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73話 遭遇

「ユヌ、フィリーとオスヴィンを呼んで来るんだ」


 一段と声を潜め、エミィさんが指示を飛ばす。それを了解した旨のアイコンタクトをし、中腰の体勢でなるべく急いでフィリーさんたちの眠るテントへと向かう。


「フィリーさん、オスヴィンさん、起きてください!」


 テント中の手前の方に寝ている二人を揺り動かして起こす。

 しばらくするとフィリーさんが目を覚まし、目元をこすって大きく伸びをした。


「……ぁら、ユヌちゃん、どぅしたのかしら?」

「魔物です、たぶん。囲まれてます」


 と、がばっとオスヴィンさんが飛び起きた。少しの間中空を睨みつける。


「……ファングだな」

「あらあらあら、これは一大事ね」


 フィリーさんはテント横に置いてあった鞭を手に取るとすぐに外へ。オスヴィンさんは鎧を着こみ始めた。

 そういえば何気にオスヴィンさんの鎧を着ていない姿を見たのはこれが初めてだ。といっても筋肉という分厚い鎧を着ているようなので、それほど印象は変わらないが。


 外へ舞い戻るとエミィさんとフィリーさんが辺りを見回して警戒している。

 私がフィリーさんを呼びに行って以降、なんとなく落ち着かない気持ちは強まっていない。相手の方も様子を窺っているのかもしれない。

 それでもなんだかそわそわしちゃう。これから戦闘? 魔物と? 昼のスライムとは違い、明確にこちらに襲い掛かってくる相手と? ど、どうすればいいんだろう。


「ユヌちゃん、ニーナちゃんも起こして呼んでくれるかしら?」

「あ、はい、わかりました」


 フィリーさんに使い走りにされ、その指令に従う。自分じゃ何をすればいいのかわからない。こうやって誰かに指図してもらえるとありがたい。

 もともと私が寝ていたテントのほうへ入ると、ニーナちゃんはすでに起きていた。寝袋の上に片膝たちの体勢をとり、顔は強張っている。魔物の接近に気づいているみたいだ。


「ニーナちゃん、フィリーさんが呼んでる」

「……(コクリ)」


 そうしてニーナちゃんを引き連れ再度外へ出ると、オスヴィンさんとフリッツ君も外へ出るところだった。フリッツ君は状況が理解できていないのか、寝ぼけまなこをこすっている。片手に持たされた短剣はだらーんとぶら下げていて、無理やり持たされた感が漂う。

 全員そろったのをサッと確認したフィリーさんがさらに指示を出す。


「基本的に子供たちは前に出ずに私たちに守られていること。ニーナちゃんは時々魔法で援護してくれると助かるわ。フリッツ君とユヌちゃんは私たちが仕留めそこなった敵に警戒すること……いきなり夜の、しかも群れを組んだファングに遭遇するなんてね、運がいいのか悪いのか……」


 だいたいの魔物は単体でいることが多いのだけど、ファングは群れを組むことが往々にしてある。そういう意味では珍しい魔物だ。チームワークを駆使されると非常につらいものがある。


「ユヌ、間違っても威圧するなよ」

「そんなことしませんよエミィさん」


 威圧しちゃったら真っ先に影響を被るのは自分の近くにいる人なのだから、威圧なんてできはしない。ファングたちに与える影響よりも味方に与える影響のほうが大きいのだから。

 一応魔術を使ってはいるけれど、昨日探った威圧する境目よりずっと小さく発動させてる。これなら問題はないだろう。

 そのまましばらくの間警戒態勢が続く。今頃になってフリッツ君も状況を理解し始めたようで、短剣を慌てて構え始めた。


「……奴ら、ずいぶん慎重ね。いっそ帰ってくれないかしら」


 と、エミィさんが呟いた瞬間。

 ガサッと音がして、周囲から6つの灰色が飛びかかってきた。



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