。

 それらは、人々の生き方へ、時に選択を迫る。


 良くも悪くも、はた迷惑な王であった。



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