64【宮廷晩餐会と初めての父の日を異世界で】
学園祭の演劇は、一年生の出し物なのに、演目の内容のせいでトリに回されていた。
俺は、ほぼぶっつけ本番で頑張るだけだけど、ずっと準備をしてくれていたクラスメイトのおかげで大喝采に終わることが出来た〈ヴェール ドゥ シュバイツ 碧く清らかな精霊の泉〉
モデルになってた父さんも、観客と一緒にスタンティングオベーションをしていた。
あなたのお話なんですけど!
さらに離れた席には思いっきりオーラを押さえて変装している皇帝陛下もいたのだ。
赤色くんの報告でやっとわかったんだけどな。
そうして今夜は二国間のトップ晩餐会ということになった。
父さんにロードランダ国に瞬間移動ばされて、シュバイツ王子(仮)の衣装に着替えさせられた。
六歳児で翅付き。ちょっとピエロみたいな裾(葉っぱを連ねたイメージだそうで)の服とマントだった! 子供のコスプレっぽいけど、マントをしていても外側に出現している翅が、我ながら五月蠅い後ろ姿だ。
魔法学部教授の息子で王室の侍従長のプランツさんが
「王子の服を着せる事が出来て感無量」
とか半泣きで着せてくるから、いやとは言えなかったよ。
派手だから泣きたいのはこっちだ
父さんも外行き用のエルフ王の格好になった。うん、本物はいいものをお召しだ。
そして、身なりを整えて、一度屋敷のロビーに戻るときは、父さんが行った事がない場所だから俺が連れていく。
「ようこそおいで下さいました、ロードランダ王よ」
ロビーでは、ドミニク卿が俺が見たことの無いようなほどに低姿勢で跪いていた。
その後ろにはウリアゴと本館も含めた執事や侍従たちも勢ぞろいして跪いていた。
「いやだな、ドミニク、我々の仲でしょう」
「ですが、ブランネージュ様は、この大陸でも一番権威のある王です。ご子息の前ではきちんと見せた方が良いかと」
エルフ王と手を繋いでいた俺は、貴族らしいドミニク卿の動きに少し面食らう。
「一番在位が長いだけだよ」
「では、そろそろ、ドミニク様も」
「セバスチャン、元気だったか?駿介がいつもお世話になっていてありがとう」
「いえいえこちらこそ、シュンスケいやシュバイツ様には良くしていただいております」
この人たちは知り合いだったんだ。だから俺の保護を・・・。
ドミニク卿にいつもの屋敷なのに恭しく案内されて、マルガン家の帝都で所有の一番良い馬車に乗る。
マイクロバスのように沢山席のある馬車の中ほどに父さんと座り、前にドミニク卿、とプランツさん。後ろに今日は侍従の服を着せられたゴダ、メイドのアリサねえちゃん。馭者はウリサ兄さんだ。半分はいつものメンバーで良かった。
四頭立ての馬車も馭せるウリサがカッコいいぜ。今日の衣装も侍従スタイル。
他家の馬車なら必ず呼び止められる、宮殿の外門をするりと通り過ぎて宮殿の正面玄関へ続くロータリーに入っていく。
馬車が停まると、先にゴダが降りてステップを出し、ドミニクが降りて父さんが続く。
俺もその後に飛び降りようとすると、父さんの手が出て、補助される。ここは飛び降りちゃダメなのね。はい。
他の人でも良かったのに、父さんはずうっと俺から離れない。
今までの距離を埋めるように手を繋いでくる。
父さん俺ね、もうすぐ十九歳なんですけど精神年齢は。でも、もしかしたら三千歳を過ぎた人から見たら、セバスチャンでさえ子供だったりして・・・。
玄関では、第二皇子のボルドー殿下と、友人のセイラード殿下が出迎えてくれた。
「ちょっと、シュンスケ、その恰好はやばいぞ」こそっ
「ふふふ、リアル精霊ちゃんだからな。でも今日は大丈夫!」
自信を持って言えるぜ。何しろ高額貨幣様がいるもんね。
晩餐会のための大広間に入ると、アドリアティック二世皇帝陛下とマルゲリータ様自ら入り口に立ち、父さんや俺と挨拶する。その向こうに、ダンテさんと鮮やかなコーラルピンクのドレスを着ていたカーリンが立っていた。
「カーリン、さっきぶり!ドレス滅茶苦茶にあってるね」
「あ、ありがとう。あの、シュンスケのお父さんってひょっとして」
「うん、紹介するね。その前に、
今晩はダンテ卿、改めまして シュバイツ フォン ロードランダです」
「ああ、今晩はシュバイツ殿下。いつも助けていただいて」
うお、初めて殿下と呼ばれてしまった。
「いえ。父さん、この人は、ダンテ フォン ラーズベルト卿。皇太子殿下の側近もされているんだ。
そして、彼の従妹でクラスメイトのカーリン嬢」
「初めまして、ラーズベルト卿、そしてカーリン嬢」
「初めまして、ダンテとお呼びください」
「か、カーリンです。シュンスケく、いえ、シュバイツ殿下には何度も助けていただいています」
カーリンが緊張しながらも優雅なカーテシ―ってやつで挨拶をしている。
「ブランネージュ フォン ロードランダ、いえ田中稔樹と言います。この子は駿介と呼んでくれていいですよ」
さりげなく手袋をしたカーリンの手を取ってキスを落とすエルフ王
「「はい」」
「良かったね、カーリン。君が父さんのこと憧れているって言ってたから、学芸会にも来てもらってたんだ」
「ひっ、そ、そんな。シュンスケ君がブランネージュ様の王子とは知らなかったんだもの」
伝説の物語を本人の前でお披露目したことに今更ながら焦っていらっしゃる。
「俺もつい最近まで知らなかったんだよね」
話しながらテーブルに近づくうちに、緊張が少し和らぐ。
こういう晩餐会は、身分の順で出来るだけ男性の間に女性が交互に座るようになっているそうだ。
この中では、大陸で一番古い国で在位の長い父さんが一番上の立場で、その隣にマルゲリータ皇后様を挟んで皇帝陛下なんだけど、皇后さまの計らいで、父さんと俺の間にカーリンという組み合わせになった。良かった。カーリンは何でか青白くなってるけどね。で、俺のさらに隣に皇后様になる。父さんと皇帝陛下の間はヴィゴーニュ王女殿下。殿下達の間には、ご学友の女子生徒(高位な貴族なので日本で言えば姫ってことだな)などが座っている。
ダンテさんやドミニク卿は侍従などと一緒に違う部屋にいる。
初めて会った時と違って、エルフ王のオーラ全開の父さんが、これまた君主のオーラ全開の皇帝陛下と会話をしていて、うん、なかなかにかっこよい。
「ねえ、カーリン。本当にお金の顔だね」
「しゅ、シュンスケ君。そ、そうね。でもお父様のことをなんていうのよ」
「ひょっとして、まだ緊張してるの?」
「なんだか、ご馳走の味が分からないわ」
「ははは、俺も」
でも、このメインのミノタウロスのステーキ旨。
「この肉ってカーリンを傷つけたやつを熟成したんだってね」
「そ、そうなの?じゃあ、シュンスケ君が仕留めたミノタウロスね」
「では、夏休みを利用して、シュバイツ殿下をロードランダ王国で、王子として発表されるのですな」
「発表だけして、王族としての公務はまだありません。六歳ですし、彼のやりたいことをやれば良いと思っているのですよ」
よかった、俺は王子様なんてできないもんね!
「なるほど」
「それに、ごらんのとおり、彼はエルフではないので」
おれは、出てきたデザートのケーキをを黄色ちゃんと青色ちゃんに、ティースプーンの先で直接あーんしている。
となりではカーリンも赤色くんにあーん中だ。
「カーリン嬢も精霊が見えるのですか?」
父さんが尋ねる。
「ええ、シュンスケ様の影響か、見えるようになりましたの。
特にこの火属性の赤色くんはいつもそばにいてくれるんです。
それに、私が誘拐に会った時には、みんなが頑張って探してくれたんです」
そうして、嬉しそうに眩しいくらいの笑顔で赤色くんにスプーンを運ぶカーリンが可愛すぎる。
「それは良かったですね」
「は、はい。大事なお友達です」
“わーい、おれも、かーりんだいじ! もちろん おうじも だいじだけどな”
“うん?赤色くんはカーリンの方がちょっと優先順位上?なるほどなるほど”
“だって、かーりんもかわいいもん”
“たしかに、カーリンがかわいいのはわかるけど。
おまえらは、素直で羨ましいぜ”
“おれは おうさまもすきだぜ”
“あたしもー おうさまも おうじもすきー”
“おうじはねーいつもおやつくれるの”
“ぼくも” “あたしも あたしも!おうじのおやつすき”
「すごいなシュンスケ。この子らお前にメロメロじゃないか」
父さんが少しびっくりしている。なんで?
「俺も、こいつらが可愛くてさー」
「うんうんわかります。シュンスケ君に連絡してくれたりね。頑張ってくれるんですよ」
カーリンも精霊ちゃんのことを話していて緊張感が和らいだようだ。
「羨ましいですよ。私も最近ちょっと存在が分かるのですけど、まだ姿を見たことはないんです」
セイラード殿下が言う。
“あたしは せいらーどもすき!”
あ、黄色ちゃん!また名前呼び!
“おかしくれるもんな”
お前らの好きの基準はそれか!
いつの間にかそんな父さんと俺とカーリンのやり取りを。殿下達や皇帝が暖かい目で見ていた。
「この一角は奇跡があふれていますな」
皇帝がつぶやく。
「奇跡?」
「まずは、ブランネージュ王の存在が奇跡という事と、その息子がそもそも精霊と女神のハーフという事、そうして、我らには見えない精霊たちが感じられる事実ですな」
会場の大人たちがうんうんと頷いている。
「そ、そういえば、今日の劇に貸していただいたワンピースだけど。シュンスケ君のお母さんの服だって言ってたわね」
急におろおろとカーリンが震えだす。
「うん」
「と、言うことは、本当はローダ様の」
「しっ、それは言わない方がいい」
「洗濯したら必ず返すから」
「うん、急がないから。いつでもいいからね。大丈夫、風の女神さまは優しい人だよ。俺、叱られたことないもん。ちゃんと育てられたとは思うけどね」
「それは、シュンスケ君がいい子だからよ」
そうかな?それなりに反抗期はあったと思うんだけど。
この世界で、どういう扱いかはまだ実感はないけれど、母さんは母さん。
いつまでも若くて、仕事を楽しく生き甲斐にしていた。
今は、ちゃんとご飯食べてるかな。ただでさえ、忙しかったのに社長さんにまでなっちゃって。
いくら風の女神様でも、無理しちゃだめだよ。
宮廷晩餐会が終わって、ひとまずウリアゴとドミニク達は海岸の屋敷に移動する。
結局俺は、名誉国民とこのお屋敷を貰うことになってしまった、リフォーム込みでね。
うん、その分もガスマニアで働かせていただきます!
着替える間もなく、父さんがロードランダ王国に瞬間移動ぶというので、俺はそのままホールでお見送り。その前にホール横の応接に引っ張る。
「父さん今日は、地球では三月だけど、六月の第三日曜日はお父さんの日なんだ」
そう言って、ロベリアさんのお花屋さんのスタッフに教えてもらいながら作った、黄色いバラと、魔法で無理やり咲かせたミニひまわりを組み合わせた、アレンジフラワーのバスケットを渡す。
「わーん、駿介ぇ」
「わわっ、父さん、みんないるから」
「うん、でも、母さんは本当に駿介をいい子に育ててくれたんだな」
「そりゃあね」
「そんな駿介には、父さんからもこれを」
そう言って、何もない空間にお花のバスケットを消したと同時に出してきたのは、19って地球のアラビア文字の蝋燭が乗っかったイチゴと生クリームのホールケーキだった。
「これ」
「うん、駿介は確か明日が誕生日」
「うそ」
「忘れるわけはないよ。駿介が生まれるときは一緒に地球にいたもん。だって、生まれてすぐに日本人に魔法で変えなくちゃいけなかったからね。ここと違って、母さんが居たから魔道具とかは要らなかったんだけどさ」
「そうなんだ。今はお腹いっぱいだけど、一口ぐらいなら大丈夫だよね。
おーい、ミアー」
一階にもあるキッチンからナイフと何枚かの取り皿とフォークも持ってきてもらう。
「はい、シュンスケ様」
「このお屋敷の皆さんを集めてくれますか?」
「は、はい、ブランネージュ陛下」
父さんはエルフ王の姿のままだ。
「「「「「お呼びでしょうか」」」」」
「明日ね、駿介の誕生日なんだ、ちょっと付き合ってよ」
「なんと、ではちゃんとした誕生会を」
「セバスチャン、そういうのは、もう今日の晩餐で疲れたからパスで」
そして、父さんはまたどこからともなく(アイテムボックスから)アコースティックギターを出してきた!
エルフがギターだと?そこは竪琴では?なんて、少し突っ込んでみたけど、
「じゃあ、みんな手拍子だけお願いします~」
“おれが、てんかするぜ”
赤色くんによるろうそく点灯
うん、みんなから見たら勝手に火が付く恐怖シーンではないのか?
そうして、父さんが初めて歌ってくれる俺の誕生日の歌。
「~ハッピーバースデイ トゥ 駿介~」
なんつうイケボじゃ!カーリンとかに聞かせたかったぜ。と思う事で
父さんに祝ってもらうという事実に、こみ上げそうになる涙をこらえる。
ろうそくを吹き消すと、みんなから拍手!
こんな誕生日を祝うなんて習慣はこの地域の平民にはないのに、グッドタイミングだぜ
「皆さんお付き合い有難うございます」
「うん、遅いのにごめんね」
「いいえ、俺らも参加させていただけて嬉しいです」
「うんうん」
「夏休みは二カ月あると言いますので、旅費と依頼料は私からちゃんと出しますから、ゆっくり馬車で来てください。宿泊施設もちゃんとしたところを使って」
「はい。ロードランダ王国に行けることを楽しみにしています」
ウリサがパーティーを代表して答える。
そうして、学芸会と晩餐会と父の日と俺の誕生日という 濃ゆい一日が終わった。
ちなみに俺の 六歳という表示は後二年動かないそうだ。しくしく。
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