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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十三章 高校最後の夏
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第95話 花火大会

 美幸は七時十分前に、誠や朱里、友哉と沙月は、七時ちょうどに来た。

 その頃にはもうほぼ準備は終わっている。


 その四人も、白雪の家に最初に入った時の反応は、雪奈たちと全く同じだった。

 これに関してはおそらく誰であろうが――最初から知っていた美幸だけは、幾分落ち着いた反応だったが、それでも「すごいねぇ」と呆気に取られているのはあまり変わらなかった。


 ルーフバルコニーには五つテーブルを広げ、料理は出せる物は並べてある。

 テーブル一つ一つはそれほど大きくないとはいえ、直径一メートルちょっとあるので、問題なく料理を置くことができた。

 また、バルコニー併設のキッチンにはスープを入れた鍋がある。

 これなら、温かい料理の提供も問題はない。


 冷蔵庫も一年振りに電源を入れて、中には飲み物が色々入れてある。

 ちなみに今回は、妊娠中の朱里に配慮して、ノンアルコールがかなり多めだ。


「そういえば、ノンアルコールなら二十歳未満でもいいかと思ってたのですが、一応ダメなんですね」

「まあな。アルコールがほとんどないとはいえ、法律上は一パーセント未満ならノンアルコールとなるからな。なので法律上は問題はないらしいが、推奨はされないってのが一般的だ」

「そういえば、美幸さんはお酒は? もう……二十歳になってるのでしょうか?」

「あ。忘れてた。あいつ、もう二十歳になってる」

「え。そうなんですか?」


 和樹がしまったなぁ、という顔をしている。


「いつなんですか、誕生日」

「六月十日だ。すっかり忘れてた」

「それは……美幸さん怒るでしょう」


 美幸は花見の時に話したっきりだが、兄である和樹のことが好きなのは間違いない。その和樹から、誕生日のお祝いが何もなかったとすれば、結構ショックだったと思う。

 そういえば、先ほど家に来た時、和樹の方を見て少し険しい顔をしていたような気がする。


「私もフォローしますから、ちゃんと謝ってくださいね?」

「ああ……そう、だな」


 珍しく和樹がしおれている。

 というか、多分初めて見る顔だ。

 美幸には悪いが、こういう側面を見れたことに、少し感謝したくなってしまった。


 それに思い出したが、確かその時期、和樹は出張で一週間近く家を空けていた。

 六月上旬は白雪も生徒会の引継ぎで忙しくて、ほとんど和樹の家に行けていなかったのである意味では好都合だったため、覚えている。

 それで忘れてしまったのだろう。

 とにかく後でフォローはしておこうと思った。


「さて、そろそろですね。皆さん先に行ってもらってますし、私たちも」

「了解。それが最後か」


 白雪が頷くと、和樹が大きめの耐熱皿が乗ったトレイを受け取る。


「グラタンか」

「はい。夏ですけど、こういうメニューはいつでも美味しいですし。普通にマカロニグラタンです」


 冬の料理というイメージがあるグラタンだが、白雪は結構好きなので季節関係なしに作る。

 せっかく来てもらったから、好きな料理を食べてもらおうという狙いだ。


 二人でルーフバルコニーに向かうと、すでに他の面々は椅子に座っていた。

 とりあえず和樹が、持ってきたトレイをテーブルの上に置く。

 それから各自、コップに飲料を注いでまわった。

 それが終わると、朱里がニコニコしながら白雪を見る。


「じゃ、ここは一応主催者から、かな」

「え」


 白雪が周囲を見ると――いつの間にか、全員に注目されていた。

 とはいえ確かに、ここは白雪の家で、今回は自分が声をかけたのだ。

 少し緊張するが――生徒会長として一年やってきた経験からか、そこまでではない。

 多分、去年の自分ではこの人数相手でも緊張して何も言えなかった気がする。

 そう考えると、自分もこの一年で成長したんだなと思えた。


「えっと、今日は来ていただいてありがとうございます。雪奈さんや佳織さん、唐木さんは受験の合間ということになりますし……私もですが、これからの受験勉強を乗り切るためにも、今日を楽しめれば、と思います」


 一度言葉を切ると、和樹を少しだけ見る。

 もう陽は完全に落ちていて、空はその色をほとんど夜の色に変えているため、和樹の表情もはっきりとは見えないが、微笑んでくれているように思えた。


「それから、誠さん、朱里さん、友哉さん、沙月さん、それに美幸さんも来ていただいてありがとうございます。せっかくの花火大会、食事も用意しましたので、楽しんでいただければ嬉しいです」


 そういって、ぺこりと頭を下げると、パチパチ、と手を叩く音が響く。


「さて、とりあえず……乾杯の音頭は……今日は主催者二人に頼みたいな」


 誠の言葉に、むしろ戸惑ったのは和樹の方だった。


「いや、ここは……」

「お前だって早くから手伝ってたんだろ。玖条さんが一人でやりたいなら構わないが」


 誠からのアプローチに、白雪は思わず心の中で喝采を贈りたくなった。

 戸惑い気味の和樹の手を引いて、隣に来てもらう。


「和樹さんもたくさん手伝って下さったんですから、一緒にお願いします」

「……わかったよ」


 和樹は覚悟を決めたのか、グラス――ビールが入っている――を掲げて。


「じゃあ……なんだろうな。白雪たち受験生の、受験の成功を願って」

「あと、朱里さんが元気な赤ちゃんを産むのを願って」

「わ、ありがとー、白雪ちゃん」


 朱里が嬉しそうに言うのに、白雪と、和樹も頷いた。


「乾杯!」

「乾杯!」


 二人の声が重なった後に、全員の声が続いた。


 直後。

 港の方に光の華が開く。

 続けてドーン、という大きな音が響いた。


「おー、すげぇ。ホントに最高の場所だな、ここ」

「ホントにねー。前に和樹君の家で見た時も思ったけど、贅沢過ぎない、ここ」


 誠と朱里が嬉しそうにしている。

 とりあえず白雪は、まずは美幸のところに行った。もちろん、和樹を引っ張ってである。


「あ、白雪ちゃん、料理すっごく美味しい。ホントに凄いね。あと家もすごすぎだけど」

「いえ。楽しんでいただければ何よりです。あと、その……」


 和樹がややバツが悪そうに引きずられてくる。

 とたん、美幸の表情がやや不機嫌そうになった。


「美幸すまん、誕生日完全に忘れてた」

「ふーん。いいですけどね~。お父さんとお母さんからはちゃんとメッセージもらったし~。プレゼントももらったし~。お兄ちゃんに忘れられてても別に~」

「あ、あの、一応……和樹さんその頃、一週間ほど出張でいらっしゃらなかったんです。本当にお忙しくしてて」

「いや、それは……言い訳にはならん。すまなかった」

「ふーん。……ちょっとお兄ちゃん」


 美幸は和樹を引っ張って、なにやらひそひそと話している。

 何だろうと首を傾げるが、全く聞こえない――花火の音の方がはるかに大きい――ので、内容が全く分からない。


「うん、まあそれならよしとします。今回ちゃんと私に声かけてくれた白雪ちゃんに免じて」


 何を話したのかは分からないが、美幸の機嫌は治ったらしい。

 和樹が少し複雑そうな表情をしているのが気にはなるが。


 美幸はそのまま沙月の方に移動して話している。

 あの二人は年齢が同じなので、話も合うのだろう。


 その間に、白雪は朱里のところにやってきた。


「おー、白雪ちゃん、ごはん美味しいよ、ホントに。ありがと」

「お粗末様です。朱里さん。お腹……分かるようになってきましたね」

「うん。もう悪阻つわりもほとんど治まったし、お医者さんによると順調だって。まあ、お酒飲めないのがちょっと悲しいけどねぇ。まあ、誠ちゃんも付き合って禁酒してくれてるし、最近ノンアルでも美味しいしね」


 今飲んでいるのはレモンサワー風のものらしい。


「それにしても……びっくりだね、この家。和樹君の家の上がこうなってるとか、知らなかった」

「私も正直、あまりに無駄に広くて困ってるくらいなんですけどね」

「私だったらこっそり引っ越してたよ」

「さすがにそれは。でも、和樹さんの家くらいの方が落ち着くのは事実ですね」

「だから入り浸ってる?」


 危うく「はい」と返事しそうになった。

 実際入り浸っているに等しいが。


「い、いえ。時々はお邪魔してますけど」


 この場合の時々は『頻繁に』という方が正しい気がするが、気のせいにする。

 とりあえず話題を強引に変更することにした。


「そういえば、性別はまだ分からないのですか?」

「まだだねぇ。早ければ来月には分かる見込みらしいけど」

「ちなみにどちらがいいとか、あるんでしょうか?」

「私はどっちでも、かな。誠ちゃんは最初は女の子がいいって。父親ってあれだよねぇ。なんか娘に憧れでもあるのか」


 そのあたりは白雪に言われても分からない。

 和樹は果たしてどうなのだろうと思うが――その問い自体に意味がないし、うっかりすると凹みそうだと思えたので、いったんその考えを振り払う。


「昔から、一姫二太郎ともいいますしね。そちらもあるのではないでしょうか」

「かもねー。あ、これホントに美味しい」


 朱里が串にささったハンバーグを頬張って顔を緩ませていた。

 一番の自信作なので、思わず白雪も嬉しくなる。


「遠慮なく食べてくださいね。残されても、困りますし」

「うん、任せて。最近お腹がすごくすくから。むしろ食べ過ぎに気を付けないとだけど」


 もっとも最悪、余ったら包んで持って帰ってもらうことも考慮しているので、問題はない。

 そしてその間も、花火は次々に空に美しい光を花を咲かせている。

 宴は、まだ終わりそうになかった。


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