第14話
「アイトさまー。そんなとこでボーッとしてるなら一緒に虫取るの手伝ってくださいよぉー」
見ると屈めている膝の上に両手を置いてピョンピョンと跳び跳ねている姿はまるで蛙のようで笑ってしまったが、当の本人は不快そうに眉を潜めた。
「な、何笑ってるんですか?は!あそこに影に黒光りした虫が!静かに静かにですよ」
しっ!と人さし指を口に当ててからそっとそっと近付こうとした瞬間、足を草叢の水溜まりにとられドボンしてしまい、足を泥だらけになって泣きべそをかいてボクの名前を呼ぶピィの姿がおかしくておかしくて笑いが止まらなくなってしまった。
「アイトさま、ひどい」
虫の事をまだ諦めきれないのか、汚れた右足を引きずりながら辺りを確認して、肩を落として僕の隣に来た。
「笑いすぎです、アイトさま」
「あ、ああ、ごめん」
「でも…」
とピィは嬉そうに続けた。
「アイトさま、この世界に来て初めて笑ってくれましたね!私、嬉しいです!」
あ…。
そうか、僕ここに来てから笑っていなかったんだ。
「久しぶりにアイトさまの笑顔を見れて嬉しいです!」
そこで僕の隣に座り込む。
「ここの世界にアイトさまを連れてきてしまったこと、私なりに反省しているのです。アイトさまは魔王を倒した勇者です。魔王が自分の父親更にその者を殺害してしまったとなったらそれは辛いですよね」
「…」
「私一人でこの世界に戻ってきて事の顛末を伝えるのが常識でしたよね、本当に申し訳ありません」
ピィは目線を下に落として泣きそうな顔をしていた。
ピィのこんな顔初めて見るな。
こんな表情見ているのはちょっと辛いな。
「もういいよ、いや、良くは無いけど、こうなった以上仕方ない。何とかして戻れる方法を探すだけだよ」
「アイトさま…」
「ほらほら泣かないの。ああ、ピィ、顔真っ黒だよ」
ピィの白い肌は見事に泥だらけになっていた。
僕はポケットから取り出した、ピンク色の布で拭いてあげる。
「ありがとうございます、アイトさま」
ゴシゴシと顔を拭いていると、ピィの姿がパッと消えてしまった。
え?
消えた?
物理的に消えたと言えてしまうほどピィの姿は目の前から消えてしまったのだ。
「ピ、ピィ?」
パタパタと耳元で羽音がしたかと思ったら、何かが耳たぶをかんできた。
「イテ、って、ピィ?」
左肩にちょこんと乗っていたのは、僕が小さい頃から飼っていたピィの姿だった。
「ぴ、ピィ、どうして鳥に戻ってるの?」
ピィは僕が手に持っていたピンク色の布をついばみ、怒ったように見上げてきた。
「え?え?まさか?」
そのピンクの布はミザリーが作った怪我を一瞬で治す魔法のかかった布だ。
え?え?まさかこれが原因?




