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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
五章 ゲームでいうところの……――

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解けない誤解



「おや、弟たちは今この階層なんだね」


 そう言ってやって来たのはルクスである。

 この悪趣味極まりない階層の発案者。仮に今までダンジョンで死んだ者たちがああいったゾンビになるとしても、生前の姿が割と残った状態で出すとか一体どんな精神構造しておいでで? とキールは思わず口にだしかけていた。

 というか割と口に出ていた。


「うん? ダンジョン内で死んだ探索者の事かい? 言っておくけど別にあれ、本人ってわけじゃないよ」

「え、そうなんですか?」


 あまりにもあっさりと返されて、キールは拍子抜けした、みたいな表情になった。

 いやまて。


「本人じゃない? それもそれでどうかと思いますけど!?」


 わざわざゾンビに仮人格を植え付けて本人に似せた偽物として、って事か? そっちの方が悪趣味なのでは。いやどっちにしても悪趣味なんだけど。


「いや、この塔ってほら、他のダンジョンだけだといずれ溢れるからって事で色んな魔物が出るようにしてあるだろ。弟たちがいる終盤階層になれば他の大陸のダンジョンではもう見た事ないような魔物とかも出てきてるわけだし。

 ただ、ゾンビに関してはどこに配置するかちょっと迷ったんだよね」


 確かにダンジョンの中に出る魔物はある程度数が抑えられていて、出てこられない魔物もいるとか聞いてはいた。そういったやつらをダンジョンという名の魔界経由で塔に引っ張ってきている事で、この塔に出現する魔物はやたら数が多いわけなのだが。

 ルクスが言うには最初、ああいったゾンビは毒霧フロアの次の階層。館フロアに配置しようと思っていたらしい。確かにあのフロアに出る魔物の大半はゴーストタイプ。そこにゾンビが一緒に出てきても別に何もおかしな話ではない。

 ただ――


「そうなると、あいつら普通に罠にかかって死んでくから」

 既に死んでるから死んでくという表現もどうかと思うが、まぁ間違っちゃいない。


 言われてキールは考えた。


 かつての知り合いの面影が残るゾンビが襲い掛かって来て、一瞬とはいえ躊躇ったりしたとして。

 そこにやってくるゴーストタイプの他の魔物。そして発動された罠。

 探索者のみならず巻き添えで引っかかるゾンビ。


 もし、そこで出会ったゾンビが自分にとって知らぬ人物であったとしても目の前で罠に引っかかるのを見て何も思わないという事もないだろう。自分たちは緊急離脱で脱出するが、その直前罠にかかりある時は串刺しに、ある時は押しつぶされる瞬間を見るかもしれない羽目になるのだ。


 うっわ気まずい。何かとてもイヤな気持ちになる。


 これが生前大嫌いだった奴、とかいうのであればざまぁとか言えたかもしれないが、それ以外だった場合は逆に気まずさが勝つ。というか例え嫌いでも死んでしまった後にまでそんな目に遭ってたら流石に同情とかそういう気持ちが出てくるかもしれない。


 それにもしも、ダンジョンの中で自分を庇って死んだ仲間がそういったゾンビとなって出てきたとして。

 庇われた側はそれをすっぱり割り切れるだろうか。

 場合によってはその庇ったのが恋人だった、とかだと下手したら自分からゾンビの胸元に飛び込みかねない。死んでいてもいいからもう一度会いたい! とかいうタイプならやりそう。


 ルクスの言葉に一連のあれこれを想像してしまったキールはなんとも言えない表情になっていた。一体どういう感情なのその顔、と言われてもきっと本人にも言語化できない。


 勿論人によってはすっぱり割り切って生前は知った仲であっても今は魔物として倒せる者もいるだろうけれど、表向き平気で倒していても実は内心とても引きずってた……とかありそう。


「精神的にきつい感じがする」


 かつての仲間で死んだ事すら拒絶したい、とかいう相手がゾンビとなって出てきて罠に引っかかる瞬間、咄嗟に助けようと手を伸ばす者が出ないとも限らない。しかし相手はゾンビ。そんな事になれば助けようとした者はそいつに殺されるのだろう、きっと。


「かといって他に配置するのにいい感じのフロアがなくてね」

「それは……うーん、そう、なんですかね……?」


 確かに序盤階層は割と開放的なフロアが多かったのでそこでゾンビを出されても正直マトモに相手にするかとなれば微妙なところだ。戦うのが面倒であればさくっと逃げる事もできる。限られた空間の中、逃げ場があまりないようなところでどうしても戦うしかない、みたいなところで出さないと駆け出しの探索者だろうとそこそこ実力のある探索者であっても大半はゾンビとの戦いは回避するだろう。動きがそこまで早いわけでもないので逃げようと思えばできるわけだし。


「罠で別のフロアに飛ばされてその先が大量の魔物のいる部屋、とかそういうところに配置するにしてもだよ?

 もうこの時点で大体の探索者は罠可視化機能を解放しているわけだし、率先して引っかかりに行く奴はいないよね」

「それはそう」

 けれどもある程度倒さなければ減らない。減らないで増え続けるとそのうちどこかでパンクする。

 だからこそどこかの階層に配置されるというのはわかる。

 それでなくともこの塔で死んだ探索者はそれなりにいるのだ。どこかで出さなきゃ増える一方。


「それにさっきも言ったけどあれ本人じゃないからね」

「つまりそれって」

「似せてはいるけど別人っていうか普通のゾンビ。ただ、この塔に挑む相手によっては精神的な動揺狙えるかなと思って面白半分でやってみた」

「理由が酷い!」

 キールが叫ぶのも無理はなかった。

 お前……なんつー軽い理由でやらかしてんだ……もっとこう、どうしても避けられない事情があって、とかそういう感じでいけばまだしも……


「だから他の探索者があの階層に来たとして、その時またあいつらが出てくる可能性はあるって事なんだけど」

「愛する恋人が自分を庇って死にました。とかそういうタイプの探索者がやっとの事でゾンビとなってしまった恋人を倒したと思ったらまた同じのが出る、とか発狂ものだと思うんですよね」

「まぁ何度か出て倒されたらそのうち漂白されてクリーンな感じで普通のゾンビになるから」

「既にゾンビなのに普通のゾンビになるって何事?」

「他のダンジョンで見かける没個性的なやつ」


 そもそも本人ではないと言っているのでルクスとしてはこれっぽっちも悪びれていない。というか悪いと思ってすらいない。


 というかかつてダンジョンを利用した神族が魔物コインとかにして魂の一部を残して再利用とかしでかしたのもあって、完全抹消は難しいのだ。

 魔物が復活するサイクルを早めた要因でもあるわけだが、あれのせいで一度倒れた個体であってもまたそのうち復活する、なんて事になっていたりする。

 魔物コインがないのであれば、恐らく魔物を倒したらそのまま普通に消滅するとかだったはずだ。時々ドロップアイテム落としたりするくらいで。

 そうして魔物も比較的ゆっくりめに増えたり減ったりしたはずなのだ。


 まぁでも、実の所何度も倒されては復活を繰り返している魔物なんかはこの塔にも既にいるわけだが、あまりにも倒されまくった奴とか倒してももう魔物コインすら出てこない、なんていうのが時々出たりする。

 そうなるとそこでようやくその魔物は完全な死を遂げると見てもいい。

 魔物からしたらさっさと死なせてくれとか言い出すのが出てもおかしくはない。


「ま、この塔の上層階で今更ゾンビが出たとして、それが簡単に倒せるやつじゃないってのは今更だよね。人によっては、ってなるけど。うちの弟なんてなーんにも思い入れがないから完全に作業で焼き払ってる感あるけど」

 あっはは、とか笑ってるけどそれ、塔の外でやらかしたら確実に誰かの顰蹙買うやつだな、とキールは口の端を引きつらせた。

 ステラやベルナドットはそんなルクスを見ても一切動じていない。だってこれまだ普通の状態ですもの、とか言い出しそう。



 そうこうしているうちに階層主まであと少し、となっていた。

 そこに現れる新たなゾンビ。クロノの魔術でフロア全体的に焼き払ったはずなのにまた出た、という事はこれは魔術が発動し終わった後に出現したのだろう。


 そのゾンビは声にならないような声で、呻き混じりに救いを求めていた。

 ずりずりと足を引きずって歩き、クロノたちへ近づいていく。


 そのゾンビには片腕がなかった。途中で腐ってちぎれて落ちた、とかではなくどうやら最初から存在していないかのように綺麗に肩の部分まで何も残っていなかった。


「ミドルス……いやこれ本人じゃないんですよね本当に」

「本当だとも」

 あの時、彼が最期を迎えた時。

 緊急離脱機能と転移罠とがおかしな方向に作用したせいで塔の外に脱出したものの一人だけ地上ではなく上空に出てしまいそのまま落下し最終的に死んだ男。

 よくもまぁあれだけの高所から落下しておきながらある程度の原型は留めていたものだ、とあの時あの光景を見たキールはどこか現実逃避したような事を考えたくらいだ。


 塔の外のスクリーンでクロノたちを見ていた者たちも、ミドルスの事は見知っている者が多い。

 何せあの時だって最新階層という事で大勢の者が見ていたのだ。


 救いを求めるように腕を伸ばしクロノへと近づいていくミドルスの姿をしたゾンビではあるが、ある程度近づいた時点で唐突に発火する。

 そして叫びを上げて燃えて、燃え尽きて、そこには何も残らなかった。


「いやご本人じゃなくてもえっぐい……」

「でもゾンビだし、下手に近づかせたら危ないのはわかるだろ。まぁ、弟が何もしなくても優秀な右腕が黙っているとは思わないけど」


 ルクスの言い分は何一つとして間違っちゃいない。

 まぁ実際クロノをレェテが守らなければならないような事態になるのか、という疑問が生じるものの守る必要がなかったとしてもじゃあ黙って見てるだけかとなればそうもいかない。


 というか、正直な話二人とも詠唱とかしないで術を発動させているのでどっちが何の術を発動させているのか、というのがステラやベルナドットにはよくわかっていなかった。

 クロムやルクスは把握しているようではあるが。

 魔術に馴染みがあるかどうか、とあとは実力差とかそういうのもあるのだろう。

 事実魔術師でもあるキールにも判別がついていないようなので。



 ――ちなみに後日談ではあるが、この階層の存在を知ったまだまだ実力もそこまでついていない探索者たちは今まで以上に塔の探索を慎重に行う者と一時的ではあるが探索から離れた者とに分かれた。

 緊急離脱機能が解放されている者たちであればまだしも、それすらできない者たちはうっかりをやらかせば最悪死ぬのだ。そして死んだらあの階層でゾンビとして徘徊するのだろう、と思うのも無理からぬ話だ。

 緊急離脱機能を解放したとしても、絶対死なないわけじゃないのでそれなりの実力者たちも今までと比べて若干慎重になった事は否めない。


 あのゾンビは死んだ本人じゃない、という事実は、探索者たちにとって知る事のない情報なのでそうなるのもまぁ、言わずもがなというべきであった。

 ちなみにこの誤解がとけるかどうかは、実に数百年ほど先の話である。今を生きる彼らにとっては永遠の謎だ。それこそ、塔の案内人でもあるミーシャや修練場にいるゴーシュ、そしてアズリアにでも聞けば疑問は解決するのだが……

 気軽に話しかける事が出来る者、というのが中々に現れなかったのも長い間知られる事のないままだった原因の一つである。

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