第十八話:口論勃発
「お久しぶりです、長」
「お元気そうですね」
ヤンロンとセディは月並みな挨拶をすると、一行を一瞥して仙人は返した。
「相変わらず瑞貴を甘やかしているようじゃの。地界人を婚約者にするなど馬鹿げた話じゃ」
呆れてものも言えんという表情を浮かべて仙人は小さくため息をついた。しかし、それに瑞貴は突っかかる。
「覇王だって地界人じゃねぇか。メイリンは女神だったが、天界人が馬鹿にしてるその地界人に惚れたんだろ」
これは天界でも有名な話だった。かつて女神・メイリンは地界の男に恋をした。それが覇王であるというのはこの世界でもちょっとした昔話になっているのである。
「……メイリンは天界から追放された身じゃ。今更」
「ええっ!! メイリンは天界人だったの!?」
今度はスズナが驚きの声を上げた。自分の先祖に天界人がいた、ましてや女神だとは思わなかったのである。
「言ったはずだろう。聞いてかったのか?」
ヤンロンは不服そうに言う。自分が懇切丁寧に、さらには幻想の国の歴史まで絡めて説明したのにスズナはまったく覚えてないのだという。
「寝てた……」
少し悪びれた顔をしてスズナは答えると、ヤンロンは説教モードに切り替わった。
「まったく、お前といい瑞貴といい、人の話を聞くという当たり前の常識すら守れないのか!」
「はいはい、ヤンロン。お説教は後にしましょう」
これ以上ややこしくなりたくないので、セディはヤンロンを諌めた。その気に乗じるかのようにスズナは話を一転させる。
「それより私達に幻想の国を滅ぼした悪魔を退治するように命令するんでしょ? さっさと教えてよ、おじいちゃん」
周り全てが凍りついた。仙人に向かって「おじいちゃん」呼ばわりする強者がこの天界に瑞貴以外いたのである。
とはいえ、ヤンロンとセディは内心苦笑していたが。
「なっ……! 薄汚い地界人が偉そうな口を叩くな!」
「何が薄汚いよ! これでもお風呂は大好きなんだから毎日入ってるわ!」
「屁理屈を抜かすなっ! 野蛮な地界人が天界に足を踏み入れることすら間違いじゃ!」
「私はスズナ・メイリン! 天界の血も引いてるわよ! それに覇王に世界が救われてるなら天界人だって威張れないわよ!」
かつてここまで仙人と口論を繰り広げたものがいただろうかと思う。いつもなら瑞貴も止めるところだが、今回は面白がっているようだ。
「覇王? 馬鹿め! あいつがやってのけたのは悪魔の消滅ではなく封印だ! さらには女神を連れて逃げた無法者だ!
その血を受け継ぐ者が瑞貴の婚約者などになること自体お門違いだろう!」
「瑞貴のことはどうでもいいわよ! だけど、覇王を馬鹿にすることだけは許せない!」
スズナの目と空気が完全に変わった。それにさすがの仙人も怯む。一瞬メイリンが光臨したような……
「てんで話にならんの。こんなじゃじゃ馬が瑞貴に釣り合うのかの……」
それに瑞貴ははっきり答えた。
「こいつは俺の恩人でもあるんだ。何があっても嫁にする。それだけは覚えとけ」
スズナは何もいえなかった。




