20話
「魔王の姿は確認できたか?」
「いえ、まだです」
ジルールの言葉に苛立ちが募る。
魔王の世界を見つけたまでは良かったが、肝心の魔王の姿がない。
ずっと『オウマイト』にいるのか?
だが、あそこにいても強くはなれない。
それに、共通ルールが『オウマイト』に籠る事を許すはずがない。
そうなると……。
「死んだのか?」
もしそうなら『メイカク』が手に入らない。
俺の手で魔王を殺さないと、あれは消えてしまう。
本当に、死んでいるなら時間をかけるだけ無駄だ。
まだ様子を見る必要があるが、他にも目を向けるか。
「他に魔王が産まれたという情報は無いのか?」
「数件の波動をキャッチしており、今順次調べておりますが調べる範囲が広大ですので、もうしばらくお待ちください」
「分かった。ただし急げ」
「はっ」
ジルールが王座の間から出ていく姿を見る。
奴はそこそこの仕事が出来る。
なので、いずれ見つけてくるだろう。
「ふぅ、予定が少し狂ったな。まぁ、魔王は次々生まれてくるから問題ないか」
そう言えば、そろそろ魔石の回収が終わっている頃か?
あれはカルチェにやらせたな。
ピーン。
「ん? あぁ『メイカク』か」
椅子から立ち上がり、椅子の後ろに回り込む。
王座の間の扉を見て、閉まっている事を確認すると、椅子の真後ろの壁に手を翳す。
ピッという音とともに、壁の一部分が消え小さな空間が姿を現した。
王座の椅子の後ろの壁には、隠し空間が作られている。
その事を知っているのは『オウマイト』の主のみ。
そして、その空間にはフィンの命が大切に仕舞われている。
フィンは、淡い光を発している凸凹した白い石を両手で持ち上げ、目の前まで持ってくる。
「俺の命」
これが割れたら、俺は死ぬ。
『メイカク』は時々不意に音が鳴る。
その理由は不明、だが少しずつ『メイカク』が変化している事に気付いた。
おそらく変化する時に音がするのだろう。
今回の音が鳴った理由を知りたいが、見た目に変化は無くため息をつくと元の場所に戻す。
フィンの『メイカク』が入っていた空間から少し横にずれた場所で、もう一度手を翳す。
ピッとまた音がして、壁の一部分が消える。
そこに置いてあるのは、様々な色をした割れた『メイカク』。
「俺が殺した魔王たちの命」
全て2つに割れているが、美しい色までは失われていない。
触ると指に少し痛みが走るが、体の中に何かが入ってくる感覚がする。
「これは何なんだろうな。体が満たされるようで気持ちがいい」
目を閉じ体をめぐる何かを感じる。
すっと目を開ける。
「………………。」
勇者となり魔王を倒して力を得る。
それなりに満たされているはずなのに、どこか虚無感を覚える時がある。
小さくため息をつき、王座の間に視線を向ける。
『オウトマイト』、俺を産み出した場所であり、全てを誕生させる力を宿した空間。
ここから全てが始まった。
「次は何を産み出そうか」
壁に手を向け横にスライドさせる。
2つの空間を隠すように壁が現れ、『メイカク』の姿が見えなくなった。
王座に置かれている椅子に戻り、周りを見渡す。
誰も何もいない空間は静寂が広がっている。
天井を見上げると映し出されているのは、この星で栄えている西大陸。
掌を天井に向け右に移動する。
それに合わせて天井の映像が右に移動し、手を付けていない東大陸が映し出された。
西大陸は人間の国になった。こちらはどうするか。
「そう言えば、獣人の実があったな。あれを使うか?」
だが、西と東で種が違う場合のデメリットを考えると躊躇する。
もし未来、西と東で争う事があったら?
もちろん西には中黄の国が含まれている、優先するのは西大陸だ。
あの国の繁栄は俺に力を与えてくれる。
だからと言って東を疎かにするつもりはない。
東での繁栄も恐らく俺にとってプラスに働くはずだ。
「人間だけというのも面白みがないしな。やはり獣人にしようか」
少しのデメリットは、俺が目を光らせておけば問題ないだろう。
「失礼します。魔石の回収が終わりました」
カルチェか。
「入れ」
「はっ、失礼します」
扉が開くと視線を少し下にした状態でカルチェが歩み寄り、跪く。
躾の効果なのか、以前感じた不快感は無い。
「221個の魔石の回収が終わりました。全て吸収されています」
「問題は?」
「ありません」
カルチェを見る。
3番目に配下にしたイモリ種。
少し反抗的な態度も取るが、まぁ、許容範囲だと言える。
「魔石の数は416個です。魔石を使って何をする? 【魔物を出現させる55個】【世界のレベルを上げる5000個】」
変わり映えしないな。
【魔物を出現させる55個】に手をかざす。
「【魔物を出現させる55個】に決定! 魔石の残り361個」
「カルチェ、続き魔石の回収を命ずる」
「はっ」
立ち上がるとそのまま後ろに数歩下がり、頭を下げてから背を向け王座の間を出ていく。
ここのところ、魔石の回収以外のイベントが発生しない。
世界のレベルを上げなければ、他のイベントは発生しないという事か?
「いつまでたっても縛りが消えないな。これがあると俺の予定が狂わされる」
いつか消えて自由に選べるようになるのか……まぁ、考えても無駄だな。
そう言えば、あれはどうなったんだろうか?
そろそろ産まれるか?
見に行ってみるか。
王座を降り、扉の前に立つと自然と外に待機している護衛騎士が扉を開ける。
王座の間と『オウマイト』と外を繋ぐ魔法陣がある白い空間の中間にある角を左に曲がる。
そのまままっすぐ歩き、簡素な扉の前に立つ。
誰もいないため、自分で開ける。
「もう少し護衛騎士を作るべきか?」
この『オウマイト』は『メイカク』を隠す空間だ。
守りを強化するのは当然の事だ。
だがキュマには限界がある。
どうするべきか。
扉を開けて中に入ると部屋全体が淡い光に照らされる。
その中央に鎮座している卵。
この卵が何かは不明。
これはイベントで押し付けられた物だ。
時々差し込まれる、意味の分からないイベント。
あれにキュマが使われるのが気に入らない。
卵の時もそうだ、かなりキュマを消費しなければならなかった。
そうして手に入れたのに、まだ産まれる気配がしない。
何が出てくるのか。
「ん? あぁ、時間切れか」
周りに光が集まってくる。
それに少し残念な気持ちが湧き上がる。
この姿の時が一番動きやすいのだが、仕方ない。
するすると体が変化していく。
それに伴って視界が低くなっていく。
バン。
元の姿に戻った時に尻尾が床に当たってしまったな。
前足を動かし、異常が無いか確かめる。
「問題は無いな。王座に戻るか」
のそのそと4本の足で床を移動する。
やはり2本足の人間の姿の方が移動しやすいな。
イベントで大陸に用事が出来た時、手に入れた変身魔法。
だが、この魔法はなぜかステータスに表示されない。
それに疑問は浮かぶが、使いやすいので使えるギリギリまで使用している。
変身魔法の縛りは96時間。
48時間変化すると、96時間は強制的に元の姿となる。
逆ならいいのだが、仕方ない。
尻尾で扉をあけ、卵を置いてある部屋から出る。
そのまま王座の間に移動する、扉の前にはトカゲの姿になった護衛騎士の姿。
護衛騎士は全て俺を元に作られるため、俺と同じ姿になる。
扉に近づくと、護衛騎士が扉を開ける。
のそのそと王座へ向かう。
先ほどの椅子とは違い、今の俺でも乗れる椅子へと変化している。
『オウマイト』は主の変化とともに、すべてが変わる。
「人間の姿に戻れるまで寝るか。あの姿に慣れると今の姿は動きづらくてしょうがない」
椅子の上で寝る体勢になる。
配下たちには仕事を振り分けているし、当分はここに来ることは無いだろう。




