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13【異世界ブートトレーニング】

 トレーニングやお使いで町中を走って、速度も付き、長時間でも全然疲れなくなった俺は、ギルドの武術訓練に弓と投擲をお願いした。

 結論を言うと、なぜか弓の成績はすごくよかった。日本でいろいろなスポーツや武道はかじったけど、アーチェリーや弓道を習うチャンスには恵まれなかったから、この世界に来て初めて手を付けた分野ではある。

 なのに、我ながらほぼ完ぺきな命中率。たしかに、この世界に来て、手持ちの近眼眼鏡が掛けられなくなり、それどころか、今までにない視力なのだ。(測定したことないけど)


 元Aランク冒険者だったゲールっておじさんが、怪我と年齢を理由に引退しようとしたところ、引退寸前に出会った奥さんと遅くに生まれた子供たちとの生活費を稼ぐためにギルド職員として、武術訓練係を担当している。

 この人がこの世界の俺の師匠になるのは確定だ。


 その、ゲール師匠が言うには

 「弓矢がうまくいくのは、無意識に空間魔法を応用できているのでは?」と言っていた。

 まじか。

 訓練をお願いするにあたり、俺の属性やスキルを伝えてはいるけど、魔法のほうの訓練はまだ取り掛かれていなかった。

 ゲールは魔法のスキルが身体強化しかなく、ギルマスのドミニクには、「子供の体のままなら、とにかく先に基礎体力だ」と言われたからである。


 そして、今日は投擲の練習だ。日本では少年野球はやっていたし、部活には入ってなかったけど、高校生になってからはおっちゃんに交じって草野球に入ってた、練習試合の時などは若いからと投手をさせてもらっていたことも。その経験は果たして生きるのか。

 

 ギルドの裏手に高い石壁に囲まれた訓練場がある。屋根は少し朽ちていてところどころ空が見えている。その端っこには檻のようなものがあって、盗賊などを捕まえた時に一度そこに入れるためにあるらしい。今日は空っぽだ。昨日までいた盗賊は罪状の書類と共に帝都に護送されたらしい。その後はどういう扱いなのかは、ゲール師匠は知らないらしい。場合によっては死んだ方がましなこともある。って脅された。

 そんなこと言われても悪者になるつもりはないですよ!


 今は昼すぎ。冒険者はみんな依頼の遂行に出かけていて、誰もいない。

 訓練場に入ってすぐの足元に大量に投げナイフの入っている箱がある。

 ナイフには刃はついていなくて、先がとがっているだけだ。

 忍者が使う針型手裏剣と苦無の間ぐらいだな。手裏剣を投げて景品をもらう的屋ぐらいしか経験はない。形もゴムで出来た十字手裏剣だったしね。

 ボロく穴は開いてるけど梁のある天井には、いくつかのロープがぶら下がっている。いつもは端っこに手繰り寄せられているけど、時々よじ登ったり、腕で登ったりして訓練に使うらしい。

 それに幾つか色んな高さに数字が表示されているはがきぐらいの板切れが貼り付けてある。

 「この板切れにナイフを当てるんだ」

 「はい!」

 十本ぐらい投げる。弓と同じように全部当てられた。

 そのうち師匠は訓練場の鎧戸を開けていく。風は入るが外に物が飛び出ない作りだ。

 外から風が入ってくると、ロープごと板切れが動き出す。

 「的は動くのが当たりまえだ。鳥だったり。動物だったり、魔獣だったりするんだからな!外すなよ!」

 「は?はいーっ!」

 さらに集中力が出ているのがわかる。早く動いているのだろうけど、我ながら目で追えているのがわかってくる。

 「よし良いぞー」

 ゲール師匠はほめて伸ばすタイプかも知れない。こういう人好き。

 「じゃあ次はこれだ。避けながら投げるのを続けろー」

 と言いながら、今度は師匠が俺のほうに小石を投げてくる。

 「うわっ」

 「避けているだけで、手が止まっているぞ。投げろーっ」

 「はいっ!」

 そうやって全部のナイフを投げ終わった。

 「はーっ、はーっ」

 「うーん。これはまずいな」

 「はい?外した、的でも、ありましたか?」息を切らしながら問う。

 「いや、百発百中だ。合格。

 おめでとう。初日にして投げナイフ終了だ」

 セリフの内容に反して、初対面の時とは全然違う投げやりな言葉。

 「やったー!」

 「やった―じゃない。

 もう、しばらく俺の仕事なくなったじゃないか」

 ・・・それは、師匠のカリキュラムの組み立て方のせいでは。

 「今日全部しなくてよかったのでは」まだ2時間もかかってない。

 「普通は止まっている的でも外すものだ。命中率が高くなってから次の段階に行くのだ。

 だが、お前は全部の的に命中したから、そのまま最後の段階まで行ってしまったのだ」

 「ははは。それは自分でもびっくりしてますけど」

 「まあ、後は実践だな。誰かに普通の狩りにでも連れて行ってもらって、経験を積めばいいだろ」

 「はい!」

 「このギルドはな、お前に期待しているんだぞ。俺もそうだが、ドミニクさんもな」

 「はい!頑張ります」冒険者。あこがれるぜ。

 「ありがとうございました」 

 「これはカリキュラム終了の記念品だ」

 といって。新品の投げナイフ十本とナイフを体にセットするベルトをもらった。大人サイズ用だが。

 「このサイズのベルトしかなくて悪いが、ま、そのうち使えるようになるだろ」

 俺の成長は三倍遅いそうですけど。


 その夜、同居人たちに投げナイフセットを自慢させてもらって、皆に頭を撫でられまくって幸せいっぱいの気持ちで寝た。


 数日後のある日、孤児院の小さな庭で、女の子たちのままごとに付き合わされていた。

 ぴかぴか艶が光る泥団子を何個か作って男の子たちに作り方を教えながら。

 俺だって幼児の遊びに夢中になることもある。光る泥団子は作り方を教えると、男の子たちにもマウントが取れた!

 シト君も俺の横にいるが、ままごとには参加せず、泥団子の方をやっている。

 実際、俺が保育園児のころにも流行ったんだよね。

 光る泥だんごをぼろ布でさらにピカピカに磨きながら、ままごともする。

 ママはヨネちゃん。子供の役をまっちゃんがやって、チヨちゃんは隣の奥さんですって。俺?おれはウレシハズカシくもヨネちゃんの旦那役だ。ヨネちゃんの話に適当に相槌を打ってたら、チヨちゃんに旦那の愚痴を言われるっていう・・・。なんか日本でありそうなシチュエーションだ。

 孤児のはずのこの子らは何でこういうの知ってんですかね。と思ったら、後日、教会の礼拝堂で近所の奥さんが井戸端会議をしてらっしゃったのを見た。声が響くんだから、家庭の事情や他人様のうわさは大声で話したらだめですよぅ。


 さて、スマホの日付は六月の後半。

 この世界も夏は紫外線(は分かってないようだけど)というか日焼けが気になるなんてわけではなくて、この国の夏の日差しが眩しく感じる。東京に比べて空気が汚れていないからかね。知らんけど。って最近東京でも聞く関西弁を心の中で真似してみる。

 おれも、懐かしい野球帽型の黄色い制帽を取り出して毎日被っている。

 

 女の子もそれぞれ麦わら的な帽子を被っている。

 町のご家庭で子供が大きくなって着れなくなった衣類を寄付してもらって、この孤児院の衣料品を賄っている。帽子もそうだ。

 女の子の帽子にはもともとの子供の親がわが子を可愛くしたいがためや、自分の子供を探しやすくするために、アップリケやボタンなどの飾りが付けられていて、バリエーションがある。

 

 そんな可愛い帽子の上で、黒い大きめの鳥が四羽ほど叫んでいる。ごつい嘴があって、なんか見覚えのあるフォルムだ。って思ってたら、急降下してきた!一羽がヨネちゃんの帽子を、もう一羽がチヨちゃんの帽子を咥えて飛び立った。

 「あっ、コラー!」

 と叫んで、いくつか並べていたピカピカの泥団子の二つを、さらに飛んで行こうとする黒い鳥めがけて連続して投げる。

 グワッ ギャッ という声を出した鳥はそれぞれ帽子を放してそのまま落下してきた。

 見た目は汚れてなかったけど泥団子磨き中の手で、帽子を空中キャッチ。

 鳥と。泥団子は地面に。哀れ鳥たちは動かなくなり、泥団子は木っ端みじんになってしまった。残りの二話の鳥は彼方に飛んで行ってしまった。

 俺の投げた泥は帽子には、付いてないねうん。

 「ごめん、ヨネちゃん、チヨちゃん。帽子がとられる前にやっつけられなくて」

 「う!ううん!だいじょぶ。

 それより、しゅんすけ、かっこよかったよ!」

 「ほんと、えほんの ゆうしゃさまみたい!」

 「え、そう?ありがと」鳥二匹で勇者扱いとは烏滸がましいです。

 「あたちの、おうじちゃまだわ」

 「えー王子さま?なんだそれ」

 「ふふ、マツは おませさんなのよ」

 「?」女の子の会話はいまいちわかりません。


 黒い二匹の鳥を引きずるようにぶら下げてシト君がやってきた。結構でかくて重そうだけど、シト君も俺の真似っこで走ったり、鉄棒にぶら下がったりして、最近鍛えていらっしゃる。

 将来はやっぱり冒険者が夢だそうで。ま、そうですよね。

 「これどうする。シュンスケ持って帰る?」

 「シスターに言って、ここの晩御飯の足しにする?」

 最近、材料が何でも平気になってきたな。虫以外は。

 「やった!」

 「まずは血抜きだよね、ギルドのほうに行ってみようか」

 「うん!おれもついていく!」

 「その前に、ヨネちゃん、チヨちゃん、まっちゃん。お部屋に帰ろうよ。

 残りの鳥はあっちに飛んで行ったけど、また戻ってくるかもしれないし。

 ほら、シスターが他の子も部屋に入るよう呼んでるよ」

 残りの鳥が離れたところで、まだ旋回している。

 「そうね。みんな、いこ」

 「「うん」」

 かしまし娘とシトで建物中に入り、女の子が手を洗っている横から、俺は泥団子の手のまま鳥の一羽をシトから預かって、ギルドのほうに回ろうとした。

 「おや、それはどうしたんですか?」

 「ライせんせ!シュンスケが どろだんごを、ぶつけてしとめたんだ!」

 「それはすごい」

 「今からギルドで捌いてこようかと。晩御飯に追加しませんか?」

 「それはいいですね~」

 「それより、こいつら、女の子の帽子のボタンを狙って襲ってきたんだ」

 「そうなんですね。ボタンとっちゃいましょうかね」

 「でも、あのかざりがきにいってかぶってるんじゃないのか?」

 シト君、そうなんだよー。

 妥協案としては、

 「光らないものじゃないものに付け替えたらいいんじゃない?アップリケの帽子のほうは狙われなかったんですから」

 「そうですね。彼女たちを説得しますね」

 「お願いします。俺たちはギルドに行ってきます」


 ギルドに行って、暇しているゲール師匠に鳥をさばいてもらった。

 ギルドには専用の屠殺場があって、ダンプのような魔物から、小動物まで、命を大事に頂くための道具や設備が揃っている。裏口には慰霊碑もあるんだ。

 大物を担当する専門の方もいらっしゃるが、小動物は暇な人にお願いすることもある。


 師匠が血抜き中に、二つの大きなバケツに熱いお湯を入れておくのは、給湯係の俺です。

それで、羽を抜いたり毛をあぶってしまえば、見覚えのある丸鶏状態になった。あんなに黒い子だったのに、きれいなピンク色になっちゃって。

 ここからなら、元アルバイターの俺ならできる!

 孤児院に帰り、シト君と二人めちゃめちゃ手を洗い、仕込み中の食堂の厨房で、

 「すみませんごめんなさい」を連発しながら、肉と、骨というか鳥ガラ部分に分ける。

 鑑定を使い、厄介そうな寄生虫は無いという表示にちょっと安心する。

 頭は捨てさせていただいています。目と嘴が怖いので。

 二羽分とは言え、孤児院の頭数は多い。鳥ガラはじっくり煮出して出汁を取る。

 肉は道具が包丁しかないので、それで鳥肉を細かく細かく切って、さらに細かくたたく。最後はミンチ状態にする。

途中でシト君に教えて変わってもらう。シト君は二本の包丁を両手に持って、リズミカルにたたいてる。楽しそうで良い。

 そして三つの玉ねぎ(ここでは違う名前だが鑑定したら”異世界では玉ねぎとも言う”となったので。使い方は同じだ)をこれもみじん切り。涙を流しながら頑張る。みじん切りを今度は植物油をちょっと足して透明になるまで炒める。

 このみじん切りの炒め玉ねぎとミンチの鳥肉に卵と固くなってた余ったパンを削って粉にしたのを足してこねる。シト君の手も参加しています。塩や、良い香りの薬草ハーブを加えて種が完成した。

 玉ねぎの分、嵩増しできたぜ。

 

 いい感じにうま味が流れ出した鳥がらスープの灰汁とがらを捨てると、めっちゃ金色の鳥のお出汁ができた!鶏より色が濃いかも。

 孤児院の頭数より多くの量になるように出汁に水を足して伸ばす。

 煮立つまで加熱してから、肉と玉ねぎをミックスした種を二本のスプーンで団子状態にして落としていく。俺は片手と一本のスプーンでつみれの要領で団子にする。

 ここでも、ちっちゃい手が!ちっちゃい団子にしかならないんだ!でも数が出来るから良し。

 そして、種を全部鳥肉団子にした! スープに浮いてきた団子を一つ掬って、ふうふう冷まして1個味見。玉ねぎを使ったので、つみれじゃなくて、とり肉のハンバーグのような味だ。玉ねぎが甘くてうまい。

 シト君と、厨房担当のシスターさんにも味見をしてもらった。

 「はふはふっ。あつっ。うわ、おいしー。それにやわらかい!」

 「ほんと、これなら小さい子にも食べやすいわね。どこでこんなレシピを?」

 「いや、レシピというほどのものではないですけど、どんな肉でもミンチにして卵とかパン粉のつなぎを入れたら団子になりますよ。

 まあ、割合は研究の余地がありますけど」

 なんて話をしながら、スープのほうに塩を足したり、ほかの野菜を刻んで足したりした。

 肉団子と、足した野菜からもいいお味がでて、スープのほうもめちゃ美味しくなったのでは?

 こんどは、スープのほうを味見。自分で確かめてから、皆で味見。

 「こんなおいしいのはじめて!すごいな、シュンスケ」

 「シト君が手伝ってくれたからだよ!」

 「そうか?そうかな」

 美味しそうに食べる彼にこっちも嬉しくなるね。

 「ほんと、スープも絶品ですね」

 「作り方はそんなに難しくなかったでしょ?」

 「ええ、鳥の骨から出汁が出るなんて知らなかったわ。これからもギルドで新鮮な骨が手に入ったら作ってみようかしら」

 「はい。あっと、それからシスター、この料理は鶏でももちろん作れますし、お肌にいいんですって。母に教わった料理ですが。俺の母、若々しくて美人なんですよ」ってコッソリ言う。

 「まあ、そうなの!」

 こう言っとけば頻繁に作るだろう。

 

 夜、ギルドでウリアゴの三人と合流した俺は、鳥スープを小鍋に取り分けて持ってきて、レストランコーナーで、カップ一杯ずつ味わってもらった。団子は大きめのを一人ひとつだけだ。

 子供たちが多かったのでそれだけしか持ってこれなかったのだ。

 でも、ほんのちょっとのスープでも三兄弟は喜んでくれて、次に鳥を仕留めたら、テラスハウスで料理してくれと言われた。

 今度は三人にたくさん食べてほしいから、もちろんご馳走すると返事した。

 それに、鳥肉は、ほかにも作れる料理があるよね。焼き鳥とか、照り焼きとか、唐揚げとか!


 弓も覚えたし、狩りに行くときのウリアゴのパーティーにぜひ付いていきたい。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。

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