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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
勇者 フィン
20/58

20話

「魔王の姿は確認できたか?」


「いえ、まだです」


ジルールの言葉に苛立ちが募る。

魔王の世界を見つけたまでは良かったが、肝心の魔王の姿がない。

ずっと『オウマイト』にいるのか?

だが、あそこにいても強くはなれない。

それに、共通ルールが『オウマイト』に籠る事を許すはずがない。

そうなると……。


「死んだのか?」


もしそうなら『メイカク』が手に入らない。

俺の手で魔王を殺さないと、あれは消えてしまう。

本当に、死んでいるなら時間をかけるだけ無駄だ。

まだ様子を見る必要があるが、他にも目を向けるか。


「他に魔王が産まれたという情報は無いのか?」


「数件の波動をキャッチしており、今順次調べておりますが調べる範囲が広大ですので、もうしばらくお待ちください」


「分かった。ただし急げ」


「はっ」


ジルールが王座の間から出ていく姿を見る。

奴はそこそこの仕事が出来る。

なので、いずれ見つけてくるだろう。


「ふぅ、予定が少し狂ったな。まぁ、魔王は次々生まれてくるから問題ないか」


そう言えば、そろそろ魔石の回収が終わっている頃か?

あれはカルチェにやらせたな。

ピーン。


「ん? あぁ『メイカク』か」


椅子から立ち上がり、椅子の後ろに回り込む。

王座の間の扉を見て、閉まっている事を確認すると、椅子の真後ろの壁に手を(かざ)す。

ピッという音とともに、壁の一部分が消え小さな空間が姿を現した。


王座の椅子の後ろの壁には、隠し空間が作られている。

その事を知っているのは『オウマイト』の主のみ。

そして、その空間にはフィンの命が大切に仕舞われている。

フィンは、淡い光を発している凸凹した白い石を両手で持ち上げ、目の前まで持ってくる。


「俺の命」


これが割れたら、俺は死ぬ。

『メイカク』は時々不意に音が鳴る。

その理由は不明、だが少しずつ『メイカク』が変化している事に気付いた。

おそらく変化する時に音がするのだろう。

今回の音が鳴った理由を知りたいが、見た目に変化は無くため息をつくと元の場所に戻す。

フィンの『メイカク』が入っていた空間から少し横にずれた場所で、もう一度手を翳す。

ピッとまた音がして、壁の一部分が消える。

そこに置いてあるのは、様々な色をした割れた『メイカク』。


「俺が殺した魔王たちの命」


全て2つに割れているが、美しい色までは失われていない。

触ると指に少し痛みが走るが、体の中に何かが入ってくる感覚がする。


「これは何なんだろうな。体が満たされるようで気持ちがいい」


目を閉じ体をめぐる何かを感じる。

すっと目を開ける。


「………………。」


勇者となり魔王を倒して力を得る。

それなりに満たされているはずなのに、どこか虚無感を覚える時がある。

小さくため息をつき、王座の間に視線を向ける。

『オウトマイト』、俺を産み出した場所であり、全てを誕生させる力を宿した空間。

ここから全てが始まった。


「次は何を産み出そうか」


壁に手を向け横にスライドさせる。

2つの空間を隠すように壁が現れ、『メイカク』の姿が見えなくなった。

王座に置かれている椅子に戻り、周りを見渡す。

誰も何もいない空間は静寂が広がっている。

天井を見上げると映し出されているのは、この星で栄えている西大陸。

掌を天井に向け右に移動する。

それに合わせて天井の映像が右に移動し、手を付けていない東大陸が映し出された。

西大陸は人間の国になった。こちらはどうするか。


「そう言えば、獣人の実があったな。あれを使うか?」


だが、西と東で種が違う場合のデメリットを考えると躊躇する。

もし未来、西と東で争う事があったら?

もちろん西には中黄の国が含まれている、優先するのは西大陸だ。

あの国の繁栄は俺に力を与えてくれる。

だからと言って東を疎かにするつもりはない。

東での繁栄も恐らく俺にとってプラスに働くはずだ。


「人間だけというのも面白みがないしな。やはり獣人にしようか」


少しのデメリットは、俺が目を光らせておけば問題ないだろう。


「失礼します。魔石の回収が終わりました」


カルチェか。


「入れ」


「はっ、失礼します」


扉が開くと視線を少し下にした状態でカルチェが歩み寄り、跪く。

躾の効果なのか、以前感じた不快感は無い。


「221個の魔石の回収が終わりました。全て吸収されています」


「問題は?」


「ありません」


カルチェを見る。

3番目に配下にしたイモリ種。

少し反抗的な態度も取るが、まぁ、許容範囲だと言える。


「魔石の数は416個です。魔石を使って何をする? 【魔物を出現させる55個】【世界のレベルを上げる5000個】」


変わり映えしないな。

【魔物を出現させる55個】に手をかざす。


「【魔物を出現させる55個】に決定! 魔石の残り361個」


「カルチェ、続き魔石の回収を命ずる」


「はっ」


立ち上がるとそのまま後ろに数歩下がり、頭を下げてから背を向け王座の間を出ていく。

ここのところ、魔石の回収以外のイベントが発生しない。

世界のレベルを上げなければ、他のイベントは発生しないという事か?


「いつまでたっても縛りが消えないな。これがあると俺の予定が狂わされる」


いつか消えて自由に選べるようになるのか……まぁ、考えても無駄だな。

そう言えば、あれはどうなったんだろうか?

そろそろ産まれるか?

見に行ってみるか。


王座を降り、扉の前に立つと自然と外に待機している護衛騎士が扉を開ける。

王座の間と『オウマイト』と外を繋ぐ魔法陣がある白い空間の中間にある角を左に曲がる。

そのまままっすぐ歩き、簡素な扉の前に立つ。

誰もいないため、自分で開ける。


「もう少し護衛騎士を作るべきか?」


この『オウマイト』は『メイカク』を隠す空間だ。

守りを強化するのは当然の事だ。

だがキュマには限界がある。

どうするべきか。


扉を開けて中に入ると部屋全体が淡い光に照らされる。

その中央に鎮座している卵。

この卵が何かは不明。

これはイベントで押し付けられた物だ。

時々差し込まれる、意味の分からないイベント。

あれにキュマが使われるのが気に入らない。

卵の時もそうだ、かなりキュマを消費しなければならなかった。

そうして手に入れたのに、まだ産まれる気配がしない。

何が出てくるのか。


「ん? あぁ、時間切れか」


周りに光が集まってくる。

それに少し残念な気持ちが湧き上がる。

この姿の時が一番動きやすいのだが、仕方ない。

するすると体が変化していく。

それに伴って視界が低くなっていく。

バン。

元の姿に戻った時に尻尾が床に当たってしまったな。

前足を動かし、異常が無いか確かめる。


「問題は無いな。王座に戻るか」


のそのそと4本の足で床を移動する。

やはり2本足の人間の姿の方が移動しやすいな。

イベントで大陸に用事が出来た時、手に入れた変身魔法。

だが、この魔法はなぜかステータスに表示されない。

それに疑問は浮かぶが、使いやすいので使えるギリギリまで使用している。

変身魔法の縛りは96時間。

48時間変化すると、96時間は強制的に元の姿となる。

逆ならいいのだが、仕方ない。

尻尾で扉をあけ、卵を置いてある部屋から出る。

そのまま王座の間に移動する、扉の前にはトカゲの姿になった護衛騎士の姿。

護衛騎士は全て俺を元に作られるため、俺と同じ姿になる。

扉に近づくと、護衛騎士が扉を開ける。

のそのそと王座へ向かう。

先ほどの椅子とは違い、今の俺でも乗れる椅子へと変化している。

『オウマイト』は主の変化とともに、すべてが変わる。


「人間の姿に戻れるまで寝るか。あの姿に慣れると今の姿は動きづらくてしょうがない」


椅子の上で寝る体勢になる。

配下たちには仕事を振り分けているし、当分はここに来ることは無いだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と気になるキーワードが出てきましたな? [一言] ぬう、自分の命を隠しておくとかズルい! それ、魔王の方がやる奴やん。 まったくどっちが悪者なんだか!
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