第二話「少女の目覚めⅡ」
「どうして…………」
「………………」
僕は…………。
カタッ。
「……?」
後ろから響く物音。だれかいるのだろうか?
「何故……お前が……生きている?」
若い女の声。しかしそれはひどく冷淡で低く心の底から憎しみのこもったような声。
まるで長年憎み続けてきた仇に対するようなその声は僕を震えあがらせる。
「だっ……だれ?」
「なぜだっ!なぜお前は生きているっ?」
「なんの……ことだか……」
「お前は……三年前に死んだはずだ……」
死んだ……?僕が死んでから三年経ったということか?向こうは僕を知っているようだけど、僕はその顔に見覚えがない。
「君はだれ……?」
「っ!?ふざけるなっ!お前は私を覚えてないというのか?お前らのせいでっ!……私の……母さんと……父さんはっ!お前たちのしてきたことは許さない」
「なっ何を言って……」
「いやっそもそもお前が生きてるはずがない。確かに私は心臓を貫いたはずだ。いくら高度の回復魔法を使える者でもあれを治療するのは不可能のはずだ」」
「しんぞう……?……つらぬいた……?」
僕は車に轢かれて死んだはず。この人は何をいってるんだ?そもそも僕は何で生きている?しかもこの体は……。
「……まあ、いい。生きているのならまた殺せばいい。おまえらソフィネット家は許さない」
「シーナ・ソフィネットお前は再び私が殺すっ!!」
すると女は瞬時に何か光るものを取り出すと、一瞬にして五メートルほどあった僕との間を詰める。僕へ向けられる深く純粋な殺気。
女の手にしてるのはナイフだった。そしてその鋭利な刃物は何のためらいもなく僕へまっすぐ向かってくる。
僕は咄嗟に横に跳び回避を試みる。
「……くっ!」
痛い。どうやら避けきれず右足にナイフが掠ったようだ。切り傷から血が流れ出る。
……怖い。怖い。なんで僕が?
さっきは避けれたけど次も避けれる自身がない。身体が震えて言うことを聞かない。
「殺……す。殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスッ!」
「ひいっ!」
このままナイフは僕を刺し、そして僕はこの少女に殺されるのだろう。
…………………。
……………………………。
………………あれ?……痛く……ない?
「くっお前はっーー」
閉じていた目を開くとそこに広がっていたには、謎の男(仮面で顔はわからない)が素手で日本の指で挟むようにしてナイフを止めている光景だった。
「ラクタムっ!?」
「………………」
「なぜ……お前が……」
「……去れ……。お前では俺に相手にならない……」
すると男の周りの雰囲気が変容する。感じるは圧倒的な力の差と敵意。
「…………………………」
少女は相手の力量を量るかのようにこちらを睨み続ける。
「相手が悪すぎるか……」
少女はも男には敵わないと悟ったのか、悔しそうな顔をしながらも立ち去って行く。
「たす……かっ……た」
一体なんだったんだろうか?彼女に言うことは全く身に覚えがないし……。それに謎の男。さっきは助けてくれたが、素手でナイフを止めたり尋常でない殺気を放っていた。
「あっあの……。さっき……は……ふぐっ!?」
何の気配もなしに突然後ろから口をふさがれる。
「っっ!? はっ……はなっ……せ……」
こいつも敵なのか?僕をどうするつもりだ?
「動くな!静かにしろ……」
「ふぐっ……ふぐぐっ!」
「……ほかの奴らに気づかれる」
「ふがっ……ん、まっ待て何がどう……なって……」
「しょうがない……」
「……ふぐぐっ…………ふぐっ」
男は杖のようなものを取り出すと小さく呪文のようなものを唱える。
「……ふぐっ?……………………」
男が何か唱えたかと思うと急に襲いかかる激しい眠気。その眠気には耐えきらず瞼はだんだん重くなっていく。
「……………………」
「……転送魔術を発動する。お前はそれで逃げろ……精霊よ……力を……」
僕の下には見知らぬ文字が円状に並び円や直線でできたその模様は広がり光を放っている。
後ろを振り向くと、男はどこか悲しそうな顔をしていた。
……この男とはいつか会ったことがあるような気がする。ずっと前に……。しかし思い出そうとすると頭に中に靄がかかって思い出すことができない…………。
そして、激しい眠気に耐えられずその目蓋を閉じる。
「シーナ…………」
男が小さく呟いたその名は海斗の耳には届かなかった。
「……ディメンション……ゲート……」
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「んっ……ううん……」
意識が戻る。どうやら気を失っていたようだ。
日は沈み、辺りはほとんど何も見えない。静かで音が何も聞こえず、足元はぬかるんでおり、薄気味悪い。手で辺りを触れながら進んでいく。するとここは鬱蒼とした木々が広がり、そして自分はその中にただ一人とり残されていることが分かる。
「さっきの男は……」
あの男はどうなったんだろう。それにさっきまで建物の中にいたのに、今自分は森の中にいる。
「…………?」
ふと、さっきまで素っ裸だった自分が厚いコートを羽織っていることに気づく。
「さっきの男の……?何がどうなっているんだ?それにここはどこなんだ?森の中のようだけど……」
日が沈んだとはいえ、目が暗闇に慣れてきたのもあるが、月明かりのおかげででかすかに見える。
「月明かり……?」
満月だとしても月明かりにしてはちょっと明るすぎる。上方を向くと……、そこには二つの月があった。二つの月が。片方は赤色もう片方は青色の。
「なっ……何で!?」
「…………。どうなって……いるの……?」
わからない。ここはどこなのか。何が起きたのか。自分はどうなってしまったのか。
寒い。
体の震えが止まらない。流石にコート一枚では寒くて凍え死にそうだ。それに夜の森は危険である。早く森から出たほうがいいだろう。
歩く。
途方もなく歩く。ひたすら前へ。
だが、いくら歩けども木、木、木、木。ただひたすら木に囲まれていた。全身に擦り傷を作り、先ほど女に受けた傷もあり、疲れは限界に達していた。
グサッ。
足の裏に鋭い痛みが走る。その痛みでバランスを崩し、正面からぶっ倒れる。
「 っつ――。…………痛い……」
何か尖ったものを思い切り踏んだようだ。
それもけっこう深く刺さったようで、かなりの量の血が流れ出ている。もう起きる気力もせず、意識も朦朧としてきた。
バタッ
そして正面から倒れ、再び意識を失う。
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遠くからだんだん大きくなる馬車の音と若い二人の女性の声。
「あれは……」
「エリスお嬢様どうかなさいましたか?」
「いま森のほう人影が見えたような……。気のせいかしら」
「森のほうですか?たしかに何か…………。ひ、ひとが倒れてます!」
「リフィア!馬車を止めなさい!」
「は、はい!様子を見てきます」
二人を乗せた馬車はとまり、中からメイド姿の女性と、見ためは十歳ほどの少女が慌てた様子で出てきて森へ近づく。
「そこに誰かいるの?」
「お嬢様危ないですから私が先に行きます。もしものこともありますしエリス様は後ろに」
メイドの恰好をした女性は手にはナイフを忍ばせ、少女は後ろに隠れ、恐る恐る倒れている人に近づいていく。
「あの、そこの方、どうかなさいましたか?どこかお怪我でも?」
メイドは全身擦り傷を負い、うつ伏せに倒れている人を起こさせる。
「あ、あなたは!?お嬢様っ!」
「リフィア?どうしたの? その人だいじょう……ぶ? えっ? な、なん……で!?]
その倒れている人物の顔に気付くと、少女の顔に浮かぶのは驚愕に満ちた表情。
少女はすぐに我に返ってその人物を抱きしめる。
「起きてっ!起きてってば……。シ……ナお……ちゃっ……んーーーー!!」
朦朧とした意識の中、どこか懐かしい、聞いていると胸の温まるような、そんな声を聞こえたような気がした。そして、意識は再び深い闇の中に落ちて行った。




