第一話「少女の目覚めⅠ」
「うっ……。ううん……」
意識が目覚める。
……身体がうまく動かない。まるで、たったいまその身体に、長い年月の間伝わってなかった信号が伝わったかのように……。
……それにひんやりとした冷たさを感じる。水か何かに覆われているのだろうか。
重く閉じていた目を開き、周りを見渡す。すると、そこには見慣れない光景が広がっていた。
窓がなく、壁・床は石造りとなっていた。
そして、大きな古い本棚。それには本棚と同じく古く年代を感じさせる分厚い本がびっしり収まっていた。
だが、その本のタイトルには海斗が普段慣れ親しんだ日本語ではなく、外国語かと思ったが、英語、スペイン語、中国語、ハングル文字などとは全く異なった形をした、独特な感じのする文字が並んでいた。
この部屋で特に異彩を放っていたのは、金属か石かわからないが未知の物体。台形型をした文字の彫りこまれた物体。それは自分のいる位置を中心に並び、中心から離れるほどそれは高く大きくなっていた。半径およそ5メートルほど。
そして自分は宙に浮かんだ水?でできた球体の中に入っていた。
朦朧とした意識もだいぶはっきりしてくる。(ここはどこだ?懐かしいような何かに包まれた感覚。ぼくはどうなったんだ?)
(たしか……僕は階段から落ちて……そして……死んだはず)
(そしたら何もない真っ暗な世界に……。そしたらあの子がいるような気がして……、それから……光に包まれた?)
(何がどうなってるかわかんないけど、どうにかこの球体からでないと……)
(んん〜〜)
そっと手を延ばして球体の外に出そうと試みる。あとちょっと。あと10センチくらい。
(んーー。んん〜〜ーー。わっ!!)
バシュッ!
手が球体の外に出た瞬間、その水の球体ははじけ散る。
(うっ息が!)
「ごぼっ!げほっうぉええーー」
せき込む。どうやら肺の中まで水が入っていたようだ。
「……出れ……たっ!!」
思はず喜びの声をあげる。だがどこか違和感を感じる。何かかおかしい。
「何が………………?……っ!?」
おかしい。声がやけに高いような……。
「あーー。あーー」
明らかに声が高い。確かに僕は男としては声は高い方だったが、これではまるで女の子
ように高い。おかしい。
「なん……でだ?」
やはり声が変ってる。なぜだ……?
それにここはどこなんだ?床に刻まれた奇妙な模様……古びた机……本棚……。
「……っ!?」
今窓の外にだれかいたような。しかもどこか見覚えがあるような……。
恐る恐るさっき見た方を見ると……。
「…………っっ!?」
まっまさか。あのときの……夢の……?
そこにいたのは小さい頃夢の中で会ったあの少女だった。
「また……会え……た」
また会えたのである。やっと……やっと……、僕の初恋の人に。
と、そこで少女が裸であることに気づく。
「ごっごめんっ!みっ見てないからっ!見てない。見てない」
故意ではないが、女の子の裸を見てしまったのは悪いと思い、目を閉じ必死に謝る。
「……………………。…………ん?」
が、いつまで待っても少女の返事は聞こえてこない。
「あれっ?」
ゆっくりと閉じていた目を開く。すると鏡の中の少女は、その美しく整った顔を僕のほうに向けたまま立っていた。
「ご、ごめんっ!」
素早く後ろを向く。が、何か違和感を感じる。今度は何だ?
再び前を向き、鏡を覗き込む。
そしてふと気付く。
絶対ありえないことに。自分が手を動かせば、少女も同じように手を動かし、口を開けば、また同じく少女も口を開く。その少女が自分と全く同じ動きをしていた。
それは少女が窓の向こうにいるのではなく大きな鏡に映っている姿だと気づく。
つまり……。
「えっ!? なん……で……」
信じられない。それはどうやら自分の姿のようだ。
十五年間つきあってきた、特にこれといった特徴もない平凡な姿とは、似ても似つかない姿の女の子だった。それも思はず見とれてしまうほどの容姿を持った可憐な少女だった。
そこに映るのは、流れるような艶かな長く青い髪。水晶のように透き通る青い瞳。薄桃色の唇。陶器のようになめらかな白い肌。そしてひかえめだが確かに存在する二つのふくらみ。腰にかけて流れる緩やかなライン。
どこからどう見ようと、少女の姿だった。しかも何も見に着けておらず、生まれたままの姿で。
「…………本当に……」
そっと自分の手をその二つの膨らみへと延ばしていく。
もにゅ。
「っ!!」
……………………。
生れてから十五年間。はじめて体感するやわらかな感触。まるでマシュマロのようにやわらかく心地よい感触……。
「はっ!?」
女の子になんてことを……。あれ?僕は男の子であって、ぼくが女の子に……。いや、僕は女の子で、男の子ではなく……。男。女。男。女。男。女。男。女。………ひどく混乱してきた。
「本当に……。そんなことが……。……ん!?」
そこでさっきの違和感の正体二も気づく。男としてやけに高いこの声。まさしく女の子の声そのものだった。
これで僕の体は女の子になってしまっていることをはっきりと自覚する。
わからない。
わからない。わからない。たしかに自分は女の子の体になっている。
しかも夢で出あった初恋の相手に。
そんなことあるわけがない。
……………………。
そう思ってもちゃんと実感がありこれは夢ではなく、紛れもなく現実であった。