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71話 初めてのご対面

 滑らかな曲面を持ち、表面には光沢がある。少し縦に潰れたまん丸な形で、大きさは私の顔より二回り大きいくらい。その体は半透明で僅かに蒼く濁っている。体に取り込まれた植物は、淡い青色の中に自立している。きれいな石の中に植物が閉じ込められたかのようだ。

 そう、言わずと知れた魔物の代表格、スライムだった。


「へぇー、こんな感じなんだ。結構きれい?」

「む、スライムか。ユヌ、間違っても触るなよ」

「あはは、それくらい知ってますって」


 スライム種は体内からものを溶かす液体を分泌する。触れたら自分の手が溶かされてしまう。現に今スライムの中に閉じ込められている植物は徐々に色褪せ細くなり、葉はちぎれ始めている。こうやって溶かしたものから栄養と魔力を吸収するのだ。


「おお、溶けてる溶けてる。面白ーい!」

「面白いのか……?」


 エミィさんは疑問の声を上げるけど、こうやってすこしずつ形が変わっていくのを見るのって面白いと思う。空に浮かぶ雲をずーっと見てたりする感覚。

 ゆっくりゆっくり植物は溶かされ、やがて粉々になっていく。


「ほら、そろそろ離れろ。倒すぞ」


 これは普通のスライム(だと思う)ので、取り込んだものを消化している最中はあんまり動かない。だから私たちはじっくりとスライムを観察できていたわけなのだが、植物は小さくなって消えてしまった。じきに動き出すだろう。

 歩みの遅いスライムとは言え、魔物は魔物。こちらに危険が及ばないよう、倒してしまおうというのがエミィさんの言い分だ。


「えー、もうちょっと見てたいです。あ、ほら、これをお食べ」


 でもせっかくの機会なんだし、私はもうちょっと観察したい。

 座って両手に抱えた食材のうち一つを選び取る。すごく変な匂いのする草である。若葉だけとればいいのにエミィさんが間違えて茎ごと採取してしまったもの。これなら茎の長さがあるから、あげるときにスライムに触れることはないだろう。

 徐々にこっちに近づいてきているスライムの表面に草の茎を突き刺してみると、それほど抵抗を感じることなくずぶずぶと入り込んでいく。ある程度差し込んだところで手を離すと、茎は自動的にゆっくりとスライムの中へと取り込まれていった。

 そこでスライムは立ち止まり、また体内に入った植物の消化を始める。なんかこうして見てると可愛いし、癒されるね。それをまた興味深く観察していると、横にいるエミィさんがため息をついた。


「……初めて見た魔物が大人しいスライムでよかった」

「そですかね?」

「こんな調子でファングの観察なんてされたらたまらん」

「えぇっ、流石にそんなことはしませんよ!」


 ゆっくりとしか動かないスライムだからこそこんな余裕があるのであって、オオカミが魔物化したと言われるファング相手じゃこんなことはできない。

 魔物化とは、長く生きた動植物がその体に魔力を過剰に蓄えた結果、魔物になることをいう。魔物化したものたちは、それ以前の身体的特徴が強化されることが多い。ファングで言えば、その瞬発力や、ツメ・キバの鋭さだ。魔物化したことでそれらの要素がより凶悪になっている。じっくり観察なんてしていたら、こちらがやられてしまう。

 ちなみに、スライムは水が魔物化したものと呼ばれることがある。生き物じゃない水がどうやって魔力を貯めるのか、何故命ある魔物になるのかなど、ツッコミどころ満載なので所詮通説だけど。でも、スライムが現れるのは雨が降った後とか、湖や湿地の近くだけなので、水との関連性は確かにあるらしい。


 さて、そんなことを考えているうちに先ほどの草も溶かしきってしまったようだ。またずるずると私へ近寄ってくる。


「さ、観察はもういいな?」


 心なしかエミィさんの語気が強い。あまり我が儘を言うのもよくないか。


「むぅ、まぁしょうがないですよね。スライムくん、ごめんね」

「ごめんねて……では始末するぞ。火の神フラムよ、我に力をお貸しください。ファイア」


 エミィさんが簡単に魔法を詠唱するとスライムは火に包まれ、すぐにその体を崩してしまった。

 なんとあっけない。後に残ったのは今は亡きスライムと全く同じ色の小指の先ほどの小さい石だけだ。エミィさんはその石を拾い、光に透かしている。


「あぁ、さっきまで元気だったスライム君が……」

「ユヌ、そのスライム君って言うのをやめてくれないか。なんだか悪いことをしたみたいな気持ちになってくる。……この大きさの魔石なら大銅貨くらいにはなりそうだな」


 魔物だから退治されて当たり前とはいえ、かわいそうな気持ちが出てくる。

 魔物を発見したら即討伐するのが世の常である。それが魔物を討伐できない他の人の安全にもつながるし、放っておくとさらに強い魔物に進化する可能性もある。


「師匠ー、エミィさーん、そろそろ帰りますよー。どこにいるんでっすかー」


 おや、フリッツ君の声が聞こえる。気付けばいつの間にかあちらの二人とは別行動をしていたのか。山菜採取に夢中になってたよ。

 じゃ、フィリーさんとニーナちゃんのいるところへ戻ったら、この両手に抱えているのを料理するとしましょうか。

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