表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪姫の家族  作者: 和泉将樹
十三章 高校最後の夏
102/144

第93話 白雪の決意

 七月の下旬、墓参りの数日後。

 夏休みの白雪はもはや当たり前のように毎日和樹の家に来ていて、和樹が仕事をしている後ろで勉強をしている。

 和樹としても、もはや当たり前になってしまった――よく考えると異様なのだが――ため、特に今更やめさせるつもりはなかったのだが、ふと見ると、白雪は今日はずっと考え事をしているようだった。


 いつもであればテキストを広げてずっと勉強していて、時々飲み物を取りに行く――和樹にも一緒に出してくれる――が、今日はスマホをいじったり、考え事をしたりだ。


 もっとも、受験生だからと言ってずっと集中して勉強しなければならないということはないし、たまにはそういう時があってもいいとは思うが、白雪がそういう状態になることは珍しい。


「白雪、なんか今日は調子が悪いのか?」

「え!? あ、いえ。あ、すみません。ちょっと……考え事をしてた……のですが」


 そういうと、白雪はなにやら気合を入れるように、むん、と握りこぶしを作っている。


「白雪?」

「決めました。今度の花火大会、雪奈さんや佳織さんも招待します」

「へ? ……いいのか?」

「別に後ろ暗いことがあるわけではありませんし。むしろ、ずっと隠してることの方が後ろ暗い気持ちになります。同じマンションだとは知られてしまってるわけですから、隠す理由もないですし」


 確かにあの家自体はおそらく初めて来たら驚くだろうが、玖条家という存在を考えたら、異様というほどではないだろう。

 国内有数の、というより随一の名家といっていい家の令嬢が住んでいるのだから、むしろ普通のワンルームの方が異様だ。


「今度の花火大会の日程も、土曜日なんですよ」


 そういうと、白雪はスマホを見せる。

 表示されているのは当該の花火大会の開催要項だ。

 確かに、再来週の土曜日になっている。


「まあちょっと唐突な日程設定ですが……和樹さん、誠さんや朱里さんにも声をかけていただけますか?」

「分かった。まあ、予定が合えば、でいいよな」

「もちろんです」


 学生である雪奈や佳織の予定は何とかなるだろう。

 誠や朱里、それに友哉はさすがに分からないが、土曜日なら都合がつく可能性は高い。


「あとそれから、折角ですから美幸さんもお声がけしてください」

「あいつもか……まあ、白雪がいいなら、構わないが」

「お花見の席でご一緒したんですから、是非」

「分かった。連絡してはみるが、帰省してる可能性も高いから、その場合諦めてくれよ」


 完全に予定は把握していないが、夏休み中は基本的に実家にいると言っていた気がするので、いない可能性の方が高そうだが。

 さすがに長野から来る、とは言わないだろう。

 ただ、誠や朱里、友哉は都合がつきそうだと思えて、今年はまた賑やかになりそうだと思えていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「えっと……じゃあ合計で……十人、ですか?」

「そうなる。まあ……スペースが足りないということはないだろうが」

「はい、それは大丈夫です」


 白雪の家のルーフバルコニーなら、十人でもどうとでもなる広さがある。

 強いて言えば、テーブルなどが足りるかという懸念があったが、何でも倉庫の中に折り畳み式のテーブルがまだ複数あるらしい。

 元々のマンションの備品だという。


 花火大会に来ることになった人数は、結局十人にもなった。

 主催者である白雪、そして和樹。

 誠と朱里と友哉。

 雪奈と佳織、それに俊夫。

 ここまでは、去年のクリスマスや花見で集まったメンバーなので想定内だ。


 ただここに、さらに二人増えた。

 一人は美幸だ。

 なんでも、大学のサークルの合宿の都合で、その時期にピンポイントでこちらに来ているらしい。

 翌日には長野に再度帰るらしいが。


 そしてもう一人が、友哉の婚約者でもある沙月である。

 確かにこちらは、完全に失念していた。


 一つ懸念があるとすれば、妊娠中の朱里だったが、どうやらほぼ安定期に入ったらしく、最近は体調もいいらしい。

 結果、合計十人という大集団になってしまった。

 この人数になると、さすがに和樹の家では手狭になるが、白雪の家なら余裕で入る。


「さすがに……社会人組からは少し金をとろう。材料費としてだが」

「私は別に……」

「こういうとこはちゃんとしておいた方がいい。その方があいつらも遠慮しないで済むからな」

「……なるほど。わかりました。そちらはお任せしても?」

「ああ」


 といっても、それほど多くは要らないだろう。あとでそれについては連絡しておくことにする。

 献立については白雪に任せるとしても、さすがに当日は忙しくなりそうだ。

 普通なら、受験生にこんな負担を強いるべきではないとは思うのだが、根を詰めてもいいことはない。

 白雪自身、料理をして、人に振舞う事それ自体が好きなので、いい気分転換にもなるだろうし、彼女の成績なら一日遊んだくらいで問題があるとは思えない。

 国立最難関とかなら少し話が変わるが――。


「そういえばなんだが。白雪って志望校どこなんだ? 聞いたことなかったが」

「あれ。そういえば……言ってませんでしたっけ。実は志望は情報系です。和樹さんにたくさん教えてもらえたので、今後も活かしたいと思いまして」


 そう言われると、教えた甲斐があったと思えて、嬉しくなってくる。


「ちなみに、第一志望は央京大です。あそこ、他とも違う感じのアプローチなので、一番気になりまして」

「そうなのか」


 となると、白雪が後輩になるということになる。

 それはそれで不思議な気持ちだ。


「あ、さすがに和樹さんの後輩になりたいから、では選んでないですよ。気になった理由ではありましたが」

「さすがにそこまでは思ってないが……ただ、うん。あそこは確かにお勧めは出来る」

「卒業生の口コミは信頼できますね」


 白雪が嬉しそうに笑う。


 しかしそうなると――。

 ふと先日、大藤教授からあった話を思い出した。

 資料によれば、仕事はオンラインでもできるが、あの研究室自体が拠点の一つとなるらしい。当然、行くことも多くなるだろう。

 そうなると、あるいは白雪と一緒に大学に通う――出勤と登校の違いはあるが――ような未来があり得るのか。


 それはそれで、どこか楽しみになってきた気がする和樹だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ