100話「週明け」
週明けの昼休み。
神谷は佐藤を定食屋に誘い、二人きりで席に着いた。
「報告し合おう。花火、どうなった」
佐藤が水を飲む。
「……行けることになりました」
「本気か」
「はい。美園さんと改めてお会いして約束しました」
神谷が目を見開く。
佐藤はキスの話はしない。そこだけは胸にしまったまま、結果だけを出す。
「俺もだ。日高先輩と行ける」
「先輩も成功したんですか」
「成功、なのかはまだわからない。向こうも行きたかったと言ってくれた。嘘みたいだ」
定食が来ても、二人の話はそればかりだ。
「当日、変なことはするなよ」
「先輩こそです。日高先輩は怖いので」
「怖いのは美園さんも同じだろ」
笑い合ったあと、二人は小さく拳を合わせた。
「絶対、成功させよう」
「はい」
片思いの男たちの、昼休みの誓いだった。
同じ頃、給湯室。
陽菜、柚希、凛の三人。
陽菜がすぐに切り出す。
『ねえねえ、凛ちゃん。青柳さんと花火、行くんでしょ。美園さんから聞いたよ』
凛がカップを持ったまま、顔を赤くする。
「はい……美園さんの前で、誘ってしまって」
『やったじゃん! いい流れだよ、それ。応援する』
「ありがとうございます」
少しして、凛が柚希の方を見る。
「柚希ちゃんは。零ちゃんと、どうなの」
その瞬間、陽菜の目が鋭く光った。
『零? まさか柚希ちゃん……零のこと?』
柚希は給湯室の床を見た。
内心では、引かれる覚悟もしていた。
「……好きになった。零ちゃんのことが」
短い沈黙。
陽菜は、驚いたあとに、はっきり笑った。
『本気? 零のこと』
「本気。引かない?」
『引くわけない。むしろ嬉しい。
あの子、昔からの知り合いでね。柚希ちゃんみたいな子と、ちゃんと進展してくれたら私は大歓迎』
柚希の肩が、少し落ちる。
『サポートは任せて。変な邪魔が入ったら、私がどうにかする』
「……ありがとう」
凛も「よかった」と小さく笑い、三人の給湯室は急に明るくなった。
その夜。
陽菜は零に、短いメッセージを送った。
『柚希ちゃんに、一ミリでも悲しい思いをさせたら殺す』
既読が、すぐにつく。
零は画面を見たまま、その場で小さく震えた。
『……了解っす』
返信は、それだけだった。
指先がまだ冷たい。
冗談だとわかっていても、あの文面の重さは、昔を知っている零には効きすぎる。
零はスマホを胸に当て、長く息を吐いた。
(……絶対、悲しませないっす)
週明けの夜に、それぞれの夏がまた少し前へ進んだ。




