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恋愛ごっこ  作者: faye
□第三章:閉めかけた扉
23/23

□また一週間が始まるわけで。

週が明けて、美和は早朝から空港にいた。

大き目のスーツケースと、ビジネスバッグ。

高岡よりも一足先に四国支社へ向かうことになっていた。

スーツケースをごろごろと転がしながら、美和は欠伸をかみ殺す。

昨日慌てて荷造りをしたため、何か忘れ物をしているような気もするが、

何とかぎりぎり時間には間に合った。

搭乗手続きをさっさと済ませ、席に着くと安心感に襲われそうになる。

安心感の反面、この一週間に対する仕事への期待と、

大きな負担ものしかかるが、気にしないように心がけていた。

明日合流する高岡が待ち遠しい。

仕事に対する姿勢として、それではダメなのだと分かってはいるが、

自分だけではどうしても自分自身を信用しきれていない。

地方に向かう便だが、始発便はいつも込み合っている。

隣に誰も来なければいいのにと思いつつ、ふぅと息を吐いた。

離陸まで、後どれくらいだろうか。

腕時計を見ようとジャケットをめくると、時計に絡むブレスレットが目に入った。




「…え?お土産ってこれ?」

別れ際に坂下から渡された緑色の袋を見て、美和は驚いた。

はいこれ、と手渡されたものの、受け取ってよいのか迷ってしまう。

誰でも見たことはあるだろう、ティファニーの紙袋。

「…嬉しいけど、申し訳なくてこんなの貰えない」

「いいよ、美和に買いたくて買っただけだから」

「…う…物で釣られそう…ますます私に分が悪いんだけど…」

そう言う美和の言葉に、坂下は笑い、いいから受け取ってよと言うのだった。

気になり、早速中身を開けてみると

ティファニーのエルサ・ペレッティラインのブレスレットだった。

同じラインのピアスをよく着けているのを、きっと坂下は気付いていたのだろう。

こういう細かいところに気づいてくれるのも、

悪くはないが、本当に女性慣れしていそうで。

「…坂下さん、こうやって、女の人だましてるのね」

「は?人聞きの悪い事言うなよ。

そりゃ、そのピアス好きなんだろうな、とは思ってたけど、

誕生日祝いも兼ねてるんだからさ。厭味じゃないけどね」

「うぅ…それを言われると…」

渋い顔をして、美和は頭を押さえる。

嘘をついて、坂下よりも高岡を優先した時の罪悪感を思い出してしまう。

「……でも、嬉しいのは本当。お揃いになるし」

ちらり、とピアスを見せ坂下にお礼を何度も言った。

「ありがとう、来週から着ける。一緒に出張に連れて行こうかな」

「そうして。っていうか、オレも週明けからまた出張なんだ。

海外だからしばらく会えないけど、メールでもするよ」

「…どこ行くの?」

「……ん、また香港。欲しいものあったら、連絡して」

「そんな贅沢言えない」

美和は笑い、坂下にキスだけねだり、別れたのだった。



お互いの出張が終わったら、会う約束をして。



週末のそんなやり取りを思い出し、美和はくすりと微笑んだ。

物で釣られてしまったわけではないが、純粋に嬉しい気持ちで一杯だった。

自分で買うアクセサリーは、自分へのご褒美だが、

男性から貰うアクセサリーは、自分を高めてくれる気がする。

美和は背もたれにしっかりと背を預け、少し眠ろうと目を閉じた。

今頃、坂下も香港へと向かっているのだろうか。

個人的に、香港は仕事よりもプライベートで行った方が多い。

買い物もしかり、食事もおいしくて、好きな街だ。

もし休みが取れれば、久しぶりに行ってもいいかもしれない。

とりあえずは、この一週間を乗り切るしかない。

美和は着陸するまでの間、機内サービスも取らずに眠りこけた。





一方での坂下はというと、出発は午後の遅い便のため、

午前中は会社に一旦出社しており、出張に必要な資料を作ったり、

上司にいくつか報告する事例もあったりと、何かと用事に追われていた。

少し休憩でもしようと思った時、たまたま見かけた璃子を呼び止め、

いつも定例となっているかのように、廊下に置いている自販機横で、

缶コーヒーを片手に、立ち話に花を咲かせていた。


璃子は今日から旅行から戻って来ている。

「はい、これ。斗真に買ってきた」

「…ありがとう。だからここで名前はやめて…」

「あら、わざとよ」

璃子からのお土産で、イタリアのコーヒーを貰い、

坂下は逆に香港のお土産で、先日のあるお詫びも兼ねて

ペニンシュラホテルで少し高級なお茶を買ってきたのだった。

「これで済んだら安いわよね」

「すみません…今日からまた行くから、何?リクエスト」

璃子からの一声に項垂れてしまう。

「嘘よ。気にしてないから」

ふふ、と璃子は笑い、これ好きだから嬉しい、と言ったのだった。

「…いいよ、リクエストあったら聞くけど」

「大丈夫よ、仕事してきてくれたら十分」

「……あぁ」

じゃあ、と書類を片手に坂下は璃子に背を向けたが、

何歩か歩いた後に課長、という声が聞こえて、

坂下は再び璃子の方へと振り返ったのだった。

「…ん?」

「ご機嫌良いってことは、上手くいってる?」

「…あのなぁ…」

坂下をからかう璃子の意地悪そうな笑み。

相変わらず美人だが、その笑みには少し腹が立った。

頼むからここではやめてくれ、と表情で訴えるが、璃子は気にも留めない様子だ。

「何?仕事のことだけど。順調?」

「………」

そっちかよ、という思いで、坂下は悔しそうに頭を掻いた。

「香港が好きなのは知ってるけど、住むわけ?」

「……!」

まさかの璃子の一言に、坂下は思わず言葉を失った。


「決まりそうなんでしょ?4月から海外事業部への異動」



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