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プロローグ 巨躯の若君
慶長十九年(1614年)、大坂城本丸。
五月雨が黄金の瓦を濡らす薄暗い広間で、一人の若者が座していた。
豊臣秀頼、二十二歳。
その姿を見上げる老臣たちは、畏怖と、ある「割り切れぬ違和感」に身を震わせていた。
秀頼の背丈は六尺五寸(約197センチメートル)に達し、肉体は頑健、白皙の美貌には高貴な威厳が満ちている。
――似ていない。
誰もが口に出せぬ思いを胸の奥に秘めていた。
かつてこの城で天下を統べた父・豊臣秀吉は、小柄で、猿に似たと評された醜男だった。その「泥から這い上がった男」の血から、これほど気高き巨人が生まれるものだろうか。
「淀、真実を隠し通せると思うなよ」
はるか江戸の地から大坂城を睨み据える大御所・徳川家康の冷徹な視線。
そして、大坂城の奥深くで「我が子こそ正統なる天下人」と狂信的に呟く母・淀殿の瞳。
これは、豊臣の栄華を終わらせる、血のミステリー。
稀代の成り上がりが遺した最大の遺産は、本当に彼の「種」だったのか。
城を包む霧の向こうで、忘れ去られた過去の記憶が静かに動き始める。




