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白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十三章 高校最後の夏
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第94話 花火鑑賞会の準備

 花火大会の開始は午後七時過ぎ。

 準備などもあるし、食事を運んだりといった手伝いはしてもらおうというのと、さすがに家に初めて招くということもあって、白雪は雪奈、佳織、俊夫の三人には六時半頃に来てもらうように連絡した。


 社会人組――沙月含む――からは食費を徴収する一方、高校生組はそれがないので、代わりに準備を手伝ってもらうことで、気兼ねなく楽しんでもらおうという意図もある。


 ちなみに和樹は昼過ぎから白雪の家にいる。

 お昼前に一緒に買い物に行ってもらって、そのまま家に来てもらったのだ。

 十人分の食材となると、さすがに多い。

 保存がきくものは事前に買っておいたが、生鮮食品はそうもいかないし、とてもではないが白雪一人で持てる量ではないので、手伝ってもらったのである。


 何気に、二人で買い物に行くことは滅多にない。

 これもデートだろうかと思うと少しだけ心が浮き立つのを、白雪は否定できなかった。

 といっても、真夏の暑い盛りに二人で重い荷物を持って帰るわけで、結局返ってくる頃には二人ともかなりへばっていたが。


 とりあえず帰ってすぐに二人とも(もちろんそれぞれの家で)シャワーを浴びてすっきりしてから、和樹はすぐ白雪の家に来て準備を手伝ってくれている。

 十人分の料理はさすがの白雪でも一人ではちょっとした大仕事だ。

 幸い、この家の台所は無駄に広いので、二人で並んでも余裕で作業できるというはありがたい。


 ちなみに飲料類は事前に購入済みだ。


 とりあえず去年同様、手軽に食べられるものを中心に作っていく。

 去年は二人だけだったから運ぶのも容易だったが、今年は十人。

 さすがに準備にかかる時間は段違いである。


「しかし本当に手際がいいな」

「そう……ですか?」


 サンドイッチの具を複数作り終わって、とりあえず一休みをしているところで、和樹が感心した様に言ってきた。


「特に難しい料理をしてるわけではないんだろうけどな。複数の料理を手際よく作るスピードが、到底マネできないな、と思ってな。美味しいのももちろんなんだが、それ以上にそういうところがすごいと思う」

「そう……かもですね。幼い頃から両親が作ってるのをよく見てたのですが、仕事が料理人ですから、当然効率よく作らないとダメなんです。もちろん、色々な料理を。だから必然的に家でもそういう風に手際よくやってるのをよく見てて、自然私もそうやるようになってると思います」


 あまり意識したことがないが、そういえば学校の調理実習でも手際がいいと――基本あまり作業しないようにしていたが――言われたことは一度ならずある。

 調理しつつ、次の作業のための準備を並行して行うことを、常に心掛けているのは事実だ。


「多分そのあたりが、料理できる人とそうではない人の一番の違いという気がする。時間かければ、よほど味音痴じゃなければ料理なんてできるだろうけど、効率よくやるのはまた別の技能スキルという気がするしな」

「そうですね……毎日のことですし。でも、和樹さんだってそれはそうでは?」

「そのつもり……だが、一人分と複数人数は違うだろ。それに……考えてみたら最近、俺、朝食以外あまり作ってない気がしてな……」


 そういえばそうだ。

 最近はほぼ毎日、和樹の家で昼食と夕食を一緒にしているから、和樹は朝食しか自分では用意していない。たまに駅前で美味しい惣菜などを買ってくることもあるが、料理はほとんどしてないだろう。

 そして朝食も、前日の食事のあまりを冷蔵庫に入れてあったりするので、本当に作るのは稀だろう。


「ちょっと料理の仕方を忘れそうだから、こういう機会に思い出しておかないとな」


 そうなったらずっと作って……と言おうと思って、かろうじて踏みとどまった。

 そんなことはできないのは分かっている。

 そうしたいと思う気持ちはあるが、さすがにそれを迂闊に言うと、自分の感情が整理できなくなりそうだ。


「じゃあ、そちらのジャガイモの皮剥きお願いします。ポタージュにしますので」

「ああ、任された」


 二人で並んで台所で料理をしていると、新婚夫婦の様にも見えるだろうか、と思ってしまう。

 よく漫画などではそういう表現があるが、なまじ異様に広い台所だからか、新婚という雰囲気というより、学校の調理実習の方がイメージが近い。

 しばらく考えて、そういうのは不用意な接触があるからだろうか、などと思ってしまった。


 そうしている間に、時間は刻々と過ぎて――。

 ピンポーン、という正面エントランスからの呼び出し音が響いてきたのは、午後六時半ちょうど。

 料理もほとんどは終わっている。


「お、来たか」

「はい。ちょっと迎えに行ってます。和樹さんすみません、お鍋見ててください」

「分かった」


 白雪はエプロンで手をふくと、スマホでエントランスとの回線を開いた。


「いらっしゃい、雪奈さん、佳織さん、唐木さん」

『姫様こんにちは……こんばんは……?』

「まだ明るいですしね……どちらでもいいですが。今開きます。四階まで来てください」


 白雪はそういうと、エントランスの扉を開くボタンをタップした。

 それから、玄関の扉を開けて待つ。

 少し離れたところにあるエレベーターが、一階まで移動してから、ほどなくしてまた上がってきた。

 扉が開いて出て来たのは、雪奈、佳織、俊夫の三人だ。


「姫様お久しぶり~。いい天気でよかったね。しかしホントに月下さんちのすぐ上なんだね」

「ええ、まあ……では、どうぞ」

「あれ。下と構造少し違うんだ。マンションで門扉があるのって、初めて見た」

「あ、はい。ちょっと構造が違うというか……」


 そういうと、白雪は扉を大きく開いて三人を入れ――。


「ちょ、なに、これ」


 三人が同時に唖然としてた。


「その、このマンションの上層階って、こういう構造なんです」

「……いや、姫様が玖条家のご令嬢だというのは十分理解してたつもりなんだけど、これはちょっと予想外過ぎる」


 玄関だけで、並の家の四倍近い広さがある。

 そしてそこから延びる廊下も、普通の家の倍の広さだ。


「……すごい。このマンションってこういうとこだったんですね」

「和樹さんのいるフロアは違うんですけど……とにかくあがってください。色々手伝ってほしいですし」


 三人は圧倒されている様子だが、とにかく家にあがってもらう。

 そして三人を連れて、台所まで来た。


「お久しぶり、卯月さん、藤原さん、唐木君」

「月下さん、お久しぶりです」

「ここ……台所なんですよね。なんかここだけで、うちのリビングより広い気がします」


 佳織が呆気に取られていた。


「私、こんな大きなキンッチンシンク、初めて見た気がする」

「……IHコンロが二つ並んでいるとか、お店ですね……」


 雪奈と俊夫も唖然としている。

 白雪もその気持ちはよくわかるが。


 初めてこの家に来た時、こんな広い家で一人でどうしろと、と思ったものだ。

 正直今でも思っているが。


 ただ、先ほどまで、その二つのIHコンロがフル稼働していた。

 多分こんなことは過去初めてだろう。


「えっと、私の家の感想は後でまた。あと三十分くらいですから、準備しないとです。皆さん、こっち来てください」


 白雪はそういうと、リビングを抜けて五階への階段を上がっていく。

 後ろで「ほえー」とか「すごー」とか聞こえるが。


「今日はこちらで花火見物です。そちらの倉庫の中にテーブルとかが入ってますから、適当に出して並べてください。終わったら戻ってきてくれれば。あ、お手洗いはここです」

「なんていうか、とりあえず驚くのは後にする。もうお屋敷だと思った方が良さそう」


 雪奈の言葉に、佳織と俊夫も頷く。

 その時、ふと違和感を覚えたが――とりあえず白雪は、準備を優先することにした。


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