デュラハン族の秘密
「ヘッドショットしなければゾンビやグールといったアンデットは倒せない。でも、その頭が無いのならヘッドショットは不可能。故にデュラハン族は不死身なのだ」
玉座に座った魔王が皆に語り出す。魔王妃が魔王の鼻にティッシュを詰め込んで止血している。
「つまり、デュラハン族は数的には絶滅危惧種でも野生絶滅種であっても、絶滅不可能なので危惧されないのだ」
それ故に粗末に扱われている……。
「なんか、嬉しいような悲しいような」
「……」
嬉しくはない。たぶん。
「逆に増えだしたら大変。街中にゾンビが増えるより大変」
「うわあ……。デュラハンばっかり見たくないわ」
「おやめください」
「アンデットではありません。精霊なのです」
アンデットには申し訳ないが、アンデットではないと主張したい。息も臭くない。ミントの香りがするのだ。
「我ら魔族は強いのだ。その気になれば人間を滅ぼすことも容易い。容易いからこそ流されてはならぬ。自らの利益のためだけに容易きへ流れればいずれは自らを滅ぼす原因となろう。そして、人間同士の戦いも同様なのだ。止められるのなら止めねばならぬ」
「人間同士の戦いも……止めるのですか」
「うん。人間も無限の魔力の一部ぞよ。税金のように無限の魔力を払ってくれているぞよ」
「おやめください。無限の魔力がとても怪しい力に聞こえてしまいます」
オスデュラハンが手の甲で魔王にツッコミを入れている。
魔王様の考え。私にはまだ理解できないところが多過ぎる。
「そろそろ、御暇させていただきます」
外も暗くなってきた。
「え、帰ってしまうのか」
あからさまに淋しそうな表情を見せるオスデュラハン。首から上は無いのだが。
「ああ」
漬物石しか持って来ていないから。とは恥ずかしくて言えない。
オスデュラハンの胸の部分にはまだガムテープがベタベタに貼られている。「バカ」と貼られているのにまったく気付いていないのがしんどい。
笑いをこらえるのがしんどい。周りのみんなはよく耐えていると感心させられる。さすがというべきなのだろうか。
「また地上にも来てほしい。こんなところよりも楽しいところが一杯あるのだ」
「こんなところって……酷いぞよ」
魔王様がひとり怒っている。
「だったら魔王城から追い出せばいいじゃん」
魔王妃は容赦がない。冗談か本気か分からないが、たぶん本気で言っている。
「お願いします」
厚かましいが自分の力では帰れない。瞬間移動の魔法など使えない。
「分かったぞよ。瞬間移動――」
瞬間移動の魔法だけは効く体質で良かったと思う。とても都合がいい。
「シーユーレーターアリゲーター」
「カタカナ英語はやめい」
元居た雲の上へと送り届けられた。
空にはもう月が高く上っている。今日一日はここ数年で一番長く感じた。明日からは一人で暮らしていかなくてはならない。主を失った玉座が月夜に照らされキラキラ輝いている。これはいったい誰がいつ作った物なのだろう。魔王城の玉座と似ている。ビーズ細工とかで安っぽいところが特によく似ている。
グーグル、グーグル。
「ああ、お腹が空いた」
朝から何も食べていない。少し雲を千切ってガントレットで丸めて食べた。なんの味もしないがお腹は膨れる。
ずっとこればかり食べてきた。数百年……。消化がよくダイエットにも効果的だ。食べても食べてもなくならない。綿菓子のような食感が楽しめる。食べ放題なのにお財布にも優しい。
……。
誰もいない雲の上は、ぼっちで寂しい……。私には魔力がないから、ここにいても神様にはなれないだろうに……。
主を失った玉座にそっと座ってみた。
――これは!
……なんだろう……社長がいない隙に、こっそり社長椅子に座っている気分だぞ――。
座り心地がよくて思わずニンマリしてしまうぞ。首から上は無いのだが――。
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