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第四話

 十七時頃、私は小野寺と彼のお嫁さんと会った。


 ホテルにいることを伝えると、わざわざ来てくれることになった。 


「……はじめまして、サクと言います」


「種浦メイと言います。小野寺とは幼馴染で……なにか、私の顔についてますか?」


 サクさんが僕の顔をまじまじと見てきたので尋ねた。


「いやぁその……名前を聞いたとき、女性かと勘違いしちゃって」


「だから男だって言っただろ」


「聞いたけど……聞いたけどぉ……!」


「すみません。紛らわしい名前で」


「いや全然!こちらこそ勝手に決めつけてごめんなさい!」


 サクさんは両手を大げさに振りながら謝ってくれた。

 

 メイといえば有名な女の子がいるので、勘違いされることが多い。だから本当に気にしていなかった。


 ただ、同性と思い込んでいたのならば、相談しにくいこともあるのではないかという心配はあった。


「相談は、私でも大丈夫ですか?」


「大丈夫!ただ、出来ればユウヤ抜きで話したくて……」


「え゛」


 不服そうな声をしたのは小野寺だった。


「え、俺いない方が良い?なんで?」


「なんでも!探偵さんにだけ言いたいこともあるのよ!やましいことじゃないから!」


「やましいことじゃないなら別にいても……いやそうだなそれがいいそうしますすみません」


 小野寺が反論しようとして、すぐに訂正して謝ったのは、たぶんサクさんの目が鋭かったからかもしれない。


 将来どんな家庭になるか、簡単に想像がつく。


 小野寺はそそくさと席を立った。


「そしたら、話が終わったら連絡してくれよな」


「ああ。すまないな」


「大丈夫だ。サクのこと頼むぜ」


 小野寺は手を振って、離れていった。


 私とサクさんは、ラウンジの席を借り、そこで話すことにした。


 腰を掛け、どこから切り出すか考えた。これはまったくの余談だが、私はこういうとき、どんなに知っていても一から話を聞くことが多い。


 今、私はある程度の概要を小野寺から聞いているか、サクさんは私が小野寺から話を聞いてることを知らないかもしれない。


 知っていること前提で話されると気味が悪く思う人もいる。


 この人はどこまで知っているのだろう、余計なことも知っているんじゃないかと、疑り深くなることもある。


 だから結局、さわりから聞き始めるのが無難だ。それで、どこまで知っているか聞かれれば、そのとき情報のすり合わせをすれば良い。


「ひとまず、相談ごとを聞いても良いですか?」


「えぇ、そうね……ユウヤからはどこまで聞きましたか?」


 そう、このように。


「小野寺からは、あなたがイヤリングを失くしたことを聞きました。サクさんがとても落ち込んでいるように見えた小野寺が、探すのを手伝ってほしいと、私に相談してくれました」


 私は聞いた事実をもとに客観的な情報になるよう説明した。


「そうね……それで間違いないです。アタシ、そんなにわかりやすかったのかしら」


「大事な人ほど、様子の変わりようは機敏に感じるものですよ」


「そっか……そうだよね。種浦さんが言ったとおり、大事なイヤリングを失くしちゃったの」


 サクさんは悲しく笑った。


「よろしければ、イヤリングのことや失くした心当たりなど聞いても?」


 私の問いにサクさんは頷いてくれた。


「イヤリングは親友から貰った、大事な物だったんです。子供のころ、山で会った子で……そうそう、アタシ、昔から動くのが大好きで、山登りとかもしてました。だから山登りとかもよくしたんです。この町よりもっと北に山があるんですけど、知ってますか?」


「狐山ですよね。今は雪がひどくて入山できない、あの山のことで間違いないですか?」


 ちょうど今日、中西さんと町田前くんと一緒に行った山のことだろう。


「そうです!その山に神社があって、そこで会ったんですよ。ユキって子でした。とても大人しいけど、いつも可愛らしくニコニコしてました。


 アタシが神社でお参りをしたあと、お社の影からひょっこり覗いてて、それを見つけたアタシがユキに遊ぼって誘ってました。


 中学に入ってからは、一緒に登頂したりも。高校が遠い場所で、バイトもしなきゃいけなかったからあまり会えないかもしれないって話をしたんです。なにも言わないまま離れるよりかはいいかなって思って。


 その話をした次に会ったとき、ユキが私にプレゼントしてくれたのが、イヤリングでした。白と水色の花の形をした雪化粧のようなイヤリング。私達の絆の証として、大人になってもずっとつけてほしいって言ってました。


 まるで今生の別れみたいだと思いましたけど、プレゼントを用意してくれたことがすごく嬉しかったから、あたしはずっと大事にするねって言いました。


 でもその日を最後にユキとは会わなくなってしまいました。登山中も、神社にお参りしにいったときも、ユキの姿を見ることはありませんでした」


 ユキさんという彼女の親友が、なにかを察したのか、或いは決心したのか……


 言葉を交えて別れるのが辛くて、それっきり会わなかったということか。


「だから、そのイヤリングはユキとの最後の繋がりでもあったんです。それを失くしてしまうなんて……アタシ、大馬鹿だ」


「大丈夫、きっと見つかります。いや、見つけましょう。私にもその手伝いをさせてください」


 落ち込むサクさんを励ました。


「なにか心当たりはありますか?失くした日や、その日に行った場所とか……」


「もちろん覚えてます!けど、どうかユウヤには伝えないでください」


「小野寺にですか?構いませんが、理由を聞いても?」


 彼を離籍させたのには理由があるのだろうと踏んでいたが、失くした場所も彼に知られたくないようだ。


「実は失くした日に、狐山に入山したんです。まだ入山解禁はしていませんでしたが、雪も解けて登れるようになってたので……危ないかもしれませんけど、神社の参道までだから、そんなに危なくないなぁと思って」


「地元の人ならではでしょうな」


 もちろん、咎めるつもりなどない。


「神社で結婚式の報告をしました。ユウヤと引越し先でも幸せでいれますようにって。それと、この町から離れてしまうから、家族や友達やユキのことも願いました。どうかみんなが幸せでいられますようにって。


 帰りは風が強くて、雨が降ってました。急いで下山したんですが、家で鏡を見た時に……風が強かったからかしら。それとも耳に付け直したときに挟む力が緩かったのかも……」


 サクさんの話を聞いて、腑に落ちた。彼女が何故小野寺に詳細を言わなかったのか。


「入山禁止の場所で失くした可能性が高いから、話せなかったんですね」


「そうなの。ユウヤって思い切りもいいから、ひとりで探しに行っちゃうんじゃないかなって……失くした次の日から雪が降りだして、私も探しに行けてないですけど」


「なるほど。彼なら探しに行きかねないでしょうな」


 行ったとて、中に入ることはできないが。それこそ抜け道はないか、参道から外れて探し始めるかもしれない。それじゃあもっと危険だ。


「わかりました。彼には話さないでおきましょう。もちろん、捜索は私が行います。麓付近にないか探してみて……もし参道の途中で落としてしまったならば、入山できないか行政にかけあってみましょう」


「取り合ってくれるかしら」


「知り合いがいるので、掛け合ってみますよ」


 嘘ではない。現に今日、行ったのだから。


 それにこう話しておけば、サクさんたちがむやみに探しに行ったりはしないだろう。


「お任せください。必ず見つけてみますよ」


 私は笑みを作って見せた。私の言葉を信じてくれたのか、初めてサクさんが笑ってくれた。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 サクさんは深く頭を下げた。私も同じように頭を下げた。


 話がひととおり終わったので、小野寺に戻ってきてもらい、改めてイヤリングを探すことを約束して二人をホテルから見送った。

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