表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/246

62【密室のカミングアウト】

 「ちょっとちょっと殿下」

 お昼休み、俺はセイラード第三皇子殿下だけを引っ張る。

「うん?なんだシュンスケ。その扉は?いつもの瞬間移動で出すのとは違うな」

「これは、俺のアナザーワールド」

 の中に錬金術の練習で作った一戸建て。精霊ちゃんの出入りは自由で、広大なお庭とか花畑もある。の土間倉庫に連れてきた。

 中には、空樽や、空の植木鉢、試作中のぬか床などがある。うん、片付けないとな。

「アナザーワールドって伝説の空間魔法」

「伝説なの?」

「そもそも、瞬間移動もあの距離を何度もこなせるのも伝説だがな」


 ーーー

 父さんに会った次の日。俺はまたポリゴン町のドミニク卿の朝食にお邪魔した。

 ギルマスは、たいていギルドの中に居住空間があって、災害時などで詰められるようになっている。家族のある人は近くに住んだり、単身赴任だったりするんだけどね。

 ドミニク卿は単身赴任タイプ。だから朝ごはんも執務室で食べている。

 この人にもメリハリを教えないとね。


「朝からすみません」

「おまえは、本当に忙しいやつだな」

「ええ、セバスチャンにも、気が遠くなるような寿命があるのだからゆっくりしろと言われたんですけど。周りはそうでもないですからね」

「まあ、そうだな」

「それで、皇帝陛下とのお話のことを、父に相談して来たんです」

 俺は、父さんと朝ごはんを済ませてきたので、セレさんに紅茶だけもらっている。

 その向かいでドミニク卿がパンにバターを塗りながら話す。

「そうか、お会いしたんだな」

「ええ。もうそれは大変でした」

 ハイエルフのギャン泣きとかね。

「で、今週末の学園祭の時に父が来る予定になってるので、その後に皇帝陛下と会談してもらえるか、まあ、親書も預かってるんですけどね」

「そうか、夏休みにはお前を自国あっちでお披露目するんだな」

「はい」


「よしじゃあ、まだ誰も来ないうちに」

 と言って、見たことのある魔道具を出してきた。

「身分証を出せ。一年ちょっとか。思ったより速かったけど、カミングアウトするなら解除が必要だろう」

「うん」

 ちょっと、ドミニク卿の〈後見人〉が外れるのが寂しいけどしょうがない。


「ここに手を置け」

「はい」

 初めて会った時のように、大きく立ち上がる俺のステータス画面を、ペンのようなものでちょいちょいと触る。

 あれは小さいけど、魔法の杖だ。クインビーが持ってたものに近いのかも。コンパクトで高性能。うん、スマホだな。スマートウォッチみたいなのもあったらいいな。


「・・・覚悟してたけど、俺の予想をはるかに超えていたな。そら身分証。国に帰って、王族らしいものを新調されるかもしれないがな」

「ありがとうございます。」

 手渡された身分証は金色に輝いていた。

 Dランクまでのドッグタグは一律黒ずんだ銀色だがCから上は色が変わるらしい。それで俺はとうとう年齢の制限を外されて正式なAランクになってしまった。うう、ウリアゴ先輩たちを差し置いて・・・。


「じゃあ早く行け、遅刻するぞ」

「はい、行ってきます」


 ウリサ兄さんにも言ってたので、今日は直接教授室に登校だ。


「というわけで、殿下に先にカミングアウトしとこうかと」

 必要なことを伝える間は扉も消す。

「う、うむ」

 何故か殿下の顔が赤い。


 完全に変身を解いて、翅も生やして、アナザーワールドで殿下に壁ドン。

 飛ばないと、壁ドンも格好付かないからね。腕が短いから結構顔が近いけど。


「俺のもう一つの名前は、シュバイツ フォン ロードランダ って言うんです」

「ま、まさか」

「ステータスはこれ」

 と言って、金色に光るドッグタグを握る

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 シュバイツ フォン ロードランダ

 〈田中駿介〉

 職業 ガスマニア帝国国立学園 魔法学部一年生

 

 種族 スピリッツゴッド 十八歳〈六歳〉

 冒険者 ランクA〈ランクD〉 ウリアゴパーティ

 レベル  四〇〇

 生命力 一二八六〇

 体力 一〇九三六

 魔力 三〇五〇〇〇

 魔法基本属性 全属性

 魔法特殊属性 全属性

 スキル魔法 空間・錬金・鑑定・精霊・変身

 その他スキル 算術・剣術・弓術・投擲・料理・裁縫・癒し・音楽・治癒・素描ドローイング小悪魔


 称号:白鯨の盟友


 風の女神の加護

 水の女神の加護

 海と宇宙の神の加護

 大地の女神の加護

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 完全な括弧は取れたけど、人間になったときはカタカナの名前と実年齢、入れ替わるハイブリッドな仕様・・・。


「・・・こ、これは、この数字でAランクは低くない?」

「殿下?」

「人間族の私には計り知れない大きな桁。数字だけを見たら魔族にも見えるけど、種族とか加護とか見たら、どちらかと言えば神だな。うん。シュバイツ様」

 おれも、だんだん人外というか人間族から遠くなって来てるとは思ってるよ!

 だからって、

「俺に手を合わせるのはやめて下さい殿下!」

「しかし、本当に私より色々上の人という事だよ」

「今、相談したいのはもう一度、皇帝陛下に合わせてください!ってことだけですぅ。

 これを直接渡したいから!」

 と言って飛ぶのをやめて父さんの封筒を出して見上げる。


「うっ。わかった。今日は一緒に帰ろう。夕飯も一緒に食べよう」

 オッケーが出たので扉を出す。

「夕飯は、まあ有難いですけど」

「よし決まり じゃあ」と言って勝手にアナザーワールドの扉を開けて出て

「ブリドー、ラスー」二人の護衛を呼ぶ。


 開いた扉の隙間から、カーリンが覗いてくる。

「シュンスケ君、劇の稽古しないと。セリフ覚えた?」

「ま、まだです」


 週末まで記憶力を爆上げする魔道具とかポーションはないかな。食パンでもいいけど。


「後、今日は衣装合わせするから、帰っちゃだめよ」

「でも俺、殿下と約束が」

「私も稽古に出るぞ」

「そうそう、それに主役はいそがしいのよ」

「はい」


「それにしても、その黒い髪と瞳のいつもの姿の方が変身だったとは」

「しっ、それは内緒で」


 放課後、俺は殿下の馬車に乗せられている。

 学園から宮殿は目と鼻の先なんだけど、宮殿の入り口から建物の方が何倍も遠い。宮殿の中のための乗り物だったんだな。ネズミのテーマパークにもそういう二階建てバスあったな。うん。ほんとの宮殿だもんな。


 俺は、皇帝が家族とだけプライベートな時に使うというリビングに連れていかれた。

 二十帖ぐらいの、東京育ちの俺にしたら十分広いけどまあ、何とか緊張感はマシな広さだ。

 俺は前日のなんちゃってお侍ちゃんの格好ではなく、普通に学園のジャケットを脱いだ合服スタイルだしね。


 ご飯の前にお手紙アンドお話を。

 リビングには皇帝陛下と、皇太子殿下、そして初めてお会いする皇子だってみんなそっくりだもんがお待ちになっていて、俺はセイラード殿下と一緒に勧められたソファに座る前に紹介される。

「ああ、きみが シュンスケ タナカ殿 だね、父上や兄弟たちに聞いていて会いたかったよ。第二皇子のボルドーだ。今は南東のトルネキ王国に留学中だったのだが卒業して帰ってきたところなんだ」

 うん、ソファもボルドーカラーです。ここの皇族は皆さん髪と目がボルドーカラーです。この人が一番覚えやすいかも。

「駿介です。よろしくお願いします。アントニオ殿下はお元気ですか?」

「留学中は城に住まわせてもらっていたが、セイレンヌアイランドから帰国後はきみに助けられたことをループしていたよ」

「ははは、そうなんですね」

 殿下達には詳しくは言って無いんだけどな。

 ボルドーカラー四人対俺一人の話し合い・・・。なんでみんな揃っているんだろうね。

「さて、昨日の今日だが何か大事な話があると」

「はい。昨夜あれからすぐに、父に会いまして、相談いたしました。それについて、少し失礼します」と言って変身をキャンセルする。

「おお、君は、エルフだったのか?」

 ソファに向かい合っているのでうん、翅は見えてないね、立てているからさ。

「それが、少し違うのです、父はご存じの通りハイエルフなんですけど。この手紙を皇帝陛下へ」

 はい親書を渡せました。今日の最大のミッション終了。


「なるほど、ロードランダの王子がシュンスケ殿、いやシュバイツ殿という事なんだな」

「はい」

「我々は、ロードランダ王国のことは隣国なので存じているが、昨日見せてもらった衣装とか刀は違っていたな」

「父が二年ほど行方をくらませていたことをご存じでしょうか」

「ああ、あの時は、ここの人間族至上主義が暴れまわっていたからな」

「父は母と一緒に、別の国にいたのです。そこで俺が生まれて、去年こちらに私だけ転移してしまってたのです」


「それで生まれ故郷は別だと」

「母は、まだあちらにおりまして」


「あい、分かった。そうだな、この手紙の通りに、貴方が王国でお披露目の後、この国の名誉国民として発表しよう」


「ありがとうございます」

「しかし、名誉国民が、帝都やこの国に不動産を持つのは全然かまわぬ。税金は納めてくれるんだろう?」

「それはもちろん」


「それでは、学園祭の後、御父上とここで会談をしよう。詳しい日程とかはその後だな」

「はい、お願いします」


 よし、父さん、うまくいったよ!

 立ち上がって皇帝陛下と握手。


「シュンスケ、黒いのに戻って」

 セイラード殿下に囁かれる。

「う?うん、チェンジ」


「では、我らの新しい友人を招けたので、親睦の夕食会をいたそう」

「シュンスケこっち」

 セイラード殿下との間を割り込んで皇太子殿下が俺の手を取る。

「あ、兄上!」「兄上ずるい」

 なに?なんなの?


 食堂に連れていかれると、初夏向けのドレスを着た二人の女性がいた。二人とも男性よりは落ち着いた赤紫色の髪で目はヘーゼルナッツ色。

 うん、こっちの色合いの方が落ち着くよね、色は。

「まあまあまあ、ようやく会えました。私は皇后のマルゲリータよ」

「シュンスケと言います。よろしくお願いします」

「私は第一皇女のヴィゴーニュよ。本当に可愛いわね!セイラードも可愛いいけど、ちょっと大きくなっちゃったし。うーんなんだかよい匂い。色白ちゃんで、天使ね」

「ヴィゴーニュ様、どうぞ仲良くしてください」

「もちろんよ!」


 うん?今は黒髪に戻ってるよな。

 二人の女性にいきなりベタベタくんくんされています。

「お肌もすべすべ!さすがね」

「お母様、私はこの方からお化粧品をいただいているのよ!」

「まあ、そうだったわね」


「・・・変身しといてよかったな。さっきのままじゃ齧られていたかもな」

「ああ、二人とも〈可愛いは正義〉を貫いているからな」

「さっきは遠ざけといてよかったわい、話が出来ないところだった」

 それで、リビングは男性ばっかりだったのね。


 ええ、この国の女性は俺には非常に怖いです。


「まあ、シュンスケを見てたら、可愛いは正義って少しは解る気がするけどな」

「ちょっと殿下!もう、俺は可愛いって言われていつも困っているんですよ」


「母上、セイラードとシュンスケちゃんがじゃれているわ」

「尊いわ~」


「姉上、私たちは犬や猫じゃないです!」

「ははは」


 やはり女性の会話は理解不能です。


 それでも、宮殿のご馳走をいただいて、無事にミッションも達成して満足した。


「では、本日は突然のお願いでしたのに有難うございました」

「学芸会、楽しみにしているわ」

 は、今黒くしても無駄だったのでは?


 一抹の不安を残し、宮殿から出していただいた馬車でお屋敷に帰った。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

ブックマークして頂くと励みになります!

それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大変( •̀ㅁ•́;) 駿介のステータス生命力が一二しかないよ( •̀ㅁ•́;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ