聖女神の誕生
焼き焦がされ、大地も空も全て黒く染め尽くされた。
自然も人も何もかもが死した地。
これから行う儀式にこれ以上最適な地はなかった。
世界を救う手立てはただ一つ。
闇を呼んで神界を落とし、神々を堕落させたファゼルを討つ。
主神を殺したほどの力を持つ者、下手に手を出せば返り討ちにあうだろう。
ならば創ればいい。
例えそれが自然の摂理に逆らう事だとしても。
魂を創り、運命を創る。
神にすら許されぬ行為――知った事か、その理を作った者達も今はもういない、集った五人は自分達に代わりファゼルを殺す者を作り出す決意した。
一族が滅ぼされ復讐に燃える風の民の生き残り、珱。
自然界の理に逆らうと知りつつも、秩序を取り戻すためと参加したのは、三大龍が一・闇龍。
死神王が去り、死神の全実権を握ったデイス。
魔族の王・羅刹を父に、神界人を母に産まれてきた子、つい先日、父が母を殺しすのを目撃し、父への復讐を胸に抱くゲイト。
片割れを封印し、精霊界の全ての実権を握った精霊王・カルーシア。
それぞれ胸に復讐と野心を抱いた彼らは後に五勇者と呼ばれる。
「我らの罪は永遠に消えぬ」
「だが、それで全てを終わらす事ができるなら」
「全て我ら5人が背負おう」
「これの役目はただ一つ」
「ファゼルを殺せ」
音を立てながら光が渦巻く。
「ファゼルを滅ぼせ」
「ただそれ一つがお前の役目」
「ファゼルが死す時、それがお前の役目が終わる時」
「全て終わりし時、摂理を元の流れに戻すため、お前は消える」
「名もなく、地位もなく、名誉もなくとも世界の為に戦え」
残酷な役目を与えられ、創られる命。
消える事を前提に命を与えられ、役目を果すためだけに生まれでて、全てが終わったら消えてゆくが定め。
――いや
光が自らに課せられた運命を否定する。
――死ぬ為に産まれるなんて、いや
悲鳴をあげながら、創られた器に吸い込まれてゆく。
人々を魅了するだろう美しき女神の器。
――誰にも愛される事無く死ぬ、そんなの、いやーーーーっ!
誰にも聞こえぬ叫び。
激しく光が弾け、やがて全ての儀式は完了した。
「失敗した」
悔しげにカルーシアが吐き捨てる。
創った器は成人した神のものだった。
だが目の前に横たわるのは、一人で満足に立てない小さな赤子だった。
「術は途中まで成功していた。何がいけなかったのだ?」
「赤子になにができる」
「成長するまで時間がかかるではないか」
「しかし今更消すこともできまい」
「ならば名を与え、魂を固定しないと」
失敗した失望感にさいなまれながら、五月蝿く泣く赤子を見下ろすゲイト。
ファゼルを討つ前に悪の一人として父を討たせようとしたが、予定が狂い隠しきれない苛立ちに赤子を見下ろした。
「名はなんとしようか」
「与えられた使命を果たすまで、違う役割を与えるしかあるまい」
「我らに今必要なのは、団結、か」
ファゼルの魔の手から逃れ、各地に散った者をまとめるリーダーは確かに必要だった。
珱に任せようと思っていた役割だが、この赤ん坊でも勤まるかと悩むのは闇龍。
「希望を与える存在が良いだろう」
「光を求める者が崇めれば信仰心で失った力の分は補える」
「なら女神、いや聖女神の方がいいか」
「聖女神・エルリア」
「エルリア、ファゼルを倒すための道具、神殺しの力を持つ娘」
神殺しさえ成功すれば、これを作った英雄として地位を高められる。
親殺しの罪を覆い隠す地位、それがカルーシアの求めるもの。
「これが成長するまで、どれほど掛かるのだろうな」
疲れたように闇龍が呟いた。
成長するまで護らねばならない、ファゼルの手に渡らぬ様、敵の目に触れぬよう、護らねばならない。
長い道のりになるだろう、何よりこの子を護るため、多くの命が失われるかもしれない。
不完全な者達が理に背いて行動した結果だ。
(自分で動いた方が早いかもしれないな)
珱は欠けた女神に早々に見切りをつけ、次の道を模索していた。
「どうする?」
長く手元に置けば情が移ってしまう。
本来ならば少し様子を見てからすぐにファゼルを殺しに向かわせる予定だった。
だがこの状態では送り出す事は不可能。
「危険だが仕方が無い、ゲイト、神界に行って様子を探るのだ。この中で顔が知れていないのはお前一人、手を貸す者は必ずいるだろう、だが決して誰かを助けようとしてくれるなよ」
「わかった。やってみよう」
「味方を見つけるまでどうする?」
「私が預かろう。この子ならば精霊界でも支障はなさそうだ」
カルーシアが名乗りをあげ、赤子の行き先は決まった。
「さて、そろそろ帰らねば……天上界の様子が気になる」
嫌な予感に胸を煩わせながら、闇龍は出立しようと龍へと身を転じた。
「珱、お主はどうするのだ?」
「私は……」
「よければ天上界に来い、面白い奴と会わせてやる」
「面白い奴?」
「煉獄王だ」
「煉獄王――」
「貴方が闇の力を手にした頃、また会いましょう」
ふいに珱の耳奥で響いた言葉。
思い出したのは神狼の背に乗り、珱を救ったあの男の事。
闇の力。
三大龍全てに会う事は叶わなかったが、闇龍に出会い運命を変える鍵を作った。
だが――恐らく彼のいった『闇』とは闇龍の事ではない。
「煉獄王……辰王か?」
「そうじゃ」
「――アイツ、煉獄を捨てたのか?」
苦々しそうにデイスが親指の爪を噛む、王に与えられた役目を自ら捨てるなど、王に背く行為以外のなにものでもない。
「間違っているとは言い切れぬよ、あれはただ己の身を護っただけだ」
「私はそろそろ帰ります。精霊が不安がりますから」
「ああ、またいつか」
口調は穏やかだが闇龍の視線は何か言いたげだった。
「そのうちに」
その意味を知りながらカルーシアは視線を無視して、赤子を抱き抱え精霊界へと帰って行った。
「どうする珱?」
「連れて行ってくれ」
強く頷くと珱は闇龍の背に乗った。
「ではゲイト後を頼んだぞ」
闇が広がり暗雲が頭上に広がる。
「時がきたらまた会おう」
珱を乗せ、闇龍は天高く飛び上がり、暗雲に吸い込まれていった。
「さて、俺達も解散しようか」
「そうだな」
デイスとゲイトはそこで別れた。
再び集う日はくるのだろうか?
それすらわからぬまま、5人は解散したのだった。




