第十七話:仙人降臨
「ここが天界……」
スズナは天界に着いた早々、自分と同じ目の色をした空を見て溜息をついた。イメージとしてはやはり幻想的と言うに違いないが、どこか地界と同じように感じるのはぼんやり見えるのは幻想の国にある「メイリンの城」と似た建物がある性なのかもしれない。
「あの城に俺達の長はいる。それともう一度言っとくが、絶対お転婆ばかりやんなよ。後々面倒くさいことになるからな」
それだけを心配そうに、いや面倒くさそうな顔をして瑞貴はスズナに告げると、彼女はあっけらかんとして答えた。
「大丈夫よ。ただ、頑固爺に殴り込めば言いだけでしょ?」
「挨拶といえんのか。一国の王女だろう」
それにヤンロンがツッコミを入れる。ただ、注意しておかなければならないのはスズナだけではない。
「瑞貴、お前もすぐに喧嘩腰になるんじゃないぞ。兵士たるもの、常に礼節をわきまえろ!」
「ヤンロン、それくらいにしてあげなさい。スズナちゃん、空は飛べるかしら?」
セディが尋ねると、
「多少はね。十分ももたないけど」
「充分。それじゃ、いきましょうか」
その瞬間、スズナをおいて三つの影が一瞬に消えた。
「えっ? もうあんなとこに!!」
それはとんでもない速さだった。自分は幻想の国にいた時は学年で一番速い飛行術を持っていたのにも関わらず、目の前にいる三人は遥か彼方にいるのだ。
「ちょっと待ってよ!!」
スズナはさらにスピードを上げるのだった。
そして五分後……
「情けねぇな。あの程度の距離でバテてるのか?」
「うむ、まだ修行が足りないようだな」
城には着いたものの、とても歩けそうにない。
「あんた達が速すぎるのよ!!」
「お前が遅いんだ」
「何ですってぇ!!」
そんな賑やかな応酬を繰り広げていると、城から女達が次々と出てきた。どの女もお姫様のような格好をしている。それも和服から洋装まで様々だ。
「瑞貴様! ヤンロン様! お帰りになられてたのですか!!」
また「様」だ。それなりの役職なのかもしれないが、ただの兵士に様付けなど一体この天界はどうなっているのか……
「セディ様もお疲れ様でした」
少しだけ女達の声が落ち着く。敬意を示すものへ向けられる声だ。
「それより、その地界のお嬢様は何者でございますの?」
一気に視線がスズナに集まる。スズナはさすがにセディの後ろに隠れた。なんとなく嫌な予感がしたのだ。
「スズナ・メイリン。俺の婚約者だ。だから何かあれば!!」
瑞貴の殺気で女達は一斉にその場に崩れた。それは逆らうことを認めない目、何かあれば許さないとの威嚇だ。
だが、それに反論するのがスズナである。
「何が……、あんたの婚約者だ!!!」
スズナの飛び蹴りが空を切る! そして、瑞貴はその口を押さえると高らかに叫んだ。
「いいから大人しくしとけ! そういうことだジジィ! 聞いてるならさっさと出て来い!」
反抗的な目は、天井に向けられる。そして白の衣を着た仙人が降臨したのだ。
「相変わらずの我儘か。相変わらず困ったガキじゃの」
その登場にヤンロンとセディは溜息をついたのだった……