70話 魔物とは
「それじゃ、そろそろ休憩にしましょうか」
パーティリーダーのフィリーさんが皆にそう声をかける。その声に真っ先に反応したのはフリッツ君だった。
「やったぁああああ、ぐへぇ」
両手を勢いよくあげた後、草に覆われた道端にうつ伏せに倒れ込む。
それ休憩になる度にやってるけど、痛くないのかな。結構勢いよくいっているように見えるんだけど。
「よっし、それじゃ降ろすよー」
「ん、ユヌお姉ちゃん、ありがとう、ございます」
「えっへへー、このくらいお安いご用だよー!」
私は背負っていたニーナちゃんを地面に下ろしてあげてから、自分の腰にぶら下げていた水筒を手に取る。
一夜明けた午後、フィリーさんが言っていた森に突入した。適度に日差しがさえぎられていて、ふと吹く風が涼しくて気持ちいい。
たぶん、この森は人が手入れをしているのだろう。人が手入れしている森と手入れしていない森を比べると、人の手入れのある森のほうが過ごしやすい環境になりやすい。木材を得るために木を倒すと、そこに日光が入り、そこに新しい草木が生える。それがあちこちで行われると、風が適度に入る植生豊かな森が出来上がる。豊かな森になれば自然と木材の質も上がる。
その分、動植物も増えるので、魔物が発生しやすくはなるのだが。
魔物とは、魔石という魔力機関を備えた生物全般である。魔力はあらゆる物質に遍在するが、それほど濃度は高くない。しかし、魔石を持つ魔物だけは、体内に高濃度の魔力を蓄えることができる。魔力を持つ魔物は普通の動物よりも強く、人にとって最大の脅威だ。
それと同時に、最大の資源でもある。皮やお肉、キバやウロコといった様々な部位は動物のそれより高品質だし、中には鉱物資源の塊のような魔物もいる。そして何より魔石。ありとあらゆるエネルギーに転用できる資源だ。そういった素材を求め、冒険者は魔物を狩るのである。
「フリッツ、気を抜くな」
「でもオスヴィン先生、魔物なんて森の奥に行かないといないんじゃないんっすか? じゃない、ですか?」
しかし今の旅はここの魔物を狩りに来たわけではない。私たちは一度も道をそれることなく森の中を歩いていた。道のすぐそばまでは魔物はやってこない。なので一度も魔物を見ることなく進んでいるのであった。
魔物、見たいんだけどな。むぅ。
「剣士たるもの外では気を抜くな」
「ハッ、なるほど! 了解でっす!」
私とは違って、フリッツ君は楽しそうだね。
フリッツ君は孤児院を出た後、皇都の騎士となるために訓練しているのだという。今回の魔物狩りに志願したのもその一環だということなんだって。彼はオスヴィンさんを先生と呼んで慕っている。皇都を発ってからも何かとセットでいることが多い。
そのオスヴィンさんは草の上で休んでいるフリッツ君を少し見つめた後、フィリーさんに向き直った。
「……フィリー、いいか」
「あら、オスヴィン、フリッツ君を連れていきたいのぉ? うーん、まぁ本番前に一度相対させておいてもいいかしらねぇ。この子たちの実力なら大丈夫だとは思うけど、いいんじゃないかしら」
「話が早くて助かる。フリッツ、行くぞ」
「へっ、えっ、どういうことですか?」
「オスヴィンはね、フリッツ君と一緒に森の中の木の実採取に行きたいんですって。一緒に行ってあげなさいな」
「は、はぁ?」
む、森の中の木の実採取、とな。フィリーさんが口にした内容を頭の中で反芻し、私はその本当の目的に気づいた。これは是非とも私もご一緒させてもらわねば。
「はい! 木の実採取、私も行きたいです!」
つまりは森の奥に入っていくってことだ。魔物と出会えるかもしれない。
「好きにするといい」
オスヴィンさんは簡潔にそう返事を返す。
「ってことはいいんですよね? やった、ありがとうございます!」
「待てユヌ。ユヌも行くなら私も同行しよう。何がある変わらないしな」
「あら、それじゃあワタシとニーナちゃんは二人でみんなを待っているわぁ」
とまぁこんな感じでトントンと話は進み、私とエミィさん、そしてオスヴィンさんにフリッツ君の4人体制で魔物観覧、もとい木の実採取に行くことになりました。
「あ、美味しいのみっけ! 流石にこれはエミィさんも食べたことありますよね?」
「……いや、ないな」
「えぇ、これもですか? ちょっとえぐみが強いですけど、煮て灰汁抜きすると食べれますよー」
豊かな森だとは思っていたけど、ここまでいろんなものがあるとは。村で兄さんと一緒に食べていた植物がいっぱい生えていた。視界の中に何かしら一つは食べれるものがある。
「師匠、それ、ほんとに食べれるんすか……?」
「大丈夫だよー。みんな食べたことあるもん」
フリッツ君は私が両手いっぱいに抱えている食材を見て複雑な表情だ。
んー、確かに苦みとかえぐみとか渋みとかが酷いのばっかりだけど、ちゃんと食べてもお腹痛くならないよ?
「こういうの食べれたら、魔術もできるようになるんすかね……」
「フリッツ、そっちは気にするな」
「あっはい、オスヴィン先生」
木の実採取というか、山菜採取になってしまった。まぁでもどれもれっきとした食べ物。山菜採取なんて久しくやってなかったし、なんだか楽しくなってきた。
ん? なんかあっちに何かありそうな気配。よし、採取しに行こう!
「エミィさん、今度はこっちに行きましょう! まだ見ぬ食べ物が私を待ってます!」
「あ、ああ。わかった、わかったから服を引っ張らないでくれ」
そうしてエミィさんを引っ張て行くとまたしても食べれるものを発見。これは根っこが食べれたはず。ただ、どうしようかな、もう私の手は食べ物でいっぱいいっぱいなのだ。それに私が作ろうと思っているやつには少し合わないかも……
そんな感じでその植物を見つめて迷っていたら、横からその植物の上に乗っかる物体が。
植物はその物体の中へとずぶずぶと入っていき、全部取り込んだところで謎の物体はぴたりと止まった。
ん? このなんか半透明な物体って……
採取に夢中になっていて、なんで同行しようと思っていたのかを、私はすっかり忘れていた。




