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14話 可愛いホセア

 吹き飛んだホセアさんは向かいの商品棚に突っ込んでおり、その胸元には一人の女性が抱き着いていた。

 ……動きが速すぎる。さっきはホセアさんがひとりでに吹き飛んだようにしか見えなかった。


「おかえりなさーい、ホセアぁ!」


 女性はホセアさんと同じ焦げ茶色の髪を持ち、一心不乱にホセアさんにその頭をこすりつけている。頭を振るたびに肩にかかるくらいの長さの髪がブワッと広がる。

 後姿からだいたい20歳を過ぎたあたりに見えるし、ホセアさんの妹さんあたりかと思ったのだが……


「だあぁぁ!お袋!離れてくれ!」


 何と、ホセアさんのお母さんらしい。




「ごめんなさいねぇ、可愛いホセアが久々に家に来るって手紙をよこしたんですもの。ついつい待ちかまえちゃって……うふふ」


 今、私たちはお店の扉から続いていた階段の先の客間に座らされていた。先ほどの薄暗い店とは違い、明りの魔導具で部屋は光に満ちている。

 ホセアさんとホセア母が並んで座っているのを見れば見るほど、親子というのが信じられない。

 ホセアさんは元冒険者だからか、肉付きはいい方だ。そんな人の隣にいるホセア母は余計小さく見える。

 さらに面と向かってみるホセア母は童顔という表現がぴったりで、本当はちょっと背の高い10代と言われても信じられる。それどころか、下手したらホセアさんが若いお父さんに見える。

 しかし、ホセアさん曰く40代半ばだというので、もうそろそろおばさんに片足を突っ込み始める年代である。

 私の隣で座っているルカは「ごうほうろり……いや、微妙か……」って呟いているけどどういう意味だろう。


「ホセアったらこの町に来ても家まで顔を見せないのよ?それだから寂しいのなんの。お母さんはこんなにもホセアのことを愛しているのにねぇ」

「お袋、そろそろ本題を話したい」


 ホセアさんはこめかみを手で押さえ、げんなりしつつ話を進める。


「あら、あらあら。そうだったわ、えっと、ルカ君にユヌちゃんでよかったかしら?」

「はい、ルカ・ズィルバーンです。いつもホセアさんにはお世話になってます」

「えっと、ユヌ・ヴェルトゥです。お世話になってます」

「ちゃんと挨拶ができてて偉いわねぇ。私はホセアの母のアンナ・デボラ・ブルーノ、よろしくねお二人さん」


 ホセア母改め、アンナさんはその隣の人とは真逆にずっとにこにこ笑顔だ。


「二人がウチに泊まるってことでいいのよね?宿に比べたら劣るかもしれないけど、自分の家だと思って存分にくつろいで頂戴ね」

「はい!ありがとうございます」

「よし、挨拶も終わったことだし、俺はこれで――」

「あらあら。ホセア、もうちょっとゆっくりしていきなさいな。私はまだホセアチャージが完了してないわぁ」


 そそくさとこの家から出ていこうとして立ち上がったホセアさんの腰回りにアンナさんは抱き着いて止める。


「知るか!大体家にはエイブも親父もいるだろう!」

「それとこれは話が違うの。それに二人は夕方にならないと帰ってこないもの!さーみーしーいー!」

「こんなところに夕方までいられるか!放せぇ!」


 アンナさんが私と同年代に見えてきた。

 ホセアさんは大げさにもがくが、アンナさんの拘束はほどけない。

 拘束を無理やり脱出しないってことは、文句を言うホセアさんだって本気で嫌がっているわけじゃないんだろう。スキンシップの一環というわけだ。

 二人の話に出てきた名前は家族かな?この様子を見る限り、アンナさんは家族みんなにこの調子なのかもしれない。ブルーノ家はとても賑やかそうだ。

 ……ちょっと羨ましいな。


 しかしちょっと困った。

 ここから出ていくタイミングがつかめない。二人は完全に自分たちの世界を作っていて、私じゃちょっと切り込めない。

 折角の初めての町をいろいろ探検してみたいんだけどな……。

 村の中だけで育ってきた私が、まだ見たことがない世界がここには広がっているはずなのだ。

 なんて考えているのが顔に出てたのだろうか。

 ルカが助け舟を出してくれた。


「あのー、俺とユヌはこの町を見て回りたいんですけど……見に行ってもいいでしょうか?」

「あらあら、そうなの?えぇ、是非我が故郷、ポルトの町をお楽しみくださいな」

「お、お袋!俺も二人を案内しに……!」

「ダメです♪おとなしくお母さんに抱かれてろー!」

「くそぉ、ルー坊っ!助けてくれっ!」

「あはは。それじゃあ、ごゆっくりー」


 悲壮な顔つきのホセアさんを置いて、私たちは町へ繰り出す。

 ……あれ?もしかして本気で逃げだせないの?


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