36 青いガーベラ鉄道
36 青いガーベラ鉄道
飛行機を降りると、ガラス越しに搭乗を待つ人々の姿が見える。
この景色の中に、数日前の響香がいた。5年前にも、同じ景色の中にいた。
あのときは、二晩だけ岩見沢に引き返して、あそこで携帯電話を取った。まだスマートフォンではなかった。
飛行機の遅れを伝えた、2度目の電話。出発時刻が決まったそのとき、これ以上、父の看病ができないことを知らされた。
意識が遠のいたまま、人の流れに導かれるように新千歳空港駅へ向かう。
岩見沢の一つ手前の駅で降りるつもりの響香は、スマホを手にJRの時刻表を調べようとするが、ちょうど来た列車にうまく出発時刻を入力できない。
北広島、白石で乗り換えれば、札幌を通らずに帰れるので、少し時間短縮にはなる。
——でも、それがなんになるのだろう。
そんな時短が、今の自分にとってどんな意味を持つのか。
ふと、飛行機の中でみた、中東を舞台にした、かっこいい日本人が出る映画の続きを見たいと思った。
目を閉じる。父に少し似ているけれど父ではない。そう、福山雅治。そんな気分で、眠りに落ちた。
夢は、自分で創作できない。
あの映画は、すでに「Fin」で終わっていた。
でも、それもやはり夢だった。
南千歳で降りて、スーツケースを引きながら列車に乗る。
その列車は「青いガーベラ鉄道」。中はお座敷になっていて、外国人たちが流暢な日本語で会話している。
「これは室蘭本線っていって、日本が新橋から横浜に鉄道を敷いたあとの、次に手がけた路線のひとつで、今も当時の線路が使われてるんだよ。
極寒の地で汽車を走らせる鉄橋を造るのは大変な挑戦だったけど、石炭を運ぶ大事な使命のもとで橋の事業が成し遂げられたんだ。
当時、石炭は日本の心臓部。だからこの鉄道は、陸の心臓から海路につなげる大動脈だったわけ。
いま青いガーベラ鉄道として、その誇りが活かされている。令和の人たちは“電車”っていうけど、これは汽車だ。石炭がオイルに変わっただけさ。あの電柱だって、汽車の信号用なんだよ」
——(え…そうなの?…でも、夢だものね)
「このお座敷畳は、天井についてるソーラーパネルであたためられてる。夏は冷たく保たれるんだ。ほら、あれが保冷機。遮光カーテンと扇風機で温度調整してるんだよ。
発電した電気が余るから、青ランプが点いてるときはスマホも充電していいよ」
——(夢だものね、そういうこともある…)
もう一人の異国の人が話し始める。
「動く冷蔵庫付きトレーラ。トラックのコンテナにもなるし、店にも病院にもなる。車庫にもなるんだって」
——(なんだそれは…ああ、やっぱり夢なんだ)
さっきの飛行機の夢には無意識に入り込んでしまったが、今回は夢と知って、その続きを見ている。
「追分」という駅で、一人が降り、十勝の「千年の森」へ向かった。
次の駅、由仁では、児童館やデイケア、市役所などが集まる「三世代ゾーン」があるという。
また一人が、「ドジャーズの試合を見ながら、ウォーキングマシンで走るよ」と言って降りていった。
どれも魅力的だが、私は降りなかった。
夢だとわかっているのに、私はまだ青いガーベラ鉄道に乗っている。
日本語の流暢な異国の人が、名前の由来を教えてくれる。
「日本全国へ、ガーベラを鮮度そのままで届ける技術からこの名がついたんです。
ガーベラが心地よく息をして、日本のはしまで届くんですよ。そうそう、車両の壁も企業広告がはいるようになっている。それが、資本でこのガーベラ鉄道のコンテナ多機能お座敷車両は作られる。 5つの広告は3社共同で一つってきまりがあって、そこで異業種とか、競合相手とか、一つのテーブルで広告づくりをするものだから、また新しいアイディアが無限に生み出される仕組みになっている。」
(その説明に、妙に納得してしまう。)
「次は、志文です。志文の次は、終点・岩見沢です。志文、志文です」
車内アナウンスが流れた瞬間、景色が突然、知覧の夏になった。
(しぶん? ちらん?)
おばあちゃんがまた話している。
「おじいちゃんは、オニヤンマになったのよ」
軍医として戦地から戻り、眼科医として生涯を終えたおじいちゃん。
——じゃあ、父は?
「イノシシはさすがにここにはいないな……」と考えたとき、父の似顔絵がGoogleナビになって現れた。
Googleのマークがイノシシの目になって、夢の中で思わず笑った。
すごいアニメだ、この夢。
——はっと気づく。「岩見沢の前で降りなきゃ」
降りるのは幌向だ。
ガタン、と列車が止まり、目が覚めた。
そこは、本当に幌向だった。
これは電車?それとも汽車?……今はそんなこと、どうでもいい。
とにかく、降りなきゃ。
あわててスーツケースを持ってホームに立つ。扉が閉まる。
あれは本当に、ソーラー発電搭載の、トレーラー式お座敷列車だったのかもしれない。
19人ばかりの人が降りた。私は最後の一人だった。
階段を一段ずつ、ゆっくりと上がる。
5年前の1月18日、午前8時13分。
父は羽田に、ひ孫と孫と義理の息子を迎えに行った。
母と弟と私を残して。
——そのことを、この青いガーベラ鉄道の夢が教えてくれた。
父は朝の天気予報を見て、朝ドラの途中に出かけた。
Googleナビになって。
最後の一段を上がる。
この階段をあがるときに、夢のエピローグの音楽がかかる。
そう、駅員がきっぷ切る音、かちかちかちかち かち、、、、かち、、、。
うん、なんだかきいたメローディい
(そうだ、横浜のおじいちゃんは、戦中戦後の昭和国鉄の職員だった。)
『初恋」 (福山雅治 2009年) かえるばしょある、、、しっているから、、、、、、永遠、、、いわせて、、、、なんだこのアニメの監修はだれだ?めちゃくちゃじゃないか。
てがみ、、、 ふれない、、、
この先の先の 駅の名
ひとり読めた 横浜市民 のおじいちゃん
明治のころの 国鉄マン
手元で刻む カチカチ音
美唄から 流れるメロディ 風のおとにフィード オフされていく
そして。
いつもの無人駅 の改札。
スマホをかざして改札を通る。「ピッ」と鳴ったとき、意識がくっきりと戻る。
私はいま、駅の階段を降りている。
そこに、哲郎が迎えに来ていた。
「ただいま」
——ガタン、と音がした。
あわてて荷物をかかえて降りる。哲郎が、駅まで迎えに来ていた。
「ただいま」
伸子さんも、きっと北広島の駅でいっているにちがえない。
彼女のエピローグの曲は、きっとほかの同行者がえらんでくれるにちがえない。
おしまい
最後まで読んでくださってありがとうございます。
ひきつつき 第2部 長旅編で会えたら嬉しいです。




