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振り回されそうな予感しかしない

「ほーら、マサくんもおいでー」

「それ、悠太(ゆうた)を寝かしつけるスタイルだろ」

「そだよー。あたしが寝かしつけたげる!」

「おいギャルちゃん。

 男は夜に、獣になるってよく言うんだぞ?」

「あー知ってる知ってる。早く入んなよ」

 

 リビングに戻ると、先に来ていた菜摘(なつみ)は、もう寝床の中でスタンバっていた。笑いながら手で布団をパンパン叩く様子は、どう見ても幼児をあやす姉にしか見えない。なんか緊張していたのがアホらしくなってきた。


 菜摘が空けてくれてた隙間に入り込み、仰向けに寝転がると、なんだか右からの視線を意識してしまう。半身でこちらを向く彼女は、俺を観察しているような気がした。

 

「あのー、菜摘さん?」

「ん? 呼んだ?」

「さすがに凝視し過ぎでは?」

「見てちゃダメ?」

「別にダメじゃないけど、なんでそんなに見つめてるの? マヌケな顔してるから?」

「好きだから」

 

 このギャルを百万で買ってからというもの、それを匂わせる言動は何度も見てきたし、疑ったりもしていない。

 しかし直接言葉にされるのは初めてで、声がする方向へと慌てて首を倒した。


 薄暗い部屋の中で、目と鼻の先にいるスッピンのギャルは、僅かばかりの光をその潤んだ瞳に集めている。見ていて呼吸が荒くなるほど、普段の数倍は愛おしく思えていた。

 

「菜摘……また悪ふざけのつもりか?」

「ちゃんと言ってなかったから。

 あたし、マサくんのことが好き。大好き」

「……なんでこのタイミングなんだ?」

「怖かったからだよ」

「怖かった? なにが?」

「ハルちゃんの事は助けて欲しいけど、あたしよりも一生懸命になっちゃいそうで」

 

 ようやく彼女の心理が解ってきた。俺が菜摘に対して正面から向き合ったように、五影(いつかげ)にも肩入れし過ぎて、関係が深まることを恐れたのだろう。

 自分を見ていて欲しいけれど、似た苦しみを持つ少女を救ってもらいたい。そんな気持ちがぶつかり合って、変な行動力と不敵な態度が目立っていたのだ。

 

「俺、言わなかったっけ?

 菜摘と居る時間が、一番幸せだって」

「まだハッキリ応えてはくれないの?」

「………俺も好きだよ。前に言った三度目の正直があるなら、君しか考えられないくらい」

 

 言ってしまった。彼女はまだ女子高生なのに、本気で告白してしまった。酔っ払った状態で求婚したのとは、まるでわけが違う。お互い見つめ合ったまま、胸の内をさらけ出してしまったのだ。


 一瞬目を丸くした菜摘は、俺に覆い被さる勢いで抱き着いてくる。使い慣れたシャンプーの香りを漂わせる髪が、俺に所有感を錯覚させていた。

 もう本当に、俺だけのギャルになったのか?

 

「このまんまくっついて寝る!」

「寝られんの? その体勢で」

「でも寝るー! 明日も学校あるし!」

 

 昂ってるのか冷静なのか判断しにくい菜摘は、しがみついたまま離れる気配が無い。その細い体を優しく腕で包み込み、俺もゆっくりと目を閉じる。気付けば当初の懸念など消え失せて、安心感に抱かれたまま眠りに落ちていた。


 翌朝。何事も無かったかのように、朝食の準備を終えた菜摘に起こされ、長いこと独りで使っていたテーブルには、すでに三人が揃っている。

 だらしない(つら)して眠る家主を、できれば先に起こしてほしかったぞ……

 

「マサくーん。

 なっちゃんのご飯全部食べちゃうよー」

「勘弁して下さい麗奈(れいな)さん。

 本気で泣きますよ?」

「わぁー、どんな風に泣くのー?」

「この場で実演しろと?」

 

 朝っぱらから悪戯心満載の、年上女性にからかわれながら、その要求を拒否するように食卓へと着いた。並べられた料理は瞬く間に空になり、菜摘の登校時間がやってくる。

 

「そんじゃ、いってくる。

 ゆうちゃんのことヨロシク!」

「おう、任せておけ。いってらっしゃい」

「いってきー」

 

 普段なら菜摘は通学途中で保育園に寄り、悠太を預けたその足で学校へと向かうのだが、今日は俺が面倒を見る事にした。まぁ、今は二度寝予定の麗奈さんと共に寝室に居るが。


 リビングに残った俺は、食卓を離れず考え込む様子の黒髪少女に声を掛けた。

 

「五影さん、昨日の続きを聞かせてくれる?」

「はい。提案と言うのは、その……玖我(くが)さんに恋人のフリをして頂くことです」

「恋人のフリぃ!?」

 

 咄嗟に声が裏返ったじゃないか。いきなり何を言い出すんだこの子は……

 

「不躾なのは承知しています。

 でもこれしか方法が思い付かなくて」

「あのー……。初日に言ってた、俺に雇われるとかの話はどこいったの?」

「見合いを早められた以上、時間稼ぎはもう通用しません。彼氏がいると先方に伝えて、うちの親との信用を失くしてもらうんです」

 

 なるほど。彼女の身内にではなく、相手方に対して敬遠される口実を作るわけか。悪くない方法だし、最悪嘘がバレても関係は悪化する。でもそれ、俺の存在要らなくね?

 

「……電話じゃダメなのか?」

「もちろん電話はします。ですがその人は、直接会うまで納得してくれないかと」

 

 結局会って話しをする羽目になるのかぁ。恨みを買うような真似したくないんだけど……。

 

「わかった。君の親が本格的に動き出す前に、今日中に連絡を入れておいて。そうしたらあとは成り行きに任せるから」

「玖我さん、本当にありがとうございます!

 このご恩は一生忘れません」

「礼はこの問題を解決出来たらでいいよ」

「はい!」

 

 昨日までの神妙な面持ちは消え去り、満面の笑みを浮かべた少女。まだ上手くいくかも分からない計画なのに、ひと足早く舞い上がっているみたいだ。


 昼過ぎを待ち、相手方に連絡を入れた彼女は、どうやら予定通りに事を運んだらしい。近いうちに、恋人に会わせる約束を結んだと報告された。


 再びさらば。俺の平穏な日常………

 

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