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傍から見れば歪な関係ですから

「もしかして、みんなでご飯食べてたの?」

「はい。今日はあたしの友達もいるんで」

「その中にさ、五影(いつかげ)さんって子もいる?」

「え、ハルちゃんを知ってるんですか?」

 

 俺を無視して菜摘(なつみ)と会話しだした明希乃(あきの)の口から、どういうわけか蓮琉(はる)の苗字が飛び出した。要件を確認するつもりだったのだが、流れ的に彼女が関連すると見て間違い無いだろう。

 せっかく平穏な日常が戻っていたのに。

 

「いるんだ。玖我(くが)くんさ、一体何がしたいの?」

「お前こそ何を知ってどう誤解してんだ?」

「山内くんから色々聞いたんだよね」

「なるほど。また面倒な繋がりだなこれ」

 

 蓮琉と見合い予定だった山内は、明希乃にとっても同じ学部の後輩である。今でこそ両者の関係がどの程度なのかは知らないが、大学時代は良き友人同士だった。

 先輩が見合い相手の恋人だったと解れば、山内が誰かに話したくなっても仕方がない。打ち明けた対象がコイツであったのは、俺にとって最悪だが。

 

「面倒ってなによ!? 女子高生達に二股かけるとか、人間として最低だよ君!?」

「冷静になれよ。二股だとしたら、彼女らが一緒に居る方が不自然だと分からんか?」

「じゃあ説明しなさいよ! どっちが本命?」

「うるさいなぁもう。菜摘に決まってるだろ」

「あのー……。二人とも玄関じゃなくて、マサくんの部屋にでも上がって話せば?」

 

 大の大人が揃って言い争う中、女子高生ギャルの方が遥かに落ち着いていた。

 

「そうだな。リビングは来客中だから、俺の部屋で良ければ入っても構わんぞ」

「なんか言い方がすごいムカつくんだけど」

 

 やむなくヒステリック女を自室に通し、菜摘には友人の相手をするよう促す。心配そうに俺らの様子を伺っていたが、俺が不機嫌になっていく様を見せたくないし、蓮琉に関する内容で責任を感じさせたくもない。

 茶を出すのも(しゃく)だったので、そのまま会話を進めた。

 

「山内には悪い事をしたが、見合いを断る口実として俺が出しゃばったわけだ」

「それで恋人のフリして会ったわけ?

 君はそれのリスクを承知してるよね?」

 

 もう四年近く前の話になるが、親父の紹介で知り合った女性との交際を断った事がある。その際なかなか食い下がらなかった相手に対し、打開策として明希乃に協力を要請したのだ。

 元カノとは言っても別れ方は後腐れなかったし、交友関係も続いていたので、彼女も渋々乗ってくれた。後に負担を強いる羽目になったが、一応解決はしている。

 巻き込まれた彼女にとっては、迷惑以外の何物でもなかっただろうが、その分住居の手配や、仕事についての協力はしているつもりだが。

 

「その節は助かったよ。だけど蓮琉ちゃんの件は、菜摘の頼みでもあったんだ」

「それはいつまで続けるつもり?

 親までずっと騙し続けて、誰の為になるの?」

「とりあえず蓮琉ちゃんが、自分で相手を見付けるまでとしか……」

「それってさ、菜摘ちゃんだって良い気分ではいられないよね? 優先順位考えてる?」

「んなこと言ったって、あの二人は友達同士だぞ? ここで見捨てたらそれこそ酷だろ」

 

 ああ言えばこう言うの俺に向けて、明希乃からの詰め寄り方はかなりキツい。

 睨まれながら気まずい俺の背後からは、何か物音がした。扉の向こうに誰かいるのだろうか。

 

「すみません。私についてのお話と伺いまして、立ち聞きしてしまいました……」

「あなたが五影さん?」

「はい。初めまして、五影蓮琉と申します」

「私は陸峰明希乃(りくみねあきの)。玖我くんの友人で、山内くんとも大学時代から面識があるわ」

 

 ゆっくりとドアを開けて顔を見せた黒髪少女は、とても複雑な表情をしていた。明希乃と挨拶を交わした後も、いたたまれない様子だったので、仕方なく部屋に入ってもらう。

 

「あの、陸峰さん。どうか玖我さんを責めないで下さい。全て私が招いた事態ですから」

「そうだとしても、彼には責任があるの。二つの家庭内事情に影響を与えて、後始末もせずにのうのうと過ごすのは見過ごせないわ」

「俺だってなんとかしたいとは思ってるさ」

「今すぐ対処すべきでしょ? 一ヶ月くらい経ってるけど、本当に問題は無かったの?」

「……それは、無いとは言えないけど」

 

 ギャルのクソ親父の件に、五影家が絡んでいるとは伝えられていない。知った蓮琉が責任を感じるのは火を見るより明らかだし、悪いのは少女ではないからだ。

 しかし現状を放置しておけば、繰り返さないとも言い切れない。

 

「そりゃあるわよね。私の耳にも入ってるんだから。もう恋人ごっこなんて辞めにしなさい」

 

 明希乃の発言を聞いた途端、俯いていた蓮琉は顔を上げ、強い眼差しを向け始めた。

 

「違うんです! 私がただ玖我さんと……菜摘ちゃんと一緒に居たいだけなんです!」

「あなたまさか………。もういいわ。ちょっと玖我くんと二人だけにしてくれる?」

「できません。元凶は私ですから!」

「いいからこの部屋から出て!

 ここからは大人同士の話し合いなの!」

 

 成人女性の剣幕に気圧された少女は、肩を落として退席する。可哀想だがその方がいい。

 

「本当にどうする気なのこれ!?

 二人同時に擁護し過ぎじゃない!?」

「そうするしか無かったんだよ」

「もうどっちを選んでも泣かせるレベルよ?

 君も分かってるんでしょ!?」

「選ぶも何も、菜摘を守りたいんだよ俺は」

「じゃあ五影さんの家族に謝りなさいよ。彼女の気持ちを考えたら手遅れかもしれないけど、それ以外君にやれる事は無いでしょ?」

 

 蓮琉の気持ちを考えたら……か。

 彼女は好意を抱きつつも、決して菜摘との邪魔をしないと言っていた。だがこうなってしまえば、後々二人とも傷付けかねないし、蓮琉の苦悩は深まるばかり。

 ちゃんと打ち明けて、それでも家庭に縛られない生活はさせてやれないのだろうか。菜摘の友人を守ってやりたいのに。


 悩むばかりで解決策が浮かばず、自室が沈黙に包まれる中、リビングの方から取り乱す声が聞こえてきた。菜摘以外も混じるただ事ではない騒ぎに、すぐにそちらに移動する。

 

「どうしたんだ!?」

「あ、マサくんさん!

 急にハルちゃんが泣き出して……」

 

 そこにはソファーに座り号泣する蓮琉と、膝をついて慰める菜摘の姿があった。友人達もあたふたしながら、事態を飲み込めずにいる。

 やはり明希乃が来るとろくな事がない。

 

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