17話 3人組
ルカに手を引かれ、ギルドを出ようとした時。
「おうおう、ちょっと待てや」
「嬢ちゃんや、冒険者を何だと思ってんだい?」
「アンタのような冒険者がいたとなっちゃあ、冒険者全体の評判が下がるんだよなぁ?」
3人の男たちが私たちの進路上に立った。
全員浅黒い肌で、筋肉質で、体にはところどころ傷が刻まれている。適度にくたびれた革鎧をつけていることも相まって、荒くれ事の得意そうな冒険者といった印象を受ける。あと臭い。まだ3メートルほどの距離はあるのだが、主に土と汗の臭いがかき混ぜられて私の鼻へと入ってくる。不潔だ。
なんだろ、山賊っぽいって言うのかな?
「おうおう、何か言わんのかぁ?」
真ん中の緋色の髪のリーダー格らしき大男が、何も言わない私たちを威圧する。
んー、威圧されてもなぁ……
私だからいいけど、同年代の普通の子供ならこれ泣いてると思う。
ちらりとルカを見れば、何か感心するような目で3人組を観察している。
あぁ、これは私が対処しないといけないのかな、こうなったルカに何かを期待するだけ無駄だ。
「えっと、私たちここから出たいんですけど」
「んぁあ?おうおう、カノンが言ったこと聞いてなかったのかぁ?アンタのような冒険者がいたとなったら、オレらの評判だって下がっちまうじゃねぇか。だからなぁ、先輩であるオレら『ブラスト』が世の中の厳しさを教えてやるんだよぉ」
「はぁ」
すごくどうでもいい。
ていうか、こういう態度の人がいる方がよっぽど評判悪くなるよね?
周りに目をやったが、誰もこちらに手を出す意思はないようだ。
受付にいるギルド職員も動く気配はない。
ええー、子供が大男に絡まれてるんだよ?助けてくれないの?
うーむ、どうにかこの状況を脱することができないだろうか。
「おうおう、よそ見なんてするんじゃあねぇぜ。ギルドには上下関係があってなぁ、殴られたくなけりゃあ強いやつのことはおとなしく聞いておかないと駄目だぜぇ。チョーシ乗ってるやつに捕まらないように立ちまわりな」
なんか親切にギルドの暗黙の了解と思われることを教えてくれた。
んん?もしかして悪い人たちじゃないのかな?
そういえば威圧こそすれ、この男たちは私たちに手を上げるような気はないようだ。周りも手を出していないのは安全だからであり、この初心者用のレクリエーションを邪魔しないようにしているのかもしれない。
そういうことなら、このまま話を聞いておくのもいいかもしれないが……
もう日は沈み、辺りはだんだん暗くなり始める。
あとお腹減った。
ホセアさんちに戻ること優先かな。
「強い人のことは聞かないと駄目……なら私と一つ勝負してみませんか?」
「は?」
「単純に腕相撲でなんてどうでしょうか!」
「「「はぁ???」」」
目の前の大男と2人の取り巻きは心底訳が分からないという顔をしている。
まぁまだ子供、それも女の子が大の大人の男と腕相撲をしたいと言っているのだ。
不審に思われてしまうかもしれないが、私の思いつく速やかなこの状況の脱出法はこの人たちを押し退けていく事で、それには腕相撲が一番手っ取り早くそして穏便にすむのだが。
「うーん、バーン、いいんじゃないか。子供は往々にしてわがままなもんだろ?俺がその腕相撲をやろう」
「ハード……手加減しろよ?」
バーンと呼ばれたリーダー格は声を潜めて取り巻きその1に指示しているけど、ばっちり聞こえてるよー。
やっぱり悪人じゃない。
バーンさんは近いテーブルへと向かい、座っている人たちを追いたてる。
「おら、どけどけ!その机よこせ!」
「嬢ちゃんや、あそこでいいかな。あと、もう感づいてそうだからぶっちゃけるが、普通はこんなことしない方が身のためだぞ。どうやら早く帰りたいみたいだから、今回は受けるけど」
ハードと呼ばれた男は先ほどまでの剣呑な雰囲気を霧散させ、人当たりの良い態度で話しかけてくる。
細かい気配りの聞く人だ。
でも口調からするとわざと負けるつもりなのだろうか。
私はこの機会に自分の力を冒険者と比較してみたい。
「えーっと、ハードさん、でいいですかね?お気遣いありがとうございます。あ、でも腕相撲は本気でお願いしますね。ちょっと試してみたい気持ちも少なからずあるので」
「ほほぉ、自信アリってことか。わかったよ。おい、カノン、始めの合図は任せる」
ハードさんはニヤリと笑い、私とともに席に着く。
お互いの手が机の上に伸ばされると、その大きさ、筋肉の差は歴然としている。
椅子に座った私は右手を顔の前に持っていき、握ったり開いたりして調子を確認する。
その後、肘をつけ、手を握り、準備万端だ。
「んじゃいいなぁ?ではよーい……始めぇ!」
んおぉ、ハードさん本当に本気で来ているっぽい。
目の前のハードさんの顔がだんだん赤くなっていく。
ふむ、つまり私の力は現役の冒険者とも渡り合えるというわけだ。まだ組み合った手は微動だにしていない。
「先に謝っておきますね?えと、たぶん痛いと思います、ごめんなさい。……えい」
軽く力を込めてハードさんの手の甲を机に押し当て……るつもりが、やっぱり勢い余って叩きつけてしまう。
大きな音がたち、そして他の音のしなくなったギルドの中で強い打撃音が反響する。
チラチラ様子を見ていた冒険者たちはフリーズしている。
苦悶に悶える表情のハードさん以外は皆同様に口を開いている。
「私の勝ちですね!それじゃあ私たちはこれで出て行ってもいいですよね、お邪魔しました!」
あとはみんなの正気が戻る前にギルドを出ていけばいいだろう。
こうして私たちは、ギルドから逃げるように立ち去ったのであった。
「なぁ、問答無用で襲い掛かってくるような悪人じゃなくて、話を聞いてくれる相手だったんだし、早く帰りたい、と言えばすぐに返してくれたと思うんだが」
「……それは思いつかなかった」
「ユヌ、お前なぁ……」




