21話
目の前に広がる荒れ地を見つめる。
数日前までここには魔物がいたと報告があった。
だが、今その姿はどこにも無い。
ジルールを従え、荒れ地を歩く。
砂ぼこりが舞い上がり、視界が悪い。
しばらく歩くと、魔物らしき死骸が転がっている場所に出た。
「もう少し早く来ればよかったか」
魔王が生み出した魔物が死に、荒れ地が広がっている理由は魔王の消滅だろう。
何らかの理由で魔王が死に、世界を維持できなくなった。
維持できない世界は死んでいく。
そして、消える。
「ジルール」
「はっ」
「上空から、動いているモノがあるか確かめろ」
「はっ」
ジルールは背に羽を出現させると、ふわりと羽ばたき空へと舞い上がった。
その姿を何気に見て、視線を死んだ魔物へ向ける。
まだ腐敗は進んでいない。
死んで1日か2日ぐらいだろう。
生きているモノを殺せば、レベルアップに繋がる。
「ご主人様」
「見つけたか?」
「この周辺には動くものはいないようです」
「そうか」
期待していたわけではないので、特に気になる事もない。
「他に何か目についた事はあるか?」
「ここから少し離れた場所に洞窟らしき物の入り口が見えました。中はまだ確認しておりません」
「ふ~ん、何かあるかな?」
洞窟か。
魔王が作った洞窟には興味があるが、無駄足の可能性もある。
それに面倒くさい。
「ジルール、中を確認してこい」
「はっ」
バサッという音が微かに聞こえると、ジルールの気配が遠くなる。
さて、調査はすぐに終わるだろう。
待っている間に何をするか。
魔物の死体をよけながら、荒れ地を歩く。
特に、気になる物もなく。
「無駄な時間だったか?」
ドカンッ!
後ろで大きな爆発音のような音が聞こえた。
慌てて後ろを向くと、巨大な竜巻が巻き上がっている。
「なぜ?」
この世界の魔王が消滅しているのは魔物を見ればわかる。
なのになぜ魔王がいないと維持できない物が、そこにいる?
「ガァーーーー」
竜巻の風が空に舞い上がると。
額に角があり、真っ赤な目。
腕が4本あり、下半身は太くがっしりした4本の脚。
その魔物が俺に向かって走ってくる。
「あぁ、まだ生き残りがいたのか」
ジルールは、主人と魔物の間に立ち掌を魔物に向ける。
「ウィンドカッター」
ジルールの掌の前に風が集まると、それが刃のような形になり魔物に襲い掛かる。
「ギャゥウ。ギィーーー」
魔物の体に大きな傷ができ、そこから血が溢れでる。
それでもこちらに威嚇するだけの力はまだあるようで、不気味な声が周りに響く。
「ジルール、引け」
俺の声にすっと立ち位置を変えるジルール。
魔物がおかしな動きを見せれば、すぐに対応できる場所。
「ウォーター・アロー」
水が矢となり魔物に襲いかかる。
すっと体から魔力が抜けていくのが分かる。
「ギャガ、ギャ――――」
魔物の体に深く刺さった水の矢。
それが効いたのか、魔物の体が大きく横に倒れていく。
バタンという音と同時に、砂が舞い上がる。
しばらくして砂が落ちつく頃、ピンと軽やかな音が耳に届いた。
「おめでとう! さぁどっちで強くなる? 【魔法レベルを上げる】【スキルレベルを上げる】」
「他星で敵を50匹もしくは50人倒す」がクリアできたみたいだな。
それにレベルが上がるのはかなり嬉しい。
魔法かスキル。
どちらがいいだろう?
「どの魔法のレベルが上がるのか、どのスキルのレベルが上がるのかは不明か」
魔法は攻撃、スキルはほぼ防御。
これからは、今まで以上に強い敵が現れるかもしれない。
その場合、どっちが必要になる?
強い攻撃力は魅力的だ。
相手を確実に殺せる武器が欲しいからな。
だが、相手に攻撃された時に生き残る必要があるなら防御も欲しい。
あぁ、そうか。
攻撃された時に生き残る必要があるんだ。
どんなに攻撃力を強めても、死んだら意味がない。
そうなるとスキルのレベルアップが望ましいな。
ただスキルは防御だけじゃない、強打に弓術がある。
この2つのスキルが上がれば攻撃力のアップだ。
……まぁ、良いか。
目の前に表示されている【スキルレベルを上げる】に手を翳す。
「【スキルレベルを上げる】に決定! 実行します」
「おめでとう! 身体強化のレベルを1上げました!」
「次はこちら! 敵の星で命を100個狩れ!」
身体強化が選ばれたみたいだな。
しかもレベルが1つ上がった。
「次は100個か」
魔王の世界で狩る事でレベルアップが出来るのなら、今度からは魔王の姿が無くても狩りに出ればいいな。
どうせ死んでいく命なら、俺が利用してやる方が有意義だろう。
「戻るぞ」
「はい」
俺の言葉にすっと近付くジルール。
それを確認してから、魔法陣を発動させる。
転移魔法。
そう言えば、これもステータスには表示されないな。
視界に映る景色が、ガラリと変わる。
一瞬眩しさにぐらりと体が傾きそうになるが、足にぐっと力を込めて耐える。
眩しさが落ち着くと視界に入るのは真っ白な部屋。
「お帰りなさいませ」
声に視線を向けると、ヒリルアが跪いて俺を待っていた。
「何かあったのか」
ここで待つという事は、急ぎ知らせる事がある場合のみ。
オウマイトに異常でもあるのかと一瞬考えたが、何かあればわかる。
俺とオウマイトは繋がっているため、不測の事態があれば自然とわかるのだ。
今のところ、問題なくオウマイトは動いている。
「魔王の治める世界を2つ見つけました」
あぁ急いで探せと言っていたな。
「状況は?」
「1つはまだ解放されてすぐかと、もう1つは解放されたのは最近ではない様子です」
「最初の世界に、偵察隊を送れ」
「はっ」
ヒリルアの返事を背に聞きながら白い空間から出る。
すぐにメイドたちから挨拶が来る。
それに一瞬だけ視線を向けるが、すぐに王座に向かう。
「もう1つの世界が気になるな」
偵察隊を送らなかった方の、魔王の世界。
どれくらい前から解放されているのだろう。
俺がこの世界を解放したのは3月ほど前になる。
それより前の場合は、俺より確実にレベルが高いと考えられる。
俺のレベルが8。
同じレベル8の魔王となら何とか戦える可能性はある。
だが、それ以上となると圧倒的にこちらは不利だ。
「向こうがこちらに気付いていないといいが」
もし気付いているなら、一度世界を閉じて様子を見るしかないか?
だが、場所を確定されていた場合、再度開いた瞬間に襲い掛かって来るだろう。
いや、冷静になれ。
まだ気付かれたかは不明だ。
もしこの世界に気付いたら、きっと最初は偵察隊を送ってくるはずだ。
「ジルール」
「はい」
「西大陸に行き、偵察隊が潜り込んでいないか調べてこい」
西大陸にいる人に紛れ込まれると、見つけにくいだろうが。
「はっ」
これで少しは安心か?
もし偵察隊がいたら……それは今から考えても仕方ないな。
王座の間に入り、メイドたちに各自の仕事に戻るよう命令する。
椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。
「とうとう出てきたな」
今まで、倒してきた魔王は俺よりレベルが下だった。
そのため、あまり考えることもなく倒すことが出来た。
だが、これからはそうもいかないかもしれない。
配下を思い出す。
ヒリルアは犬種で土魔法使い、ジルールは鳥種で風魔法使い、カルチェはイモリ種で水魔法使いだ。
彼らと連携して?
出来るか?
それとも配下をもっと増やすか?
だが最近のイベントでは配下を増やすモノは無い。
どうやったらあのイベントを起こせるんだ?
「やることが多すぎるな」
最初はもっと単純だったのに。




