67話 すっ転んだ
皇都を出発して2日目。
ニーナちゃんが盛大にすっ転んだ。膝を擦りむき、血も滲んでいる。私たちは一旦休憩することとなった。
「すいま、せん……」
「いいのよ~。むしろ、ワタシたちが気を使うべきだったわねぇ」
木陰で傷の手当てをするフィリーさんがそう言うのも仕方ない。なんせ私達は昨日からずっと歩きっ通しだ。体力のない子供にはかなり辛かろう。それを証明するがごとく、ニーナちゃんはすごく汗をかいている。
フリッツ君も辛そうだ。休憩中の今は足を揉んでいる。
え、私はどうなのかって? 私って村では体力お化けって言われてたんだよね。魔術を使わずとも、大人のペースに合わせて1日中歩くことなぞ屁でもない。
「とりあえずこんなものかしら。どう?」
「頑張って歩きま、っ……」
「あぁ、無理はしちゃだめよ。血が止まるまでは私が背負ってあげるから」
ニーナちゃん、大丈夫かな。私と違って、ニーナちゃんはバリバリのインドア派っぽそうだし。今まであんまりケガとかしてこなかったんじゃなかろうか。
そんな心配をしていたのだが、どうやらフィリーさんが背負ってくれる……その装備で背負うの?
今のフィリーさんの格好は、皇都の中で見た冒険者スタイルの上に、保存食や魔物狩り用の道具の入ったリュック、さらに寝袋2人分と簡易テント設営用の骨組みを背負っている。
とてもニーナちゃんを背負うことなんてできまい。
「んー、オスヴィン。ワタシの荷物持ってくれない?」
「……仕方ない、貸せ」
フィリーさんがオスヴィンさんに助けを求めるが、そのオスヴィンさんだってフィリーさんと同じような、むしろそれ以上の荷物を持っている。それに加え、鎧を着こんでいるからとっても歩きづらそうだ。
「フィリーさん! 私が荷物持ちますよ!」
手を挙げて主張。
オスヴィンさんにこれ以上荷物を持たせるのは忍びないというもの。
私自身が持っている荷物といえば、シューユ入りの瓶と小さな水筒だけ。それも、どっちとも腰に巻いたベルトに括り付けてあるから、実質手ぶらだ。
「えぇ? でもこれ重いし――」
「体力には自信あります!」
「それにユヌちゃんには大きすぎるわぁ」
ん?
「ユヌちゃんが背負えても、リュックの底が地面に擦れちゃいそうだもの」
「あー。はい、そうデスネ」
悲しいかな、私の親切心は現実を前にぽっきり折れてしまった。
そうですとも、どうせ私はチビですとも! 同年代の子と比べると頭一つ分くらい(見栄っ張り)違いますからね!
「ま、まぁユヌ、いつか伸びるさ、気にするな」
うぅ、エミィさんのフォローが痛い。
エミィさんは身長高いもんね、こんな悩みを持つことなんてなかっただろう。恨めしい。
「あ、それじゃあユヌちゃんがニーナちゃんを背負ってあげられない?」
私のどんより雰囲気を察したのか、フィリーさんがそう提案してくる。私と同じくらいの身長のニーナちゃんなら、問題なく背負えるだろう。
無事お手伝いできそう。
「私はたぶん大丈夫です!」
「というわけで、ニーナちゃん、それでいいかしらぁ?」
「……(コクン)」
しばらく休んでからまた出発。
そんなこんなでニーナちゃんを背負っていくこととなった。
「重く、ない、ですか」
「ぜんっぜん。ニーナちゃん軽いねぇー」
ちょっと嘘です。すこーし魔術使ってます。流石に素の筋力でずっと背負って歩いてると疲れます。
まぁ魔術訓練だと思えばなんてことはない。
ポルトの町以降、ずっと続けてきた魔術訓練は確実に実を結び始めている。構築の速さ然り、持続時間然り、そしてたぶん効果の上限も。どんどん速く、長く、そして強くできるようになってきた。
エトムントさんの従者のユリアさん曰く、魔術には身長を伸ばす効果があるかも、とのことなので、それはもう欠かさず毎日やっていますとも。
それからしばらく無言で道を歩いていたのだが、ふとニーナちゃんが恐る恐る、小さい声で尋ねてくる。
「……ユヌさんは、錬金術士、なんですか?」
「ちがうよー。瓶のことなら、知り合いの人から貰ったんだ。その人のお爺ちゃんの使ってたものなんだって」
「……なる、ほど」
「ねぇねぇ、昨日瓶を見て同調瓶って言ってたけどさ、この瓶ってどういうものなのか知ってるの?」
エトムントさんの倉庫での扱われ方を見るに、保存瓶として役割を果たせるだろうとは思うのだが。昨日ニーナちゃんが呟いた言葉は『同調瓶』。明らかに保存以外の用途のありそうな名前である。
錬金術に関してはさっぱりなので、これが危険物かどうなのかも判断できない。
「素材の魔力を、自身の魔力に揃えて、素材間の、魔力的抵抗を低減させるための、道具、だったと思い、ます」
「へ、へー。ニーナちゃん物知りだねー」
言ってる内容理解できませんでした。魔力とかの話ならルカに振ってやってください。
あ、ルカは今皇都にいるんだった。
「えっと、保存瓶として使ってもいいんだよね?」
私が知りたいのはその一点だけだ。
「大丈夫、です」
「それなら一安心。ニーナちゃん、錬金術をやっていたりするの?」
「……いえ。あんなの、やりません」
何気なく出た質問。その質問をした瞬間、背負ったニーナちゃんが強張ったのが分かった。答える声も冷たさを感じる。錬金術に何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
この話題は流したほうがよさそうだ。
「ええっと、ところでさ。ニーナちゃんって魔法使い見習い、だったっけ? どんな魔法使えるの?」
「水と火が得意、です。一応、基本四元素は、使えます」
「四元素全部? それって珍しいんじゃ」
「はい、ちょっと自慢、です」
自分の得意分野の話だからだろうか、声は打って変わって明るい。
うん、こうやって気軽におしゃべりするほうがいいよね。辛気臭い雰囲気なんて嫌だもん。




