第五十四話:キスの理由と誓い
「もう一度言ってみなさいよ、そのふざけた台詞!」
「俺はここに残る」
「ふざけるなあ!!」
スズナはおもいっきりカイトの襟首を掴んで振る。
「あんた瑞貴のこと気に入ったんでしょ!? それなのにまだロリコン全開でいたいわけ!?」
「ふっ、俺と愛の間に歳の差など今更……」
「ふざけるなぁ!!!」
この冷静な大人ぶりが非常に気に喰わなかった。そこに瑞貴が部屋に入って来た。
「スズナ、悪ふざけはいい加減にしとけ。お前の怪力は洒落にならん」
「あんたのために言ってやってるんでしょ!!」
スズナの怒りの矛先が瑞貴に向けられる。それが少しだけ嬉しくて瑞貴は口元が少し緩んだ。
「スズナ、サタンが泥人形だったことでお前はこのまま闇界へ突っ込んでも平気だと思ってるのか?」
「それは……」
時は数日前、グランド帝国を襲ったドール化、さらにその元凶と思われたサタンを瑞貴は倒すことには成功した。しかし、サタンは泥人形だった。つまり、泥人形にまだ自分達は苦戦するレベルだということ。
「いくらお前が馬鹿でも伝説と現実が一緒になるとは思ってないだろう? それで例え俺がお前達と一緒に闇界へ行ったとしても結果は見えている。スズナ・メイリン、お前が覇王を殺す」
カイトに言われた言葉は重かった。それが事実だから……
「だが、瑞貴、お前は考えたんだろ?」
「ああ、確かに今のまま闇界へ行くことは自殺行為だ。まさか天界の全戦力と匹敵する力まであいつらが付けていたとは思わなかったからな。だから俺達は一度西の大陸にいる『ユメビトの里』に行こうと思う」
「ユメビトって……、あの幻の民族って言われているユメビト?」
瑞貴とカイトは驚いた。普通この大陸で『ユメビト』という民族を知るものは少ない。それを知っているのはよっぽど知識のあるものだ。
「本当スズナは……」
「時々説明の手間が省ける……」
「私一応メイリンの血を引いてるんだけど……!」
スズナは拳に青筋を立てた。
「だが、ユメビトの力は確かに借りた方がいいな。それに一人ぐらい仲間に出来れば闇界での戦いも楽になる」
「そんなにユメビトって強いのかしら?」
スズナは少し疑問を持っていた。地界では幻の民族と讃えられているが、ユメビトは天界人の血も王族の血もない、ただ武人として栄えた民族である。それが闇界の者と互角に戦えるのかと不思議でならないのだ。
「まぁ、伝説を全て信じるのは厳しいかもしれないが、地界人の中では最強というのは間違いないだろう。それに何となく行かないといけない気がしてな」
瑞貴がまた綺麗に見えた。滅多に見せない真剣な表情を見せられるとスズナは何も言えなくなる。
「だからスズナ、お前もここに残れ」
「えっ?」
スズナは目を丸くした。
「お前はここで一年間カイトに鍛えてもらえ。俺達と旅をするより今は強くなることを考えろ」
カイトは部屋を出ていった。これからは二人の問題だと関わりたくないからである。
「瑞貴、あんたまさか!!」
「カイトにはお前を鍛えるように頼んだ。メイリンの力を完全に解放させることが出来るのは俺じゃない」
「あんたは……!!!」
スズナは強く瑞貴の襟首を掴む。今にも泣き出しそうな顔を向けて……
「悔しければ強くなれ、足手まといになりたくなければはい上がれ、ただ、俺はいつもお前を守れる強さでいる」
「〜〜〜!!! 瑞貴、やっぱりあんたはムカつく……」
スズナはそれだけ声に絞り出した。瑞貴は苦笑しスズナの顎に手をかけて唇を自分の唇で塞ぐ。鉄拳が飛びそうになったが瑞貴がそれをさせなかった。スズナを抱きしめたからだ。そして唇がはなれて瑞貴は穏やかな表情を浮かべて告げる。
「スズナ、初めて会ったときなんで俺がキスしたと思う?」
「えっ? それはあんたが力がを失ってたから」
「違う、キスしなくてもお前の力は借りられたんだ」
「じゃあどうして?」
もう一度唇は塞がれる。それはさっきよりも深く強いものだった。
「……俺が覇王になったときに言うから待ってろ」
今知りたい、そんな言葉が口から出てしまいそうだった。だけどスズナは未来の覇王を信じた。
「分かったわよ……、ちゃんと聞いたげるわよ!」
いつも以上にスズナは良い顔で笑った。
はい、ここで覇王第一部は終了です!
次回からは「覇王〜ユメビト編〜」と全く視点が瑞貴やスズナではなくなります。ですが、楽しみにしていてくださいね☆