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異世界からの勇者召喚 失敗!  作者: 猫宮蒼
五章 ゲームでいうところの……――

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見ている方は盛り上がらない



 スクリーンに映る二人組を、見物人たちは信じられないものを見るような気持ちで見ていた。


 それとなく顔を隠すように布を被っているけれど、それでも時折ちらりと見えるそこからは別に彼らがお尋ね者で顔を見られては困るだとかそういったものではないとわかる。

 目立ちたいというよりは目立ちたくないといった雰囲気があるので、布も単にそういった目的の物なのだろうなとそれこそ多くの探索者たちをスクリーンで見てきた見物人たちは薄々察してはいた。


 ただ、片方、時折ちらりと見えるその顔はどこか見覚えがあるなと思えるもので。

 けれどもどこで見たんだったか……と見物人たちは「あれ誰かに似てるな」だとか「どこで見たんだっけな」とかそれぞれ言い合っている。

 もっとしっかり見ようとしても、スクリーンに映るとはいえ顔がはっきり映る事があまりないせいか、中々答えに辿り着けない。


 あと、毒霧が充満しているフロアにいるはずなのに一切何の対策もしていないように見えるのだが、どうしてこの二人は平然としているのだろうか。そっちも気になって余計に見覚えがあるんだけどどこで見たんだったかなぁ、という答えはわからないままだった。


「毒霧が漂ってるという話でしたが、この程度の毒なら大した事はありませんね」


 スクリーンに映る、誰かに似た男がそんな事を口にした。

 そしてその言葉にそうですね、と返すのは言わずもがなもう一人の男だ。


 何言ってるんだろうこいつら……そんなやりとりを聞いて見物人たちは思わずそう突っ込んでいた。

 内心で突っ込む者、思わず口に出してしまう者と様々だが思いは同じらしい。


 そもそも何の対策もしないであのフロアに入った者はほんの数秒で死にかけている。

 多少毒に対する免疫というか抗体というか、まぁそういったものがあったとしてもちょっとした程度では意味がないのだ。


 以前、毒無効化機能を解放した探索者チームの一つがふと気になって、毒霧フロアでハンカチを振り回した後、瓶に詰めて密封。そうしてダンジョンを脱出しその瓶の中に水を注いだ物を下のフロアに持って行き、その水を適当な魔物にぶっかけた事があった。

 序盤階層だったから、というわけでもないだろうけれど、その魔物は毒で苦しみのたうち回って死んだ。


 人よりも魔物の方が毒耐性高そうなのに、その魔物であっても死んだのだ。


 試しに中盤階層のもうちょっと毒に強そうな魔物で試したりもしたうようだが、その魔物も最終的には倒れた。

 毒だけで死ななかったようではあるが、大分弱体化したらしい。


 それを聞いてこの毒霧フロアに漂う毒を何かに使えないかと考えた者もいたらしいが、そもそも取り扱いにとても気を使う。

 下手にダンジョンの外に持っていって周囲に被害を及ぼすような事になればそれこそ大惨事だし、塔の中だけで上手く扱おうにも流石に休憩所などでそういった作業をするわけにもいかない。


 使いこなせればもしかしたら新たな武器として使えるのかもしれないが、扱い方を間違えれば周囲に被害が出る可能性がとても高い。となると、そんなものを使おうとしている者を見た時点で他の探索者が止めるだろう。


 そういった危険度としてもとても高い毒であるはずなのに、クロノもレェテも平然としている。

 それどころか二人の様子を見ていると、本当にその霧に毒が含まれているのか、とすら思えてくる。

 実は毒無効化の機能を解放していると言われた方が余程納得できるものだった。

 しかし二人の腕にヤクトリングは存在しないので、実はも何もないと見物人たちもわかっている。


「もしかしたら、毒を無効化っていうか、元から効果のない体質だとか、アビリティなんじゃないか……?」


 見物人の一人がそんな事を呟いた。

 その可能性は有りか無しかで言えば有りだと思えた。むしろ事実がどうであれ、そうであってくれた方がまだ理解しやすい。見ている側からすればそれがもう真実でなくともそうであってくれと思えるものだった。

 二人がこの世界の生まれではないのでアビリティなんてものがないなんて、誰も思わない。


 このフロアの魔物も未だ二人の脅威にはなっていないらしく、今までのフロアを通ってきたのと同じくらいサクサクと進んでいく。

 そうして毒の沼地が広がるあたりまでやってきた二人は、ひたすらにバランス感覚だけを試されているような足場の上をすいすいと進んで、あっさりと階層主のところまで行くとそれもあっさりと倒してしまったのだ。


 前にも何かこれくらいあっさりしたの見た気がするな……と見物人たちは思っていた。


 毒無効化機能を解放させても毒の沼地あたりで何だかんだ大抵の探索者たちは汚れるのだ。落ちなくても足を突っ込んで慌てて引っこ抜くなんてのはよくある話だった。だがこの二人、そういった危なっかしい状態にもならずに通り過ぎたのである。



「実はさ、あのフロアで苦戦するようなのって、まだまだって事なのか……?」

「いや、流石にそれはないだろ」


 見物している者たちがひそひそと話し始めるも、意見は二つに割れた。実際このあたりのフロアを余裕でクリアできている、なんてのは一部の規格外だけなのでその話合いは無駄だった。


 そうして次にやってきたのは、魔物が罠を利用してこちらを容赦なく追い詰めてきた館フロアだ。

 今でもこのフロアに挑む探索者たちは、油断してるとあっさり塔の外へ追い出される。緊急離脱があるから追い出されるだけで済んでいるが、それ以外で罠を一度だけ無効化してくれるお札なんてのがなければすぐさま塔の外。お札も多めに持っていなければ階層主に辿り着く前にやっぱり外に……なんて事がよくあるフロアだ。


 だがしかしここも二人はあっさりと攻略してみせた。

 床がパカッと開いてその下に槍だとか木の杭だとかがある場所では魔術で浮いて回避したり、上から落下してくる天井はやっぱり魔術で破壊したり。飛び出してくる壁も驚く事なくするりと回避してみせた。

 罠が作動しているのに全くそんな事はないと言わんばかりの態度に、魔物たちも半ばムキになって罠を作動させているように見える。ここも、あまりにも呆気なく攻略されてしまった。


 その次の雪が降るエリアも同じようなものだった。

 入ってすぐに「わぁ、寒いですね」とかのんきな事を言っていたようだが、すぐに魔術で何らかの対処をしたのだろう。寒いとか言ってるわりに全然寒そうに見えない二人は、雪で足を滑らせるでもなく進み、襲ってくる魔物に関しては魔術でサクサク倒していく。

 階を進むにつれて雪が深くなり足下も氷が混じってより滑る状態になっているはずなのに、二人は普通の道を歩いているのかというくらいに、当たり前のように普通に歩いている。もしかしたら魔術で若干浮いているとかなのだろうか、と思った見物人の一部がよく目を凝らして見たものの、正直よくわからなかった。


 雪が壁のように積もっている階に辿り着けば、周囲を見渡すのに不便だとばかりに魔術で雪を溶かしていた。

 というか、雪を溶かしてそのまま一直線に進んでいく。途中、隠れていた魔物も巻き込んで倒していたようでちょっとした地獄絵図のようになっていたが、二人はそんな事を気にした様子もない。


 流石に薄々わかっちゃいたが、見物人たちはこの辺りでようやく認めるしかなくなってしまった。


 あ、この二人、規格外とかそういう感じの奴らなんだな、と。


 強い奴が魔物を蹂躙していく様などは、見ている分には盛り上がるはずなのだ。例えばシデンたちチームだとか。

 けれども、それよりも凄くなると見ていても盛り上がるポイントがないんだな……と一同すんっとした表情になっていた。もうこいつらあっさりと終盤階層に突入するだろこれ……と、まだ中盤階層は少しだけ残っているというのに完全に決め打っている。その考えは間違ってはいない。


 あー、これはまたすぐ階層主の所に行ってサクッと終わるんだろうなぁ、なんて見物人たちは思っていたし、正直盛り上がるようなポイントもなさそうだから今のうちにちょっと他のスクリーンも見てみるか? なんて考え始めた者も出ていた。


 だがしかし、クロノが足下にあったらしいトラップサークルを踏んだ事で移動しようと考えていた見物人たちはその足をおもむろに止めた。


 正直な話、もうこのあたりまで来ると大体チームの誰かが罠の可視化機能を解放しているので滅多な事では罠に引っかからない。それでなくともこのフロアは雪と氷で覆われていて、可視化機能持ちの者からすれば罠がある場所はとてもカラフルに見える。

 だからこそ余計に引っかかりようがないのだ。


 時々引っかかるのは、滑って運悪くその罠の上に転んでしまっただとか、魔物に吹っ飛ばされた先がそうだった、なんてものだけだ。けれどもそれだってかなり気を付けて進んでいるので、滅多に見ない展開だった。

 罠が発動したというのに慌てた様子もなく「おや」とかのんきに言ってそこから離脱する気配もない。

 次の瞬間には黒い光が迸って――別の場所にいた。



「うわ、裏エリアあるのかやっぱり!」

 見物人の中でそう叫んだ者がいた。

 序盤階層の罠で基本的に昼っぽい景色から夜と思しき感じのところに飛ばされた、なんてのは何度かやらかした者もいるので知ってはいた。そちら側は昼と比べて魔物も強いし、場合によってはそれなりに実力があってもあっさり死んでしまう事だってある。

 だからこそそういった事態を回避するために多くの探索者は罠の可視化機能を解放してそういった危険度の高い罠は極力避けるようにしていたし、慎重な者たちに至っては罠を一度だけ無効化してくれるお札なんてものも購入している。


 だからこそ、中盤階層でこういった危険度の高い罠に引っかかる者というのは滅多にいなかったのだ。

 勿論不可抗力で引っかかる者もいたけれど、裏と呼ばれる所に飛ばされた者はそういやお目にかかった記憶がない。割と普段から見物していた者たちも、どうやらそのようであった。


 そこは一見すると砂漠に見えた。

 雪フロアの次は確かに砂漠フロアなので、序盤、草原フロアの裏が森である事を考えれば次のフロアと繋がってるように見える裏エリアに関しては別にそこまでおかしいと思うほどでもない。

 砂漠フロアは進むにつれて時間経過しているように見えるところなので、裏じゃなくても夜になっている階層があるが、しかしここはそちらとも若干様子が違っていた。


 一見すれば足下は砂のようだが、よくよく見ればそれらは雪である事が判明した。

 踏み固められて凍った、というわけでもなく砂のようにサラサラに細かくなっている雪が一面に広がっていた。

 通常の雪フロアにもそういった感じの場所がなかったわけじゃない。サラサラの雪の下に凍った地面があって、下手に凍った道よりも滑る厄介なゾーンだ。とはいえ、そういった場所はちょっとだけなので、どうにかすれば切り抜けられる。けれども一面を見渡す限り、足場はほぼそういった状態のようだ。


「うわ、こんなところに飛ばされたら移動するだけでも大変だな……」


 正直足下がサラサラしすぎているせいで、滑り止めのある靴を履いていたとしてもあまり効果はないだろう。


 実際に二人も移動を開始したもののすぐさま滑ったらしく「おっと」なんて言いながらもバランスを崩して転倒――しかけたものの絶妙なバランス感覚でもって立て直す。同時に、転倒した瞬間を狙って襲い掛かろうとしていた魔物に魔術をお見舞いしていた。


 何事もなかったように体勢を整えると二人はそのまま移動を開始する。


 隙を窺って襲い掛かろうとしている魔物の気配にも気付いているのか、一定の範囲内に近づいてきた魔物に遠慮なく魔術をぶち当てていく。正直な話、やってる芸当が人間離れしていて到底真似できる気がしない。


 そうして進んでいったその先に、階段が見えた。

 そこを進めば次の階層に行ける。ここから脱出できる。だがその手前には、何だかやたらと大きなトカゲがいた。五メートル程、といえばちょっと冗談じゃないサイズだと誰もが思うだろう。周囲の景色と同化するように白いその大トカゲは、二人の姿を認識するとその口から氷のブレスを吐き出したが――

「邪魔ですね」

 の一言で魔術によってあっさりとこんがり焼かれてしまった。



「……いや、何あの二人……強いとかそういうのあっさり超えてないか……?」


 あれだけ大きな魔物、しかも遠距離からの氷のブレスで並の探索者なら回避できずに凍り付いていただろうと思える攻撃ですらあっさりと魔術一つで終わらせてしまっている。


「なぁ、お前あれ真似できる?」

「無茶言うなよ詠唱も無しでだろ? いや無理。事前に来るってわかっててこっちも詠唱して準備整えてたらまぁ、どうにか……いや、やっぱ無理だな。あのブレスの威力をある程度打ち消すだけで精一杯」


 見物していた中には勿論探索者たちもいる。その中で仲間の魔術師に声をかけた者もいたが、魔術師は無理無理と言って首を必死に横に振っていた。ここで嘘でもできるぜ! とか言おうものなら待っているのは地獄である。実力の範囲内で期待されるのはいいが、実力を越えての期待は重荷でしかない。


 多くの見物人が初めて見た雪フロアの裏エリアではあったものの、しかしあっさりと二人は魔物を倒して先へと進む。そうしてあっさりと階層主がいるところまで辿り着き、さくっと次のフロアにも到着してしまっていた。あまりにもあっさりと進んでいくせいか、あれ、今ここ中盤階層の終わりあたりなんだよな……? と見ている方の意識を盛大にバグらせたまま。

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