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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
五章 ゲームでいうところの……――

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塔の終わり



 気付けばクロノたちはかなり上までやってきていた。

 もうこの辺りにでる魔物とか、恐らく今の探索者たちには手も足も出ないんじゃないだろうか、というようなのばかりだ。

 一つの階層も巨大な魔物が出るからか随分と広くなってきている。

 山かと見間違うような巨人が出た時には見物人たちもあまりの迫力にぽかんと口を開けたままだったし、それ以外の凶悪な魔物に対しても似たような反応だった。


 あれは、無理だろ……


 なんて言葉は何度も出ていた。

 自分たちなら無理だ。

 行けてもどこまでなら可能だろうか、そんな感じで話が出たりもしたようだが終盤階層に入ってすぐのあたりまでならどうにか……という者と、正直終盤階層も厳しいという者とに分かれたらしい。


 だが、それでも上を目指す者はいた。


 終盤階層、既にクロノたちが通り過ぎた休憩所ではあるが、酒場のようなところでは当たり前のように秘薬を使ったカクテルなんてものもあったからだ。

 そこには以前シデンが飲む事になった若返りのワインも存在している。


 これに目の色を変えたのは探索者だけではない。各国の権力者たちは勿論それらを求めた。

 とはいえ、そこに行くのはそう簡単なものでもない。

 だが諦めるという選択肢は存在せず、だからこそ多くの探索者たちは上を目指すのだ。



 クロノとレェテの実力がここまでとは知らない者たちは多くは単純に見物人としてあいつらすげぇな、で済んだが、時々有望そうな探索者に声をかけてはうちの商会と契約しませんか、なんてやっていた商人たちは大損した、みたいな顔をしていた。

 人を見る目はあった方なんだけどなぁ、と嘆く程度なら可愛いが、あれだけの実力があるならどうして売り込みに来ない……! と半ば八つ当たりめいた恨み言を漏らす者も。


 気持ちはわからないでもない。

 確かに最初の時点で見出していれば、今頃は専用スクリーンと塔横のスクリーン二つで映っていただろうし、そうなれば商会の知名度だって上げる事ができたのだ。


 今までは大陸の外まで手広くできなかったのもあったけれど、塔が出来てからは他国へ移動するのもここを経由すればそう難しいものではなくなってしまった。国の方で法整備をするとしても、塔が何かをしてくれるわけでもない。塔への移動を制限すれば探索者のみならず民の不満も続出するだろうし、現状国がどうこうできるものではなくなってしまっている。


 塔が出来て喜んだのは探索者だけではない、他国へ移動する手間際の手続き申請だとかが減った商人たちもそうであった。

 塔経由で他国へ行商に出る者も大分増えたのだ。

 だからこそ、今までは自国だけで名が知れ渡っていた商会も、他国でもそれなりに知られるようになってきたのだ。

 ここらでもっと知名度を高くできるような事があれば、いっそ他の商会を取り込む事だって可能だったかもしれない。そんな風に考えていた者も中にはいた。

 そしてそういった者からすれば、クロノとレェテはまさに逃がした魚も同然だったのだ。


 とはいえ、二人からすればそんな事、知ったこっちゃない、というのが正直な話だ。


 実際二人は別にこの世界の誰かのために、とかいう理由は一切ない。


 恐らくこの塔に入ろうとしていた頃の二人に声をかけたとしても、どちらにしても勧誘は失敗していたのだが、そこに気付く者は残念ながらいなかった。


 上に行けばいく程魔物は強くなる。

 そして罠も危険なものばかりだ。ヤクトリング無しでそこまで行けるのか……と最早感嘆するしかない。どう足掻いたって発動したら確実に死ぬしかないような罠も、二人は平然と切り抜けていた。

 実力差があまりにもありすぎて、見ているだけならまるで難しく思えない。だが実際にそのフロアへ行けば間違いなく自分たちなら十秒もたないだろうな、と思えるそれらを自分たちが攻略しろとなると、一体どれだけのヤクトリングの機能を解放するべきだろうか。


 次元が違い過ぎて、見ている側も上手く現状把握ができていない状況だった。


 ちなみに、別にヤクトリングの機能を全て解放したからといっても、必ずしも塔を攻略できるとは限らない。ある程度の不利な状況を回避するくらいはできるけれど、そこまでくるとあとはもう完全に実力が物を言うのだ。だがその事実に一部の者は気付いてすらいなかった。

 ヤクトリングの機能を全て解放すればどうにかなると思っている節がある。単純に夢を見たいのかもしれない。



 さて、そうこうしているうちにクロノたちは階層主を倒し、次なる休憩所へとやって来ていた。

 今までの休憩所よりややシンプルなそこにいたのは、女性の姿をしたゴーレム……ではなく執事の姿をしたゴーレムであった。一見するとただの青年にしか見えないが、そこにいるという時点で普通の者ではないとわかる。


 二人は圧倒的な速度で攻略してきたが、それでも何だかんだでここに来るまでに一月近くかかっていた。途中休憩をしないで進んでいたらもう少し早かったかもしれない。

 だがそこらの探索者であれば余裕で数年かかるだろう。現にこうして塔が出現してから十一年が過ぎてもまだ最上階まで辿り着いていないのだ。二人が異例というか異常なだけだ。

 その事実に気付いた者が果たしてどれだけいただろうか……


 まぁ、気付いても気付いていなくとも、ステラたちにとってはどうでもいい事だった。



「ようこそ。こちら最後の休憩所となっております」


 執事ゴーレムがそう告げた事で、二人はそのまま通り過ぎようとしていた足を止めた。

「最後、ですか」

「はい。ここが最後です」

「最上階、ではなさそうですね」

「次のフロアがラスト、つまりは最上階という事では」


 最後の休憩所と言われても、まだ続いているような構造になっている。まだ先があると思ったからこそ二人はさっさと次行くか、みたいな足取りだったのだ。

 最後、なんて声をかけられなければ間違いなく今までのように作業同然に進んでいた。


 ここまでくるにあたって、クロノはダンジョン内部が自分の世界の魔界と似通った気配があるという事を理解していた。であれば、ここが最後でだがしかし先に続いているというのであれば。


(こちらの世界の魔王でもいるんでしょうかね……いや、違う。そうじゃない。そもそも最初ここへは天界へ行くために上って……あれ?)


 そもそも大分下の休憩所の宿でベルナドットに途中で合流しような! みたいな事を言われていたのに今の今まで他の誰も出てこなかったので、まだあると思っていたのだが。

 塔はここが最後の休憩所。であれば次は天界に続いている、はずだ。

 途中、というのはどこを差していたのだろうか。


 どちらにしても進む以外の道はない。


「それで、この先は塔の管轄外になるのですけれど。それでも先へ進みますか?」

「それは勿論。そのために来たわけですし」

「今更引き返すわけがない」

 執事ゴーレムの言葉にクロノとレェテは迷う間もなく頷く。

「はい。承りました。それでは担当者に引き継ぎますので少々お待ちください」


 担当者……とは……?


 いよいよここでステラなりルクスなりが出てくるとでもいうのだろうか。

 そう思っていたクロノであったが、出てきたのはいかにも天使です! みたいな見た目をしたあどけなさの残る少女が一人。


「お待たせしました。それではこの先の案内をさせていただきますね。わたしはこの先の案内人を務めておりますノーラと申します」

「この先、ですか」

「はい。これより先は天界へと繋がっております」


 あ、やっぱりそうなんだ。

 その言葉にクロノはそう思うだけだった。


 だがしかしそう思うだけで済まなかったのは地上にいる見物人たちだ。

 スクリーンを見ていた者たちはここが最後の休憩所であると言われ、全体で結局何階あるんだここ……と今までのフロアを思い返して何階層かを数えたり、終盤階層に入ってもまだそこで終わりじゃないんだなぁ、と遠い目をしていたりしていたのだが、天界という言葉に思わず耳を疑った。

 だがしかし、ノーラと名乗った少女の見た目は人ではあるがその背には羽がある。それはかつての伝承の中にあった天の御使いそのもので。


「え、じゃあ、最上階まで行けば天界……つまり神が暮らす地へ行けるという事になる、のか……?」

 誰かの呟きに、いやそんなまさか、という思いと、でも今あの二人の様子見る限りそうだよな? という信じられないという気持ちと現実を直視しているけれど認めていいのかどうなのか、というどうにも言い難い気持ちが入り混じり見物人たちの表情はほとんど全員が複雑なものだった。

 ダンジョンは神が与えた試練である、というのを信じている者はこの世界、それなりに存在している。


 だからこそあの塔を作ったのも神であると思っていた。何せダンジョンの中に案内人とかいうのがいたりするのだ。今までのダンジョンとは明らかに違うそれ。

 神と関わりがある、となったとしてもだからこそおかしいとは思っていなかった。

 他のダンジョンと比べ秘薬の類が豊富にあるのも何というか、神の力というか威光というか、そういうもののおかげなのかとも。


 けれども、本当の意味で信じていたか、となると実の所そうではなかった。

 だがしかしここで伝承にある神の御使いたる姿をした存在が出てきたのだ。そして塔の先は天界へ繋がっているという言葉。


「あぁ……嗚呼! 神は本当におわしたのですね……!」


 涙を流しそう感極まったように叫んだのは、敬虔な信者の一人だった。教会で働いているし神の存在を信じていないわけではなかったが、それでもやはり時々ふと思うのだ。本当に今も神はいるのだろうか、と。


 そんな疑問を抱く事がまず問題なのでは、と自分自身に問いかける始末。

 そうして信仰と疑惑の間を行ったり来たりしていたのだが、それでもここでその疑問は解消されたのだ。

 やはり神はいた。


 そう知った途端、彼の目からは涙が止め処なく溢れていた。そうして跪いて思わず祈りを捧げていた。


 ちなみに、そんな感じの者が他に数名いた。


「ということはつまり、あいつらは神に会いに行くって事か?」

「なんと、なんと羨ましい……いえ、塔はここにある。つまりは、機会は平等に誰もに与えられていたのですね……!!」


 今の今まで探索者ではあったがそこまで張り切って上を目指していなかった信者の一人がそんな事を言い出した。


 いや、確かにそうなんだけど。最上階まで行けばとりあえず天界に行けるようになってるけれども。



 だがしかし、恐らくこの世界の探索者たちが最上階に行けるかどうかはとても微妙だ。

 それは塔を作った時点でステラもルクスもそういう風に想定していた。

 だって今までのダンジョンにも出なかった強いタイプの魔物が結構いたのだ。まぁクロノなら問題ないだろうという事でそのまま塔を作る事は継続していたが、この世界の探索者が攻略できるかどうかは全く! これっぽっちも!! 想定していないッ!!


 一応簡単にバッタバッタと死なれて誰も塔にこなくなるのも困るから多少の救済措置としてヤクトリングとか機能解放とかつけたけど、それでもだ。


 普通の探索者が塔の最上階を目指したとして、多分途中で力尽きる。

 物理的に死ぬとかでなければチャンスがあるように見えるのも問題だった。


 上に行けば若返りのワインがある。

 飲めば若返る。

 秘薬も金さえあれば買える。


 だからこそ、どれだけ時間がかかろうとも……という希望らしきものがチラ見えしているのだ。


 冷静に考えてまずその若返りのワインが売ってる階層まで行けるかどうか、なわけだが。

 宝箱からも出るらしいが、それをアテにしたとして必ずしも出るわけじゃない。


 下手をすれば目の前ににんじんぶら下げられた馬のように希望はあるけど実際その希望は自分を救わない、なんて事になる。それこそ、かつてのミドルスのように。


 それを承知の上なのか、数名の信者は塔攻略に本腰を入れる事にしたようだ。

 存在を確認できたのだからそれでいいのではないか、と特に信仰してるわけでもない探索者は思ったが、やる気を見せている本人に下手な事を言えばロクな事になりそうにない。

 実際信仰程度で済めばいいが、下手したら狂信者の可能性もあるので下手な事を言うと魔物よりも自分の命が危うい、とその探索者は心得ていた。


 祈りを捧げるだけならまだしも、どうせなら神の御許で仕えたい、とかいう考えの者もいるようだ。


 ……ぶっちゃけそこ職場にするにしても、給料出るの? というもっともな疑問を、しかし誰も口にできなかった。出ないような気もするし、でも普通に出そうな気もする。真相はそれこそ自力で天界に行って聞けという事なのだろう。



 まぁ、そんな地上でのあれこれなど知るはずもないのでクロノもレェテもノーラに続いて天界へと続いているらしき扉へと歩いていく。ノーラが扉を開け、その先へと進みクロノとレェテがその後ろに続き、扉の向こう側へと進んだところで――


 扉が閉まる。


「えっ!?」

 この先が天界なのか……と思っていた一部の者たちが思わず声を上げる。

 扉が閉まった後、クロノとレェテの姿がスクリーンに映らなくなったからだ。

 かわりに、最後の休憩所が映し出されている。


 執事ゴーレムが何かに気付いたように顔を上げ、

「あぁ、そういえば。この先は天界なので塔の管轄外。スクリーンには映りませんよ」

 地上で見ている者たちに向けてそんな事を告げた。


 天界をこの目で見る事ができる、と思っていた一部の者たちはその言葉になんだよ、とか嘘だろう!? だとか様々な声をあげているが、執事ゴーレムがそれらを聞いているはずもない。

 そうこうしているうちに、執事ゴーレムが映し出されていたスクリーンは画面が切り替わり、クロノたちの次に塔の探索が進んでいるチームを映し出した。

 とはいっても、クロノたちが最上階へと辿り着いた今となっては随分と下の階層になってしまうのだが。


 残念そうにしている者たちも確かにいたが、その中でゆらりと妙な気迫を持った者が数名存在していた。

 言わずもがな、信者たちである。


 直接訪れた者にしかその姿を見せる事はない、という天界の存在に、神の存在を明らかにされた彼らは俄然やる気を出し始めたのである。

 かくしてこの日、新たな探索者チームが爆誕する事となった。

 信者たちだけで構成された、天界を目指す者たちの集いである。


 とはいえ、彼らが天界へと行けたかどうかは……また別の話だ。

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