第十九話:お茶
自分が瑞貴の婚約者だといわれても何も言えなかった。いや、事実を言うことを封じられた。世界で一番嫌いなこの男の魔力のせいで!!
「……瑞貴!! 随分勝手な魔法かけてくれたわね……!!」
「言っただろ? お転婆をやるなと」
瑞貴はしれっと答えてコーヒーに口をつける。
天界の城の庭園。多くの緑と花に囲まれ、心地よくあたる日差しの中でお茶を楽しむ。だが、その空間にスズナの怒気は立ち込めていたのだ。
「大体、婚約者って何考えてるのよ!」
もっともな問いに、もっともらしい答えを瑞貴は返した。
「あの女達は全てこの城のお妃候補だ。そいつらからお前を守るにはこれしかないんだよ」
「全員瑞貴の?」
瑞貴が天界でもかなり高い身分だということはさっきの仙人の話でも予測がついた。もしかしたらこの城の主かもしれないとも思ったが、どうもそれもしっくりこなかった。瑞貴の性格のせいかもしれないが……
「それは違うな。そのことはおいおい話してやるよ」
瑞貴はそれ以上何も言わなかった。しかし、さらにスズナは尋ねる。
「それなら私も神兵にすればいいじゃない!」
「そうもいかない」
ヤンロンが否定する。
「女の嫉妬心はたとえ仲間といっても募るものだ。特にお前はメイリンの子孫、覇王を目指す瑞貴の側にいれば嫌でも目を付けられる」
「それくらい平気よ!」
「そうでもないわよ」
今度はセディが割り込む。
「彼女達は全員スズナ以上の力を持ってるわ。今襲われたりしたらとても無事とは言えないの。中には私以上に強い魔力を持つ者もいるのよ」
セディ以上に強いものなど考えたくもない。確かにそれでは自分に分がないことは納得できる。
「そういう事だ。しばらくは大人しくしてろ。それと俺の部屋に泊まってもらうから」
爆弾発言。しかし、それ以上の爆弾はスズナの方だった。
「絶対嫌っ!! あんたといてろくなことになる気がしないわ! セディのとこにいく! ダメならヤンロン泊めて!」
人生の中でこれほど嫌がったこともないだろう。目に涙まで浮かべてセディを見つめる目は、状況が分かっているセディの心を揺さぶるものだったが、
「お前な……!! 人の話聞いてたのかよ……!! 往生際の悪いことばかりいってるんじゃねぇよっ!」
効率の悪さと面倒なことが大嫌いな瑞貴はスズナを怒鳴りつけるが、
「わかっても嫌なの!!」
「おい、スズナ!」
スズナは全速力でその場から消えたのだった。もちろん瑞貴もそれを追いかけて……
「おい、セディ」
「何?」
紅茶を飲みながら楽しそうにセディは答えると、
「スズナのスピードと魔力、ここにきて異常な速度であがってる気がするんだが……」
ヤンロンのもっともな感想。それはセディも感じていたこと。
「そうね、良い傾向ね」
それだけ答えて、セディはにっこり笑うのだった。