えっ、ここってファンタジーの世界なんですか?
お母様から無事お許しを得られた私はホクホクの笑顔になった。
たが、その後お父様からちょっとした落とし穴が掘られた。
「乗馬は馬車を使わない時や誰も馬に乗らない時に練習するように。教師役は御者のモイーズにお願いしよう」
「分かりました」
貧乏になったとは言え、ウチは一応伯爵家。馬車を持っているのだ。お金かかるけど。でも、体裁とかあるから、売るわけにはいかない。もっと切羽詰まったら馬車を売って、御者や馬丁を解雇する事になるのかも。そうならない事を祈るし、そうならないように私も頑張ろう。
今のところは、生活もまだ切羽詰まるところまではいってないし、ウチで働いてくれている皆を解雇してはいないから、まだ大丈夫。ただ、皆へのお給料は下がったかもしれないけど。
他の家に移られないと良いなー。
「それで護身術だが、護身術はウチでも出来る者がいないので、教師を探してみよう。アルドも一緒に学ぶと良いと思うぞ。アルドの長期休暇に合わせて教えて貰うようにしよう」
ーえっ!
お兄様と一緒に出来るのは嬉しいけど、教師が見つかったらすぐにでも練習出来ると思ってたから、ちょっとがっかりだ。
お父様は、そんな私の心情を察したようだ。
「先生が見つかったら、練習を始める前に出来る事ややっておく事を聞いておこう」
と言ってくれた。
「ありがとうございます」
「うむ。まあ、まずは準備運動にランニングをしたら良いんじゃないか?」
「そうですね」
ーお父様、ナイスアドバイスです。
確かに練習を始める前に体力をつけておいた方が良いだろう。私は体力アップを心に決めた。
ーお父様、ありがとうございます。あと、余計なお金を使わせてごめんなさい。けど、無駄な出費をしたと言われないように頑張りますから、許して下さい。
多分、お父様はそんな事みじんも思ってないと思う。けど、私の心はちょっと痛んだ。それでも、やると決めたんだ。実際、伝令に行くにしても、何の武術の心得がないよりはあった方が良いに決まってるし。お父様達に後悔はさせないし、私も後悔しない。
「それで、シフィルはどうして急にこんなお願いをしに来たんだ?」
「えっ?」
しまった。心の中で色々考えてたから、ちょっと聞いてなかった。
「えっと、何ですか?」
「だから、どうして急にお願いをしに来たんだ?」
「ああ。それは、たくさんの人に迷惑をかけてしまったからです。そのお詫びに、私に出来る事はどんどんやって、出来ない事はどんどん学ぼうと思いましたの」
「なるほどな。それで…。だけど、これから魔術も勉強し出すのに、そんなにたくさん大丈夫なのかい?」
「えっ…?」
魔術?今、お父様『魔術』っておっしゃいました?
ええぇぇぇっ!?それって、この世界に魔法があるって事?ファンタジーの世界じゃん!!
まっっっったく記憶になかったんですけど。そんな大事な事を忘れてるなんて、私の脳みそはどうなっているんだろうか。
「『えっ?』って、もしかして覚えてないのか?シフィルも8歳になったから、そろそろ魔術の勉強を始めようと言っていたではないか」
そう言われて、その時の記憶が一気に戻ってきた。
そう!そうだった!!木から落ちた日の朝食の席で聞いてたよ。
ああ〜、私ってなんてバカ。
私は心の中で四つん這いになって項垂れた。
お馬さんのポーズになってぇ頭を下げたらぁ、『はい!このポーズの出来上がり!まあ、なんて簡単なんでしょう!』って違うわぁー!!
ちょっと心が自分のバカさに逃避して、テレビの通販番組のようになってしまった。
はぁ、余計バカさ加減が増した気がするよ。
「シフィル、どうした?大丈夫か?」
私が黙ったままいたものだから、お父様が心配していた。いや、お父様だけじゃなく、お母様もお兄様もだ。心配かけてごめん。
「だ、大丈夫ですわ。問題ありません。もちろん魔術の勉強の事は覚えておりますとも。魔術も乗馬も護身術もやってみせますわ!」
「そうか。なら良いが」
「シフィル、貴女二言はないわよね?もちろん普段のお勉強も疎かにしてはいけませんよ」
「は、はい。だ、大丈夫です…」
お母様に念を押されてしまった。
うぅ、しまった。大丈夫かな。ちょっと一度に欲張りすぎたかも。