6話 無口なアランくん
「ユヌー、朝御飯の時間だぞ、起きろー」
「んぅ……朝……?」
ルカに肩を叩かれて目が覚める。
上体だけ寝袋から起こし、んー!っと大きく伸びをする。
「ルカぁ、おはよぉ~」
「おはようさん。さ、ご飯にしよう。ホセアさんも待ってる」
「おーい、ルー坊ぉ!まだユヌは起きねぇのかぁ!?」
「今起きたよ!すぐ行く!ほら行こう、ユヌ」
寝ぼけまなこをこすりながら差し出された手を取り、私は立ち上がるのだった。
朝ごはんを食べた私とルカは今日何をしようかと話し合う。
今日は行商のおじさん、ホセアさんの都合でこの村にとどまる予定なのだ。
「でもすることないよねー」
「そうだなぁ……いっそ、玉投げでもするか?」
「玉がないよ。借りるって言うなら別だけどさ」
「ん?結構乗り気っぽいな。ならやろうぜ、玉にはちょっと心当たりがあるだろ?」
「あぁ、昨日のマリーちゃんとアランくん?でも複数個持ってるかな……?」
玉はボロ布を丸めたもの。思いっきり当たってもあんまり痛くないように作られている。
でもボロ布だってまだまだ穴の開いた服の補修としてなら使えるものだ。それに畑で育てた植物から作られる布は村の唯一といっていいお金を得る手段で、造った大半の布はホセアさんを始めとした行商人に売ってしまう。
だから私たちの村では、村全体で1個しか用意されてなかった。
ここの村も育てている植物が同じだったので、事情は似ていると思う。
というわけで村の中を歩き回って二人のどちらかを探していると、どこかへ向かうアランくんに会うことができた。
早速事情を説明すると、私たちの手を引っ張り、マリーちゃんの家に案内してくれた。方向からしてマリーちゃんちへ行く途中だったみたい。
マリーちゃんのお母さんらしき人が最初に出てきたが、アランを見て「マリーね、わかったわー」とだけ言ってすぐに引っ込んでしまった。
「あ、ユヌおねえさんにルカおにいさん!おはようございます!アラン、二人はどうしてここに?」
やってきたマリーちゃんがアランくんにそう尋ねれば、アランくんは無言でマリーちゃんちの中へ押し入り、戻ってきたときにはその手にあの玉を持っていた。
「んん?えーっと、どういうことだろ?んー」
マリーちゃんは戻ってきたアランくんを見て、彼が伝えようとしていることを読み取ろうとしている。
アランくんが手に持っている玉は一つだけ。
それなら私たちが借りることは遠慮して―――
「えっと、ちょっとお願いしたいことがあったんだけど、別にいいかなーと……」
ヒシッ ふるふる
――おこうと思ったら、アランくんが私の服をつまんでくる。
そして首を横に振っている。
えっと、どうしよう。
とりあえずルカに助けを求めようと振り返ってみるが、ルカはアランくんの方を見て何やら考え事の最中だ、私に反応してくれない。
「あ、わかった!一緒に遊ぼうってことね!」
コクコク
「えぇっ!?いや、それはなんだか悪いというか……」
「いいんじゃないか、別に?もともと遊ぶつもりだったんだし」
あっ、ルカがいつの間にか再起動してる!そしてなぜ私の敵に回る!
だいたい私たちが一緒だと、このいい感じの二人の邪魔になるでしょ!
恨みがましい目でルカに振り返りなおす。
さらりと私の視線を受け流したルカは二人と私を見つつ、
「二人がそれでもいいならそうさせてくれると嬉しいな?ユヌもそれでいいだろう?」
「はい、もちろんです!」
「ほら、マリーちゃんはこう言ってるぞ」
ぐぬぬ。
3人の視線が私に向く。
マリーちゃんとアランくんは期待しているような感じだし、ルカは文句ねぇよなって感じだ。
「はぁー。はいはい、そうしましょ」
「わぁい!それじゃ外に行きましょう!」
そう言ってマリーちゃんとアランくんは外へ駆けていく。
二人が十分離れたのを確認すると、私はまだ隣にいるルカへ文句を吐き出す。
「ちょっと、あの二人の邪魔なんてしちゃだめじゃない!ルカだってあの二人がお似合いって言うくらいわかるでしょう?」
「まぁそれには同意するがな。邪魔をしに行くわけじゃないだろ。あと、今思ったんだが……」
「何よ」
「アランが無口なのは心の病気じゃないかなと……どういう対処すればいいのかは知らんが。まぁ、本人がしたいと思ってることを叶えさせるべきだと思う」
「病気……?治るの、それ?」
「ま、俺は医者じゃないし。それにあれは経過次第で治るはずさ。ほら、俺らも行くぞ」
ルカは中途半端に話題を切り上げ、先に行く二人を追う。
病気か。
ふと兄さんのことが思い浮かぶ。
胸の辺りを手で握ると、その中には大きく平べったいクリスタルがあり、さらにその中には絵が透けて見える。
うん、病気の知識はあって損はないと思う。
旅の最中にもきっと役立つもんね。
また今度、いろいろ調べてみるとしよう。