【0話】女王陛下に誓います
「次、レイント・フォーゲル、前へ。」
父と母が私の一挙手一投足を監視してくる。でも慣れたもので、さっさとドレスの裾を捌いて前に行く。石造りな上にドームの天井になっているこの教会は私のヒールの音をよく響かせた。でも響いているのは私の靴音だけで、あとは何も聞こえない。ここにいる貴族の数より兵士の方が多いのに、衣擦れや金属が当たる音すらも鳴らなかった。
前に行けば行くほど周りの不躾な視線が背中に刺さる。私が「神の愛し子と大悪党」に出てくる盗人と同じ名字だからだろうか。本当に、心の底からこの本が嫌いだ。絵本なのが余計に気にくわない。これのせいで私は子供の時から陰口悪口叩き口の嵐である。なぜ両親は抗議しなかったんだろう。
大人になればこの環境も変わるのだろうか。
それとも神様が救ってくださるのだろうか。
「レイント・フォーゲル、跪き頭を垂れよ。」
でも、やっと今日で大人になれる。私が大人になれば、周りが大人になれば、きっと私の世界は変わると信じて。
「シュトロカステンの誇り高き民よ、神の従順たる愛し子よ。この良き日に成人となることを祝福しよう。
まずは、役目を果たすと神と女王陛下に宣言してきなさい。」
サンクトゥム・ベールが掛けられた。ベールなのに外が見えない。体全体が覆われ、私だけの世界になったみたいだ。
「風の一族、レイント・フォーゲルの名において、神と女王陛下に誓う。
神が定め、お与えくださった風の役割を、身命を賭して果たすと誓う。
初代王に倣い、世界の為に働き、マリエッタ・ソル・シュトロカステン女王陛下に忠誠を尽くし、世界の維持とシュトロカステンの更なる発展にこの身を捧げん。
神の眼差し、常に我に在らんことを。」
シュトロカステンの、この世界の為に生きて死ねること、この上ない幸せだと思う。私も風の一族の者として恥じない生き方をしたい。心からそう思って。
―――
娘の宣言が終わった途端、サンクトゥム・ベールが淡く光る。娘は微動だにしないが、他の者もそうなるので大丈夫だろう。
妻が私の手を握ってきた。
よかった。本当に良かった。これで一安心だ。娘はみんなと同じように育ってくれた。欲を言えば娘がこれから同世代の中でも抜きん出た働きをしてくれれば。しかしまぁ、とりあえずはいいだろう。これで多少は周りの目も和らぐはずだ。
妻の手を握り返す。
本当に、本当に良かった。




